競馬記者が見た『ザ・ロイヤルファミリー』(9)ソーパーフェクトはディープインパクト+ラムタラ?ロイヤルファミリーの失明危機で思い出したのはあの「独眼竜」

『ザ・ロイヤルファミリー』第9話の1シーン©TBSスパークル/TBS
俳優、妻夫木聡が主演を務めるTBS系日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(日曜後9・0)が放送中だ。競馬の世界を舞台に夢を追い続けた熱き人間と競走馬の20年にわたる壮大なストーリー。山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞をダブル受賞した、作家・早見和真氏による同名小説が原作のドラマをキャリア30年超の競馬記者が毎週の放送に合わせてレビューする。

『ザ・ロイヤルファミリー』第9話の1シーン©TBSスパークル/TBS
※以下、『ザ・ロイヤルファミリー』のネタバレが含まれます。
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第9話は、そのほとんどがオリジナルストーリーだった。原作でロイヤルファミリーは天皇賞・秋で落馬による競走中止のアクシデントに見舞われることはなく6着に敗れたが、ドラマでは、ロイヤルファミリーは左脚を骨折しただけでなく右目に「角膜実質膿瘍(のうよう)」を疾病して失明する可能性がでてきた(角膜実質とは角膜の深層部分のこと)。天皇賞で、前を行く馬が蹴り上げた芝や土がファミリーの目にぶつかって落馬を誘発、その際に細菌か真菌が右目に侵入したと調教師の広中博(安藤政信)は推測する。

『ザ・ロイヤルファミリー』第9話の1シーン©TBSスパークル/TBS
広中は、片方の目を失ってもレースを走ることは可能だし、実際にそういう競走馬はいると、ロイヤルファミリーの相続限定馬主である中条耕一(目黒蓮)に伝える。だが、続きがあった。ただ、右目を失明した馬は右回りのコースではまともに走るのは至難の業だ、と。それは、勝利を目指している有馬記念(右回りの中山芝2500メートル)を諦めるということに他ならない。
JRAの公式サイトにある「馬主情報OWNER’S INFORMATION」の「よくある質問」に「痼疾馬(こしつば)の出走制限とは」という項がある。痼疾とは、ながく治らない病気や持病のこと。JRAの回答は「1眼または両眼の失明馬は出走できません。ただし、JRAの競走馬登録を受けた後に1眼を失明した馬は、平地競走に限って出走することができます」。既にJRAのレースに出走しているロイヤルファミリーは、たとえ右目を失明しても現役を続けることは可能だ。

『ザ・ロイヤルファミリー』第9話の1シーン©TBSスパークル/TBS
実際、1979年生まれのキョウエイレア(牡)は美浦・久保田金造厩舎に入厩後、デビュー前に左目が見えなくなったが、1984年の重賞(GⅡ)高松宮杯(中京・左回り芝2000メートル)など34戦9勝を挙げた。「片目の逃亡者」「独眼竜」と呼ばれた同馬の担当厩務員だった富岡靖二さんが述懐する。
「目に入った虫を取る際、獣医師のミスで失明した。あいつは勘で走っていたので、左目が見えなくても走ることに問題はなかったね。スピードを落として逃げて、なんとかゴールまでもたせるという競馬が持ち味だった。ただ、左回りだとラチが見えるようになる1・5メートルほど外を走らなければならなかった。ラチ沿いをぴったり走れていればもっと勝てたはず。そんなハンディを克服して9勝も挙げたんだから、俺は歴史に残る名馬だと思っているよ」
筆者が週刊Gallopのデスク時代、作家の須藤靖貴氏に連載小説「ジャックポットレビュー」(単行本の題名は「リボンステークス」)を執筆してもらったとき、主人公のブリリアントリボンを左目が弱視という設定にした。モデルはもちろん、キョウエイレアだった。
ドラマでの耕一は「馬の幸せとはなにか? 現役を続けるのは僕らのエゴに付き合わせているだけでは?」といった逡巡(しゅんじゅん)を乗り越え、「ロイヤルファミリー引退」という選択肢を排除。ロイヤルファミリーは、耕一自らがフランスまで飛んで呼び寄せた辣腕(らつわん)獣医師の沢渡有希(市川実日子)によって角膜移植が成功して失明の危機を脱した。
一方、ロイヤルファミリーの主戦を務める野崎翔平(市原匠悟)は落馬で左くるぶしを骨折後、それまでの騎乗ができなくなった。自分のせいでロイヤルファミリーが勝てなかったら、同馬を生産した実家の野崎ファームを潰してしまうと苦悩。一時はロイヤルファミリーに乗れないという選択をするが、「誰かのためにジョッキーになったのか?」という栗須栄治(妻夫木聡)や「新しい自分を見つけるんだ」という佐木隆二郎(高杉真宙)らの言葉によって立ち直った。
ロイヤルファミリーが休んでいる間、椎名展之(中川大志)が所有するソーパーフェクトは2025年春のクラシック2冠(皐月賞・日本ダービー)を制した。皐月賞制覇を伝える新聞に、手綱を取ったクリストフ・ルメール騎手の「神の脚。すごい馬です」、日本ダービー制覇を伝える新聞にはルメールの「空を飛んでいる感覚だった」というコメントが画面に映った。
「神の脚」は、95年に英ダービー、キングジョージⅥ&クイーンエリザベスS、凱旋門賞を制して「神の馬」と呼ばれたラムタラが思い出される(96年11月18日にNHKが放送した「クローズアップ現代」の表題は「“神の脚”ラムタラ~馬産地日高44億円の賭け~」だ)。
「空を飛んでいる感覚」は競馬ファンなら誰もが知る武豊騎手の名言。05年の皐月賞をディープインパクトで制した際、レース後のインタビューで「走っているというよりも、飛んでいるという感じ」と語った。
つまりソーパーフェクトはディープインパクト級というわけだ。いや、椎名展之は〝ディープインパクト超え〟を目指しているようだ。ソーパーフェクトにとって3冠達成は当然で、デビューから無敗で3冠&有馬記念を制した馬はいないと聞いて「じゃあ、ウチが史上初だ」と豪語したのだ。そううまくいくのか最終回を待ちたい。
なお、ソーパーフェクトの皐月賞で使われた実際のレースはミュージアムマイルが勝った今年の皐月賞で、日本ダービーのそれはドゥラメンテが春2冠制覇を決めた2015年のダービーと思われる。(鈴木学)