トランプ氏側近の「黄金郷」ロシアに潜む危険

ロシア・ノビウレンゴイ近郊にある天然ガス田の掘削リグ

ドナルド・トランプ米大統領の特使として、ウクライナ戦争を終結させるための取引をまとめようとしている富豪のスティーブ・ウィットコフ氏とジャレッド・クシュナー氏にとって、ロシアは天然資源と商機にあふれる国だ。

両氏の公の場でのコメントや彼らの考えに詳しい関係者の話によると、ロシアを世界経済に再び迎え入れれば、米国の投資家が利益を得られる上、ウクライナ、欧州それぞれの対ロシア関係も安定するという。

ロシアを豊かな恵みの国と考えたり、利益を通じての平和を支持したりする米国の実業家はウィットコフ氏やクシュナー氏が初めてではない。

しかし、ロシアの不安定な経済を見てきた多くの経験者は懐疑的な見方をしている。ロシアが米国の資本に気前よく報酬を与えるとの期待にも、米国政府が制裁を解除したとたんに多くの米国人投資家がウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアに押し寄せるという見通しにもだ。

「ロシアは(「オズの魔法使い」に登場する)エメラルドの都でも黄金郷でもない」。地政学リスクのアナリストで、40年にわたって旧ソビエト連邦とロシアで仕事をしたチャールズ・ヘッカー氏はこう話す。「得られるものは一部の人が考えるよりも小さい」

エコノミストによれば、イタリアと並ぶ2兆5000億ドル(約391兆円)の経済規模を持つロシアは、長期的な成長見通しの弱さや人口減少、採取が容易な石油埋蔵量の減少、そしてエネルギー以外の成長けん引役の不足に直面している。

トランプ米大統領の娘婿クシュナー氏とウィットコフ氏(手前)

それ以上に深刻な問題は、投資家が資産を失い、刑務所送りにさえなるリスクがあることだと、ロシアでの経験が豊富な米国人投資家は言う。独裁主義や国家主義にますます傾くロシア政府は法の支配を欠き、契約の条件を書き換え、資産を没収し、疑り深い目で西側を見ている。

「Zero Sum: The Arc of International Business in Russia」の著作もあるヘッカー氏は、ウクライナ戦争が解決しても、西側に対する敵意の循環は断ち切られず、外国企業は恒常的な地政学的不確実性を背負うことになると指摘する。

「プーチンがクレムリン(ロシア大統領府)にいる限り、西側に対するロシアの漠然とした敵意は残る。おそらくそれ以上に長く残るだろう」とヘッカー氏。「突然、西側企業が大歓迎されると考えるのは賢明ではない」

ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は今秋、同様のことを示唆した。ペスコフ氏は経済フォーラムで「誰もが再び参入を許されるべきだ」と述べた。「ただしそれは非常に高くつくだろう」

危ない橋

ロシア中央銀行の元当局者で、現在はベルリンにあるカーネギー・ロシア・ユーラシアセンターの研究員を務めるアレクサンドラ・プロコペンコ氏によると、企業が再びロシアに押し寄せるという考えは根拠のない話だという。「普通の外国人投資家にとって、ロシアはまだ投資できない国だ」と同氏は話した。

制裁が解除されれば、現地で大した投資をしなくても、ロシアに商品を売ることができる輸出業者がロシアに戻ってくる可能性がある。ただし、多くの業者は、自動車やスマートフォンを含むロシア市場の多くを支配している中国からの輸入品と競争することになる。

ロシアによるウクライナへの全面侵攻後に資産を接収された投資家は、資金の一部を取り戻そうとするかもしれない。米石油大手エクソンモービルはサハリンの石油・ガスプロジェクトへの復帰について、ロシアのエネルギー企業幹部と協議している。エクソンは2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、同プロジェクトに関して46億ドルの評価損を計上した。

サハリン島の液化天然ガスプラントで燃焼するガス

「北極圏にある大きなガス田など、他にはない資産があれば、企業がそうした資産を利用するための選択肢の確保に動いたとしても私は驚かない」。プライベートエクイティ(PE)投資会社ベアリング・ベンチャーズの会長で、30年にわたりロシアに投資してきたマイケル・カルベイ氏はこう話す。

「だが、今後何年も数十億ドルの資金を実際の投資につぎ込み始める人がいたら私は驚くだろう」

カルベイ氏は投資の抑止要因として、ウクライナでの戦争が再開されたり、ロシアが欧州とハイブリッド戦争を始めたりして制裁が再び科される可能性があることを挙げる。ロシアで商売をする個人としての危険もある。

カルベイ氏はロシアで最も著名な米国人実業家の一人だった。同氏が経営していたベアリング・ボストークはロシア版グーグルと言われるヤンデックスなどのテクノロジー企業に融資していた。ロシア政府と関係がある投資家とビジネスで対立していたカルベイ氏は2019年、ロシア連邦保安局(FSB)に逮捕され、投獄された。

カルベイ氏は資金横領――でっち上げというのが大方の見方だった――で有罪判決を受けたが、判決はのちに破棄された。同氏はウクライナ侵攻後にロシアを離れた。戻る予定はないと話している。

ロシアには才能あるテクノロジー起業家だけでなく、貴重な天然資源も確かにあるとカルベイ氏は言う。「しかし、私が被害を受けたような構造的リスクもロシアにはある」

裁判所を後にするマイケル・カルベイ氏(モスクワで2021年)

ロシアはウクライナへの侵攻開始以降、国内経済への締め付けを強化しており、国内外の投資家から財産を没収してプーチン派の実業家に与えている。モスクワの法律事務所ネクトロフ・サベリエフ・アンド・パートナーズによると、没収された資産は今夏の時点で約490億ドルに上る。資産国有化のペースは加速している。

米国に拠点を置く非営利団体の幹部パベル・ホドルコフスキー氏によれば、米国人投資家が関わる取引がプーチン氏の承認を得ても、維持されるのはトランプ氏の大統領在任期間中だけかもしれないという。「プーチン氏は自分が約束した相手に対してだけ、約束を守る」。ホドルコフスキー氏の父親のミハイル氏は、プーチン氏と対立後、2003年に逮捕・投獄されるまでロシアで最も裕福なオルガルヒ(新興財閥)だった。

ロシア北極圏などへの外国からの資本集約的投資は初期コストがかさみ、利益を得られるのは何年も先になるとの見方をホドルコフスキー氏は示した。投資家はロシア政府の長期的な友好的姿勢を確信していなければならない。

「インフラや物理的資産が絡むものは何であれ、許容できるレベルのリスクではないと思う」とホドルコフスキー氏は話した。

一方で、ロシア投資が利益を生む可能性があると主張する人たちもいる。「問題は、このタイミングでロシアとビジネスをするべきか、ということだ」。こう語るのは、米テキサス州ヒューストンに拠点を置くエネルギー会社幹部で、ロシアの石油企業TNKで長年、財務ディレクターを務めたアラン・ビッグマン氏だ。

「もちろん、最終的にはロシアを世界経済に復帰させるべきだ。ロシアが攻撃的でなくなれば、世界と経済的に結びつくことは大いに納得できる。しかし、ロシアが隣国に侵攻したり脅しをかけたりしているときにそうするべきではない」とビッグマン氏は言う。プーチン氏がかつて西側との貿易を利用して軍隊を増強したと、ビッグマン氏は指摘。ほとんどのロシア専門家は、プーチン氏が同じことを繰り返すと予想している。