50代から始めるストレッチ&筋トレがカギ! 名医が教える「95歳まで介護に頼らない身体」のつくり方
脳神経外科・脳卒中・認知症・リハビリテーション科の専門医として、40年近くにわたり数多くの患者さんを治療してきた酒向正春先生。NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~第200回」(2013年放送)では、“攻めのリハビリ”の第一人者として紹介されました。酒向先生が目指すのは、95歳まで介護に頼らない筋肉を保ち、80歳でも8割が就労できる社会です。

50代から始めるストレッチ&筋トレがカギ! 名医が教える「95歳まで介護に頼らない身体」のつくり方
著書『筋肉革命95 何歳からでも実現できる95歳で当たり前に歩いて楽しむ人生を』では、酒向先生が考案したストレッチ運動と筋力強化訓練を組み合わせた「サコーメソッド」に加え、加齢による衰えへの具体的な対処法を伝えています。今回はその1冊から、50歳以降の女性が気をつけたい不調と、その予防・改善のヒントについて特別に一部抜粋してご紹介します!
閉経とともに骨密度が低下、どう対策する?
加齢性の骨変化で代表的なものは、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、変形性関節症、変形性脊椎症による脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)です。まず骨粗鬆症は閉経、病気、内服薬、家族歴、生活環境などで生じますが、当然、加齢で進行します。
その病態を説明します。50歳を越えると運動不足のため徐々に骨密度が低下し、骨のコラーゲンの構造が変化して骨の強度が低下します。特に、女性は閉経とともにエストロゲンの分泌が減少するので、骨吸収のスピードが骨形成を上回ってしまい、骨密度が低下することになります。このため、ちょっとした転倒などで、脊椎の圧迫骨折や大腿骨近位部骨折、前腕遠位端骨折が起こりやすくなるのです。
一度、高齢になって骨折をおこすと、骨変性や骨粗鬆症が急速に進行するので、骨折後はストレッチ運動と筋肉強化訓練を開始するいいチャンスです。動けなくなった時は、手術を含めた急性期治療とリハビリテーション治療が必須です。ここを怠ると、その後も動けなくなってしまいます。リハビリテーション治療で歩けるようになれば、ストレッチ運動と筋肉強化訓練で身体づくりを継続することが、再発予防になります。しかし、骨折前に筋肉革命を開始するのがいいのは言うまでもありません。
50歳以降は「パーソナルトレーニング」が最適
骨粗鬆症の発症には骨代謝が深く関わります。骨では、破骨細胞が古くなった骨を壊し(骨吸収)、骨芽細胞が新しく骨を作っています(骨形成)。この両者のバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ってしまうと、骨密度が低下して骨粗鬆症になるわけです。
このため、骨粗鬆症の治療には薬剤療法が有効です。しかし、骨を丈夫にするためには、運動、食事、日光浴、禁煙、節酒がとても大切です。特に骨にしっかりと荷重をかけた運動習慣は骨を丈夫にして、筋力や体力、バランス、関節可動域を向上させます。このため、50歳以降は、セラピストやトレーナーが筋肉増強を計画して寄り添ってくれるパーソナルトレーニングが適しています。マンツーマンでなくても、一人の専門家が5人までを計画管理してくれるジムなら安心です。
食生活では、骨の健康のために、カルシウム、ビタミンD(1日30〜60分の日光浴でも)、タンパク質などをバランスよく摂取します。主食、主菜、副菜の3要素も大切です。ここでの節酒とは、健康に良い程度の飲酒をいいます。アルコール量の健康に対する影響は人により異なります。そこで一般的に、健康に良いとされる純アルコール量は1日約10gです。ビールでは250ml、ワインは100ml、日本酒は90ml、チューハイは200ml、焼酎は50ml、ウイスキーは30mlになります。そんなに少ないのと思う人と、そんなに飲んでいいのと思う人がおられますが、この量を覚えて、目安にしてください。
変形性関節症も、ストレッチ運動と筋肉強化訓練で予防
次に、変形性関節症は関節の軟骨がすり減り、関節が炎症を起こして変形した状態です。痛みや腫れ、違和感、水の溜まりなどの症状が現れます。関節の酷使、肥満による体重負荷、けがなどで生じますが、加齢が最大の原因です。炎症は、股関節、膝関節、足関節、肩関節、肘関節に生じます。
急性期の治療は、関節の酷使をさけて安静にし、薬剤療法、装具・杖の使用などで関節を整えます。しかし、痛みや変形が強い場合には、手術治療が必要になります。最近では重症例にも洗練された人工関節置換術が安全に行えるようになりましたので、ご安心ください。
一方、変形性関節症も50歳からの体重調整とストレッチ運動、そして、筋肉強化訓練で予防できます。悪くなって診断された慢性期の時でも、体重調整とストレッチ運動、そして、筋肉強化訓練で疼痛や運動機能を軽快できます。しかし、治療で疼痛が改善できずに我慢できないほど重症な時は、手術治療で改善できます。
変形性脊椎症と脊柱管狭窄症も加齢によって起こる
変形性脊椎症も変形性関節症ですので、加齢により生じます。背骨の椎間板と後方の左右一対の椎間関節が退行変性して生じます。椎間板が変性するとその異常な動きを止めるように骨棘が形成されます。こちらも50歳からのストレッチ運動と筋肉強化訓練で骨棘形成を予防できます。
また、悪くなって診断された時でも、治療の基本は、体重調整とストレッチ運動、そして、筋肉強化訓練で症状を軽快できます。しかし、変形が高度に進んで椎体間架橋形成(ついたいかんかきょうけいせい)などを起こすと、慢性の疼痛や可動域制限が生じます。重症化すると脊髄の神経根を圧迫して、疼痛やしびれなどの症状が出ます。さらに、椎体変形や周囲組織の増殖で、変性脊柱管が狭窄化すると、それらの増殖組織が脊髄を圧迫するため、「脊柱管狭窄症」と呼ばれます。運動麻痺や膝が抜ける症状、そして、膀胱直腸障害などの脊髄や馬尾(ばび)の症状を発現する場合は迅速な手術治療で改善できます。症状を長期間放置すると、術後にも後遺症が残存します。
90歳で、70歳代の筋肉と骨の維持を目指そう
頸部の脊柱管狭窄症では、頸部痛や手足にしびれや痛みが生じ、手足が動きにくくなります。特に下肢に脱力が生じたら、急いで脊柱管狭窄を開放する手術治療が必要になります。遅れると、転倒して、頸髄損傷になる可能性があります。最近は90歳代でも安全に手術治療が行われて、劇的な改善が可能です。
腰部の脊柱管狭窄症では、下肢の痛みやしびれ感、脱力、残尿感や便秘が生じます。下肢の脱力が生じたら、迅速な手術治療が必要です。また、長く歩くと下肢痛が出るため、休みながら歩くことを繰り返す間欠性跛行(かんけつせいはこう)も手術適応になります。90歳代でも安全な手術で劇的に改善します。
このように、加齢性骨変化は、痛みやしびれだけでなく、四肢の動きを低下させます。その結果、社会的に孤立化することで、徐々に認知機能の低下を招くのです。
これを予防するには、50歳からストレッチ運動と筋肉強化訓練を始めることです。筋肉をしっかり鍛えることで、骨が強くなります。筋肉と骨を保ち、活動や歩行を続けることで脳に快適な刺激を送り、脳萎縮と認知機能を予防します。これが「脳筋連関」です。80歳で60歳代の筋肉と骨を、90歳で70歳代の筋肉と骨の維持を目指しましょう。出産前後の筋力や体力低下にも筋肉革命は劇的に有効ですので、是非試して継続してみてください。
※本記事は著者が書籍の内容を一部加筆し、mi-mollet向けに再構成したものです。
●著者プロフィール 酒向正春(さこう・まさはる)さん
脳卒中リハビリのエキスパート。愛媛大学医学部卒業後、1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医となる。20代30代は大学病院や総合病院の第一線で手術に明け暮れる日々を過ごし、2000年デンマーク国立オーフス大学の助教授時代に、脳が持つ自然回復力や脳科学とリハビリテーション医学の連携を学ぶ。病気の治療以上に人間回復させることが重要と考え、脳リハビリテーション医に転向する。2004年初台リハビリテーション病院で脳卒中診療科長、2012年に世田谷記念病院を新設して副院長および回復期リハビリテーションセンター長を務める。できるだけ早い段階で積極的なリハビリテーション治療する「攻めのリハビリ」を推奨し、脳神経循環代謝科学的診断に基づき確実な成果を上げている。また、ライフワークとして、高齢者や後遺症を持った人にもやさしいまちづくりの実現を目指し、「健康医療福祉都市構想」を提言。東京初台地区の「初台ヘルシーロード」や二子玉川地区の超高齢化社会に対応した都市整備にも尽力。2017年4月1日に開院した大泉学園複合施設では、回復期リハビリテーションセンター「ねりま健育会病院」と介護老人保健施設「ライフサポートねりま」、通所リハビリテーション、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援事業所の機能を有し、病院長と老健管理者を務める。2016年4月より練馬区と連携した練馬健康医療福祉都市構想委員会を始動。2040年には都営大江戸線が延伸され、病院近くに大泉学園町駅が新設され、陸の孤島から中心市街地に発展する街づくりを展開中。
写真/Shutterstock
構成/金澤英恵