本人がいても進まない「生前整理」。“捨てたい娘”と“捨てられない母”をつないだ意外な品とは?

亡くなった方の遺品を整理する「遺品整理」に対して、自分が生きているうちに「使わない持ち物」や「これからの人生で必要のないもの」を整理する「生前整理」。「本人がいるからスムーズに進むはず」と感じる方もいるかもしれませんが、実際はそう簡単ではないことも多々。グループ合計で18万件もの片付けを実施してきた「遺品整理プロスタッフ」の代表取締役社長・石田毅さんによれば、思い出や価値観の違いが原因で作業が複雑化することがあるそうです。そこで今回は40代女性が依頼した実例をもとにそのリアルに迫ります。

「生前整理」のリアルとは?(※画像はイメージです。画像素材:PIXTA)

【漫画】遺品整理のリアルを漫画で読む

本人がいても簡単じゃない?「生前整理」の現実

<実録マンガ>遺品整理物語~生と死を紡ぐ家族のリアル~(漫画:西園フミコ)より

40代女性が石田さんたちに依頼したのは、80代母の生前整理です。依頼人からは、実家じまいすることになったので片付けてほしいと問い合わせが入りました。

「聞くと、お父さまが亡くなり、依頼者が80代のお母さまを引き取って同居するため実家を処分することにしたそうです。残すものを確認したら『実家は処分するのでほとんどありません』とのことでしたので、そのまま部屋をチェックして正式な契約を締結。後日片付け作業を行うことになりました」(石田さん、以下同)

そして訪れた作業当日。片付けの現場に依頼者が同席することは少ないそうですが、今回はご本人の希望もあり、依頼者の母立ち合いのもと作業を開始することになりました。

●どんどんと増えていく…「残すもの」の段ボール

引っ越し先の住居は収納スペースがせまく、持ちこめる段ボールも限られていました。

「片付けを始める前に処分するものと残すものを綿密に話し合い、『引っ越し先には段ボールはできるだけ少なく』という方針だったのですが、いざ進めると『戦時中の人間やから、捨てるのは難しくて…』と手放せないものが次々と現れ、その結果、段ボールは積み重なり、10箱、15箱と増えていってしまいました」

片付けがなかなか進まないうえに、どんどん残すものだけが増えていく…。石田さんたちが「お引越し先に入りますかね…?」と心配しても聞く耳をもたず、途方に暮れかけたそのとき…依頼者である娘さんが現場に現れました。

全然ものが減っていないことに激怒!

思い出にひたってばかりで、なかなか捨てられない母親に娘は怒り心頭! さらに、残すものが多すぎると、引っ越し先に入らないという問題のほかにも、コストがかかるという新たな問題も…。

「娘さんからすると不要なものでも、お母さまからすると大切なもの。僕たちも片付けをしながら助言や作業のお手伝いはさせていただきますが、処分の最終判断を下すのはおふたりです。そのため、このケースのように、親子で意見が合わない場合、片付けがなかなか進まないこともあるんですよね…」

親子といえど、ものの価値観は人それぞれ。必ずしも本人がいるからといってことがスムーズに進むとは限りません。では、最終的にこの親子はどうなったのでしょうか?

●ふたりを繋いだのは「思い出の品」

「こんなに残して…」と半ばあきれながら娘さんが段ボールを分別し直していると、そこには古いシュシュが1つ発見されました。じつは、2人を繋げたものこそがこの思い出の品です。

「それを見たお母さまが『それはあなたが小学生の頃に気に入ってたものだから捨てられずに取っておいた』と言ったんですね。その言葉を聞いた娘さんの目には大粒の涙。きっと、当時の幸せな思い出や記憶がよみがえったんでしょうね。そこからは、これまでの険悪な雰囲気が嘘のように順調に進み、無事に作業は完了。母子は仲睦(なかむつ)まじげに引っ越し先へと向かっていかれました」

家族ごとに紡がれる物語がある生前整理。思い出の品は、必ずしも「いい」思い出ばかりではないかもしれません。それでも、その思い出が「家族の形」をつくり、絆(きずな)を育むきっかけになることも。生前整理や遺品整理は、単なる片付け作業とは異なり、家族の時間に静かに寄り添う大切なプロセスなのではないでしょうか?