阪神「2020黄金ドラフト」で下位だった村上頌樹、中野拓夢、石井大智 指名できなかった他球団スカウトの反省の弁

生え抜き選手たちがチームの中心となってリーグの覇者となった阪神。とりわけファンの間で「黄金ドラフト」「神ドラフト」と語り継がれているのが2020年のドラフト会議だ。
1位・佐藤輝明、2位・伊藤将司、5位・村上頌樹、6位・中野拓夢、8位・石井大智と、指名した5人の選手がチームに不可欠な選手に成長。高卒入団の7位・高寺望夢も藤川球児監督にチャンスを与えられて頭角を現してきた。ドラフトの歴史を振り返っても、これだけ豊作の年はなかなか見当たらない。なぜ、「黄金ドラフト」が実現したのか。
佐藤は近畿大時代にアマチュア球界No.1スラッガーと注目を集め、1位指名で4球団が競合。伊藤も社会人屈指のサウスポーで「1位で消えるのでは」という声が上がっていた。上位2人の働きぶりは期待通りと言える。想像以上の活躍を見せているのが、下位指名だった村上、中野、石井だ。
村上は3年目の23年に10勝6敗、防御率1.75で最優秀防御率のタイトルとともに、新人王とMVPを獲得。今年も14勝4敗で最多勝、最高勝率(.778)、最多奪三振(144)のタイトルを獲得し、日本を代表するエースとなった。中野は新人の21年に30盗塁で盗塁王を獲得。23年に二塁にコンバートし、3年連続全試合出場を続けている。石井は今年1勝0敗9セーブ36ホールドで防御率0.17。53試合に登板して失点はわずか1で、プロ野球記録の50試合連続無失点を継続中だ。
いずれも阪神という枠を超えて日本球界を代表する選手に進化した3人を見ると、他球団はどうして指名しなかったのかという疑問が浮かぶ。パ・リーグ球団のスカウトは、「なにを言っても言い訳になってしまいますが……」と複雑な表情を浮かべて言う。
「村上は智弁学園のエースとして3年春のセンバツで全国制覇に導きましたし、高校時代から全国区の投手でした。東洋大進学後も3年春にMVPを受賞し、この時点ではドラフトの上位候補でした。ただ4年春のリーグ戦がコロナ禍で中止になり、秋も右腕の故障で1試合しか投げなかった。即戦力の大卒投手は欲しかったのですが、最終学年のパフォーマンスを見ると判断が難しく、指名のリストから外しました。

中野は阪神に入ってガラッとイメージが変わった選手です。新人のシーズンにいきなり盗塁王を獲得しましたが、社会人時代はそこまで走塁で目立った選手ではなかった。打撃はパンチ力がありましたけど、遊撃の守備は肩が強くないのでプロでは厳しいかなと、指名のリストに入れませんでした。
石井は独立リーグの高知に所属して先発要員で投げていましたが、変化球の質と制球力を磨く必要があるように感じました。150キロを超える直球は魅力だったので、数年後を見据えて育成入団で育てるのが面白いかなと。同じように考えていた球団はあったと思います。大化けする可能性を秘めていましたが、まさか日本記録を樹立するリリーバーになるとは想像できなかったですね」
■当時の矢野監督が指名を希望
阪神を取材していたスポーツ紙記者は「当時の矢野燿大監督の功績が大きい」と強調する。
「村上、中野の映像を見て、球団に指名するよう希望したんです。スカウトたちも2人の実力を評価していましたが、矢野監督が後押ししてくれたので指名しやすくなった。あとは本人たちの努力ですよね。村上はプロ2年間で1軍では2試合登板のみでしたが、岡田彰布元監督に抜擢された23年に先発ローテーションに定着して最優秀防御率、MVPのタイトルを獲得して大ブレーク。中野も近本光司という良きお手本を参考にして、走塁技術を磨き、早打ちだった打撃スタイルから四球を選べるようになった。守備位置も遊撃から二塁にコンバートされ、2度のゴールデングラブ賞を受賞しています。他球団に入団したら、同じように活躍したか分からないですよ」
下位入団の選手が活躍すると、他球団のリサーチ能力に疑問を呈する声が出てくるが、全国に配置されたスカウトたちは担当地域の高校、大学、社会人、独立リーグの試合、練習場に足しげく通っている。バックネット裏や映像で選手たちの動きを何度も見て確認し、球団に推薦するかどうか判断する。在京球団のスカウトがこう語る。
「指名しなかったから実力を評価していないというわけではありません。球団に推薦しても先に他球団に指名されたり、チーム事情でその選手のポジションの優先順位が低かったりしますから。こればかりは巡り合わせです」

■「阪神に先に指名された」と悔やむ選手
このスカウトは、20年のドラフトで「欲しかったのに先に阪神に指名された」と悔やんだ選手がいたという。村上や中野、石井ではない。4位指名だった捕手・栄枝裕貴だという。
「立命館大の時に見ていましたが、肩が強く打撃もコンタクト能力が高い。キャッチングも巧かったし、上位指名で消えても不思議ではない選手でした。残っていてくれと思いましたが、阪神が4位で指名した。僕は早い時期から、栄枝が当時の阪神の主戦だった梅野隆太郎を押しのけて、正捕手になる可能性があると感じていました。坂本誠志郎が球界を代表する捕手に成長し、伏見寅威が今オフに日本ハムからトレードで加入したことで厳しい立場になりましたが、岸田行倫(巨人)のように攻守で能力が高い捕手なので気になりますね」
将来の正捕手候補と期待された栄枝だが、プロ4年間で1軍では通算12試合出場にとどまっている。今年は「第3捕手」の位置づけでシーズンの大半を1軍で過ごしたが、出場は8試合のみ。3試合で先発マスクをかぶったが、存在をアピールするまでには至らなかった。27歳で若手とは言える年齢ではなくなり、来年は背水の陣のシーズンとなる。
栄枝が同期入団の仲間たちに負けられないと1軍の主力になる働きぶりを見せれば、「黄金ドラフト」の輝きはさらに増す。同時に阪神の戦力はさらに盤石となり、リーグ連覇が近づくはずだ。
(ライター・今川秀悟)
・阪神「黄金時代」構築の最大の障壁は主力のメジャー流出 才木が挑戦報道、佐藤輝も挑戦公言
・阪神・佐藤輝明の後継者はドラ1の立石だけではない 他球団が警戒する意外な「スラッガー候補」の名前
・独走優勝・阪神の光る「見切り力」 藤浪、青柳に獲得オファー出さず、FA補強なしで常勝軍団へ