【箱根駅伝予選会ドキュメント】17秒差薄氷突破「立教大」の戦略、78回連続出場「日体大」監督の苦悩…「次」を狙う意外な大学とは?

 異様な静けさが、昭和記念公園(東京・立川市)を覆っていた。テント前に並んだ選手たちは、ある者は肩を組み、またある者は祈るように手を握ってそのときを待っていた。選手たちの待機エリアの外側には大観衆が幾重もの人垣をつくっている。

 第10位、立教大学。10時間36分56秒――。

 司会者の声が秋晴れの空に響くと、白いTシャツに江戸紫のジャージーを履いた選手たちはその場に崩れ落ちた。「よかった」「マジでよかった」と絞り出すように声を漏らし、涙が止まらなかった。

 10月18日、第102回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)の出場枠をかけた予選会が行われた。すでにシード権を獲得している10校(青山学院、駒澤、國學院、早稲田、中央、城西、創価、東京国際、東洋、帝京)に加え、この予選会の上位10校が、新春の箱根路への切符を手にすることになる。

 予選会は駅伝形式ではなく、各校10~12人が一斉にスタートして上位10選手の合計タイムで争われる。エントリー42校、総出走選手499人の巨大レースで、ボーダー付近の大学が予選通過できるかは、結果が読み上げられるその瞬間までわからない。

 立教大学は2023年の第99回大会で55年ぶりの箱根駅伝出場を果たして以降、3年連続で本戦の切符を手にしてきた。復帰からまだ間もないが、既にファンからは「本戦に出て当たり前」の印象を持たれつつある。だが、今回はエースの馬場賢人(4年)が足のコンディション不良から出走を回避。レースも最後に追い上げられ、まさに薄氷の上を走るような展開となった。髙林祐介監督は言う。

「集団走から最後に勝負をかける大学が多い中で、うちはあえてそれをしなかった。一人一人がどれだけ粘り、1秒、2秒を削り出せるかがカギだということは大会前から話していて、何とかそれがつながったのかなと思います。(馬場選手の欠場は)選手に動揺はなくて、本戦でシードをとるために馬場抜きでどれだけ戦えるかだと思っていました。ただ、その結果がこれなので、まだまだ一人一人の力を上げていかなければならないと肌で感じています」

■17秒差で敗れた「法政大」主将の涙…

 一方、歓喜の立教大学テントからわずか数メートル。ぼうぜんとした表情で天を仰いでいる選手たちがいた。11位、法政大学。10時間37分13秒。立教大学とわずか17秒差で本戦への切符を逃した。

 本戦出場85回、近年も10年連続で切符を手にしてきた。予選会に回るのは4年ぶりで、全選手が初の予選会だった。予選会ならではの勝負勘が最後の明暗を分けたのかもしれない。それでも走り自体は悪くなく、10番目の選手のフィニッシュ順位154位は出場チーム中5番手。高い総合力を見せた。結果発表を待つ間、選手たちは「大丈夫」と声を掛け合っていたが10位までにコールされることはなかった。

 坪田智夫監督は「通ったと思った」とつぶやき、絞り出すように言った。

「整理がつかないです。流れも悪くなかった。敗因は……、ちょっと整理がつかないな。すみません」

 主将の花岡慶次(4年)も、目を腫らし、声を詰まらせながら取材に応えてくれた。

「(今年の箱根駅伝が終わった)1月3日から、今日に向けて準備はしてきたつもりです。夏合宿もここを目指して……。例年だと通るタイムで、想定通りの走りはできたと思います。ただ、他の大学がそれ以上の力をつけていて、自分たちはそれに勝てませんでした」

 10選手のハーフマラソンの合計タイムで競う箱根駅伝予選会で、十数秒の差は誤差に近い。それでも、わずかな差が例年、天地を隔ててきた。昨年は東京農業大学が10位とわずか1秒差で涙をのんでいる。その東農大は今年、6位でリベンジを果たした。2年前に衝撃の予選会デビューを飾ったエース・前田和摩(3年)は会心の走りではなかったものの、全体14位でチームをけん引した。前田は言う。

「故障もあって調整しきれなかったけれど、最低限のいい走りはできました。自分のタイムどうこうよりも、ひたすら先頭グループで粘って1秒でも稼ぎたかった。チームの雰囲気もいいし、成長を感じられました。少し体を休めたら夏の間にできなかった分の練習を積んで、いい状態で箱根を迎えます」

■日体大監督は「もう騒ぐのはやめてほしい」

 1位通過だった中央学院大学、2位の順天堂大学、3位・山梨学院大学、4位・日本大学、5位・東海大学と前評判の高かった常連校が次々と名前を呼ばれていく中で、苦戦を強いられたのが日本体育大学だ。連続出場77回の超名門。予選会前も突破を「有力」とみる報道が多かったが、10キロ通過が総合19位、15キロ通過は15位で最後まで安心できなかった。総合9位でコールされると、玉城良二監督はこう顔をほころばせた。

「4年生中心に頑張ってくれて、精神的な成長を見せてくれたのが一番うれしい。今年はコンディションもよくてレースプラン通りの走りができたけれど、他の大学も早かったよね。(暑さ対策でスタートが1時間早まったのは)学生が力を発揮するのにいい環境になったと思います」

 一方、連続出場の重圧について聞くと、こう語気を強めた。

「僕はあと10年もすりゃ死んじゃうからいいんだけど、学生は(もし出場を逃せば)今後50年は『連続出場を途切れさせた選手』って言われるんですよ。その重圧は僕にも皆さんにもわからないと思う。毎年(選手が入れ替わって)違うチームなのに、そんなこと背負わせたくない。連続出場をたたえていただくのはうれしいけれど、正直、もう騒ぐのはやめてほしいんです。学生を苦しめるだけだから」

 そのほか、7位で神奈川大学、8位で大東文化大学がそれぞれ本戦出場を決めている。

 初出場校の誕生はなかったが、「数年後」を期待させるチームは複数あった。

 日本薬科大学は過去最高となる14位。5キロ通過は2位、10キロ通過は5位で集まったファンからは「ニチヤクあるぞ」とどよめきのような歓声が上がった。これまでは留学生頼みのチームとみられてきたが、今年は留学生のデニス・キプルト(全体17位)のほか、日本人選手4人も全体70位以内でフィニッシュした。中位層が育てば、近い将来本戦に手が届くかもしれない。

 芝浦工業大学も大学最高順位を更新する18位。創立100周年となる2027年までの箱根駅伝本戦出場を目指しており、今年指導体制を一新した。監督に就いたのは98回大会で駿河台大学を初出場に導いた徳本一善氏、また、昨年まで麗澤大学を率いて2度の「次点」を経験した山川達也氏がコーチとして支える。沿道で声援を送った駅伝ファンの男性は、「絶対的なエースが出てきて全体が底上げされれば、2~3年後はおもしろいのではないか」と期待した。

■「予選会出場が目標」の大学も

 さて、箱根駅伝本戦を目指す戦いの一方で、予選会には「非強化校」と言われる、特別な強化体制を敷いていない大学も多く出場している。東京大学(総合36位)はエースの秋吉拓真(4年)が全体12位、日本人5位の快走。唯一の大学院チームである東京大学大学院も安定した走りで、学部を上回る総合34位と気を吐いた。

 予選会出場を目標に戦ってきたのが埼玉大学だ。箱根駅伝予選会の出場には、10人以上14人以下のエントリー選手全員が10000m 34分00秒以内、またはハーフマラソン73分00秒以内の公認記録を有する必要がある。学生陸上の記録としては平凡だが、長距離に力を入れていない一般大学で10人そろえるのは難しく、今年も多くの大学が出場を断念している。埼玉大学も9月中旬の段階で突破は8人だったが、土壇場で3人がクリアして予選会出場を決めた。全員が完走し、総合41位。主将の土谷飛羽(4年)はこう話す。

「10人そろえてこの場に来るのが何より大きな目標で、そこに向けて全員でサポートし合いながら練習に取り組んできました。来年に向けてまた頑張ろうと思える場でしたね。これで4年連続の予選会なので、続けていけるようにチームの力を上げていきます」

 秋の「立川決戦」を勝ち抜いた10校は、新年1月2日、3日の箱根路に挑む。シード権を持つ強豪10校と肩を並べ、シード奪還、そして上位へ、箱根への道はこれからが本番だ。

(AERA編集部・川口穣)