59歳・川上麻衣子さん、95歳父のスマホ買い替えと八ヶ岳での「不便な環境」での気づき。「年齢に合った豊かさを見つけたい」

女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であるスウェーデンのことなどを写真と文章でつづります。今回は、95歳・父のスマホの買い替えと、年齢を重ねて感じる「便利さと不便さ」のバランスについて。八ヶ岳での滞在期間に感じた気づきなどを語ります。

95歳の父のスマホ買い替え。「簡単」なはずが…, 新品のスマホを父に渡してみると…意外なひと言が!, 便利なはずなのに、追いつけない現実, 不便な環境で感じた心地よさ。緩やかなデジタルデトックス, 便利さよりも豊かさを。年を重ねるということ、これからの生き方

【写真】生まれたばかりの川上麻衣子さんと父・最近の父

95歳の父のスマホ買い替え。「簡単」なはずが…

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川上麻衣子さん(59歳)近況。個展を開いた八ヶ岳でのひとコマ

少し前から介護施設で暮らし始め、先日95歳になった父のスマホ。老朽化したためなのか充電もままならず、買い換えることとしました。

しかしこれがなかなかに困難な作業となりました。

95歳の父のスマホ買い替え。「簡単」なはずが…, 新品のスマホを父に渡してみると…意外なひと言が!, 便利なはずなのに、追いつけない現実, 不便な環境で感じた心地よさ。緩やかなデジタルデトックス, 便利さよりも豊かさを。年を重ねるということ、これからの生き方

年齢から考えると、高齢者向きの簡単な機種がよいのだろうと、なんとなく考えながら大手家電量販店をいくつかまわってみましたが、意外にも最適と思えるものが見つからず苦戦を強いられました。

使用目的は、電話機能がメインではありますが、もともとカメラ好きであり、SNSでの交流も積極的に行なっていたことを考慮し、「いちばん操作しやすいスマホを」と若い店員さんにお願いして、買い求めました。

新品のスマホを手にした瞬間は、不思議とワクワクドキドキします。

自分のものではないにも関わらず、緊張気味にそっと電源を入れ静かに起動を開始。父に渡す前に簡単な設定をしておくためでしたが、私がもっている機種とはメーカが違うせいもあり微妙に操作手順が違います。

そうはいっても、近年のスマホには取扱説明書がついていないのが通例です。ネットで調べれば丁寧な説明を見つけることもできますが、そこにたどり着くのもひと苦労。

新品のスマホを父に渡してみると…意外なひと言が!

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カメラや機械いじりが好きな父

さて、なんとか初期設定をすませていざ父の元へ。ピカピカの最新機器に95歳の挑戦が始まります。

まずは最低限、電話を受ける方法と、電話をかける手順から説明をしてみましたが、案の定うまくはいきません。

説明しているはずの私でさえ混乱気味です。父にとっても、スマホには慣れ始めていたものの、以前より簡単な機種と言われたわりにはどうにもらちが明きません。

新品スマホの感度がよすぎるせいなのか、やろうとしている目的にたどり着く前に、何度も何度も寄り道してしまうのです。

スワイプの加減も微妙ですから、不本意に「長押し」と判断されまったく予想外の場所にまわされ、本来の「電話をかける」という単純な目的が至難の技となってしまいました。「これでは宝の持ち腐れだな」とつぶやく父。さっそく娘は、ネットで新機種の取説本を購入することにしました。

便利なはずなのに、追いつけない現実

いやはやもう、この状況、少なくとも高齢の父にとって「便利」とは言いがたい結果となっています。

けっして他人事ではなく、これからさまざまなことやものは進化を続けていきます。20年後30年後にもし私が生きていたとするならば、さらに簡単な操作で複雑なものを扱えるようになったとしてもきっと「宝の持ち腐れだわ」と私もつぶやくに違いありません。

私自身、便利にするために開発されたはずのものに、不便と感じてしまうことはすでに多々あります…。

自宅のインターネットが突然つながらなくなったときでも、どこに相談すればよいのか問い合わせの電話番号を探すことにまずひと苦労し、やっとのことで電話をしてみれば、音声ガイダンスの長い行程に導かれます。

最近では会話形式で返答を求められるため、人前ではなんとも恥ずかしい発声をしなければならないこともあります。

変化に追いつかねばならないとはわかりつつも、すぐに対応できない現実があります。

不便な環境で感じた心地よさ。緩やかなデジタルデトックス

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八ヶ岳の自然

そんな中、父のスマホ問題からまもなくして、先日仕事で八ヶ岳に長期滞在をすることとなりました。

たまたま宿泊場所にはテレビがなく、周りは静かな森に包まれていて、いちばん近いコンビニまでも歩いて40分という場所です。

はっきり言って「不便」な場所と言えるかもしれませんが、なんとその心地のよいこと!

1日の時間がゆったりとしていて、スマホはつながる環境でしたが、なるべく触らないことに。その時間は読書に代わり、緩やかなデジタルデトックスを味わうことができました。

便利さよりも豊かさを。年を重ねるということ、これからの生き方

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日々の自炊の中で、ちょっと手間をかけるのも楽しみの1つ。写真は自家製ピクルスたち

八ヶ岳での数日間で感じたのは、「不便な環境は、意外と豊かなのかもしれない」ということ。

私たち昭和世代は、世の中がみるみると便利になっていく過程を肌で感じ、ワクワクと若い頃に過ごしてきました。

新しい機械が出るたびに飛びついては、進化した機能に興奮したものです。それなのに、正直なところ進化する事柄があまりにも多くなり、この環境に少し飽きてしまいました。ちょうどよい加減の時代は、瞬く間にとおり過ぎた気がします。

若い頃は手先が器用で、どんな機械も分解してでも修理してくれた父が95歳になって抱えるジレンマは必ず私にも生きていれば訪れる現実です。

ならばまだ猶予のある今、敢えて不便を探して日々を生きてみるべきなのではないだろうか。自炊の中でのひと手間であったり、外出前に目的地をスマホではなく地図を広げて場所を確かめてみたり。

便利さよりも豊かさを求めて、年を重ねたいと痛烈に感じたのです。なぜなら、長く生きていれば私の肉体そのものが、いずれ不便になっていくことは免れないのですから。

そのことをきっと受け入れられることができるように、豊かに今このときを積み重ねたいと思っています。