育児中の小児科医は住む場所を何で選ぶか

共働き子育てしやすい街ランキングを評価する, 上位5自治体でも異なる「もの」, なぜ自治体によって違うのか, 医療費無償化が子どもに与える影響, ふらいと先生はこう思う

育児中の小児科医は住む場所を何で選ぶか

育児中の小児科医が住む場所をどうやって決めるのか?について最近聞かれる事が多いので、今回まとめようと思いました。

確かに特に自分としては意識してなかったですが、面白いテーマだと思います。

共働き子育てしやすい街ランキングを評価する

毎年恒例となった「共働き子育てしやすい街ランキング」が今年も発表されました。

この調査は、共働き子育てを巡る現状と課題を明らかにする目的で15年から毎年実施しているようで、今年で11回目だそうです。

首都圏、中京圏、関西圏の主要市区と全国の政令指定都市、道府県庁所在地、人口20万人以上の都市の計180自治体を対象に25年9~10月に実施しました。

市区役所の正規職員における管理職の女性比率や、男性職員の育児休業取得率、女性議員の割合など、自治体のダイバーシティ推進も含めて計43の評価項目を作成して採点し、100点満点で総合ランキングを作成しました。

日本には自治体が1790個あるようなので、回答は159自治体から得たものですから10%弱しかないというのは結果の解釈が必要そうです。

2025年版「共働き子育てしやすい街ランキング」 総合編1位は品川区

結果は以下の通りになりました。

共働き子育てしやすい街ランキングを評価する, 上位5自治体でも異なる「もの」, なぜ自治体によって違うのか, 医療費無償化が子どもに与える影響, ふらいと先生はこう思う

特にトップ5の自治体はニュースでも度々話題になる程なので、皆さんも納得かもしれませんね。では小児科医の視点から1つずつ評価してみたいと思います。

1位. 品川区

1位に品川区が来たのは個人的には納得です。これは自治体として充実した子育て支援策を積極的に展開してきたことがあるからです。

まず全国でまだ10%台しか利用率のない産後ケアの支援が手厚いです。出産後の母親をサポートする専門家「産後ドゥーラ」の利用料を、第1子で最大60時間、第2子以降では最大180時間(上の子が3歳未満の場合)まで区が補助しています。

また0歳児のいる家庭を対象に、月1回約3,000円のオムツなど育児用品を届ける「見守りおむつ定期便」を実施し、育児用品の支給を通じて家庭の見守りも行っています。

学校支援にも熱いです。小学校の一部で朝7時30分から校舎を開放し、朝食をとっていない児童には無料でパンを配布したり、放課後の学童保育「すまいるスクール」は区内37か所で展開され、17時までの利用料が無料です。

また物価高対策として無償化のオンパレードです。2025年夏には小学1年生~高校3年生相当の子ども一人につき2kgのお米を所得制限なく児童センターで無償配布、2024年度から小中学校の学用品を所得制限なしで無償化し、2025年度は中学校の修学旅行費を無償化、2026年度には中学校の制服も無償配布と今後も続きます。

一方で、効果のないオーガニック製品を区立小中学校の給食の野菜に取り入れる事も検討されており、これに関してはちょっと残念な気もします

区立小中学校の給食の全野菜をオーガニックに 東京・品川区:朝日新聞

2位. 福生市

東京都の福生市が個人的に素晴らしいなと思っているのは、市内全ての保育園で医療的ケアが必要な子どもを受け入れ可能な体制を整備している事です。保育園の医療的ケア児は手もかかりますから大変なので、全保育園で導入するのはなかなかできる事ではありません。自分も他の市で多くの保育園に断られてきました。多くの理由は「前例がない」という事です。

その他、保育所・幼稚園の3~5歳児クラスで給食費を無償化したり、学童保育は最長で19時以降まで預かり可能、市内3カ所の学童では夕食まで提供していて、長時間労働で共働きの親御さんには嬉しいですね。

小児医療体制で見れば、公立福生病院を中心とした公的医療機関と複数の民間クリニックによって構成されていて、基本的な小児急性期医療から専門的な対応まで、地域の医療需要に応じた診療体制が整備されており、市内で完結するという恵まれた状況にあります。また、福生市を含む西多摩医療圏では、小児救急への対応体制が整備されています。また、3次救急対応が必要な場合は都立小児総合医療センターなど近隣の高度医療機関への円滑な紹介体制が構築されており、バックトランスファーやトライアングルトランスファーも行われていて連携がスムーズです。

3位. 松戸市

千葉県の松戸市も人気がありますね。市内28カ所の地域子育て支援拠点に市認定の子育てコーディネーターを常駐させ、子育て相談対応や乳幼児の一時預かりサービスを提供しています。また、保育の受け皿に余裕がありますね。医療的ケア児受け入れのための人件費補助や施設改修補助を行うほか、学童保育には希望者全員が入れる状況を確保されています。

2025年度には多胎児家庭支援として、タクシー利用料の補助(1回上限2,000円、年30回まで)や双子用ベビーカー購入費の補助(費用の1/2、上限3万円)など新たな施策も導入していく予定です。

松戸市は個人的に松戸市民病院の小児科が壁の厚さで知られていて、小児救急も強くて、住んでいる子育て層は子どもに何かあっても安心ですよね。

4位. 宇都宮市

宇都宮市は、保育の受け皿の確保だけでなく、登園・お迎えという共働き家庭の最大のボトルネックに正面から手を入れているのが特徴ですね。

JR宇都宮駅近くの送迎保育ステーションから保育士が添乗するバスで保育所へ送迎する仕組みを設け、保護者の送迎負担を軽くしています。

しかも驚くことに病児保育でも、保護者に代わって送迎する仕組みがあるというのですから驚きます。病児保育に送迎支援があるのは、子どもが必要な休養を取りやすくしますし、働く親御さんも楽になりますよね。何せ、病児保育を展開している施設が家の近くに必ずしもあるわけではないので、地味に助かります。

共働き子育てしやすい街ランキングを評価する, 上位5自治体でも異なる「もの」, なぜ自治体によって違うのか, 医療費無償化が子どもに与える影響, ふらいと先生はこう思う

5位. 神戸市

神戸市は明確に「病児」「放課後」「長期休暇」の3点に、しっかり予算付けしているのが印象的です。2025年に病児保育施設を新規整備し、補助も拡充する方針が示されています。また学童保育では、学校の共用利用や専用スペース整備によって実施場所を確保、夏休みだけの受け入れ施設数を20箇所から50箇所に拡大するなど、需要の波が大きい時期を狙った手当ても進めています。さらには夏休みに子どもたちへ昼食提供の拡大も狙っていると言いますから驚きです。

神戸市は病児保育の拡充もいいですが、「昼食提供」や居場所づくりに積極的なのがいいですね。長期休暇中の栄養・生活リズム・安全に直結することが見えてわかります。

どれもこれも素晴らしい取り組みですね。

上位5自治体でも異なる「もの」

小児科医は普段子どもを診ているプロ集団です。子どもの医療の事は日本一精通している職種といって良いでしょう。

そんな我々でも自分の子どもを持つとよく話題になるのが「どこに住むか」です。

子どもの事を知っているからこそ、当然ですが我が子にも良い恩恵を受けさせたい。そう願うのは当たり前ではないでしょうか。

では住む地域をどうやって決めているか。それはあるポイントがあります。

先ほどの上位5自治体を見てもランキングの中でもその中での差は大きいです。もちろん職場から近いところというのはありますが、我々の業界で話題になるのは一つ。

それは「医療費助成制度の違い」です。

先ほどの5自治体を見てみましょう。

子育てに手厚いと評判の神戸市ですが、医療費の無償化は当然0歳~高校3年生(18歳到達後の最初の3/31まで)を対象とし、所得制限なしの制度として案内されています。しかし、窓口負担は年齢で設計が分かれ、たとえば高校生の外来については「1医療機関・薬局ごとに1日最大400円、月2回まで(3回目以降は自己負担なし)」といった上限付きの自己負担ルールが示されています。

つまり自己負担が残っています。

また松戸市民病院のある小児医療の鉄壁な松戸市も、対象年齢は0歳から高校3年生相当年齢までと広い一方、保護者の自己負担として通院1回200円、入院1日200円が設定されています。まあ一日数百円なんて安いと言えば安いのですが。。

さらに東京都の福生市は、東京都のマル乳・マル子・マル青(後述)の枠組みに加え、市独自でマル子・マル青の一部負担金(自己負担)も補助し、福生市は「18歳3月末まで対象だが、小学生~高校生は1回200円まで自己負担あり」とされています。

そして1位の品川市は、0歳~高校生相当年齢(18歳到達後の最初の3/31まで)を対象に、都内医療機関で医療証を提示すれば保険診療の自己負担分の支払いが不要となる仕組みを持っています。さらに入院時の食事代も女性に含めていて、自治体差が出やすいポイントを押さえています。

その他に手厚い助成を実施している自治体は、福島県(福島市)、栃木県(宇都宮市)、群馬県(前橋市)、東京都(千代田区)、山梨県(甲府市)、愛知県(名古屋市)の6市と言われていて、18歳未満の子ども医療費について入院・外来ともに所得制限や自己負担なしに完全無償化となっています。

これらを考えると、ランキング上位に入ってくる地域もありそうですね。

なぜ自治体によって違うのか

子どもの医療費を見ると、自治体全てで同じではありません。

子どもの医療費を簡単に説明します。

皆さんご存知の通り、日本には「小児医療費助成制度」があります。全ての都道府県と市区町村で独自の助成が実施されている制度で、子どもが医療を受けたときの医療費負担を軽減する仕組みになっています。

日本の医療制度では、保険診療の自己負担割合が決まっており、子どもは通常3割を自己負担する必要があります。小児医療費助成制度は、この自己負担分を自治体が補助する仕組みです。公的医療保険が医療費の7~8割を負担し、残りの2~3割の自己負担を市区町村が補助することで、保護者の経済的負担を軽減しています。

制度は対象年齢によって複数に分かれており、通常は以下の3つで構成されています。

1. 乳幼児医療費助成制度(マル乳医療証)

生まれから小学校入学前までの乳幼児が対象です。健康保険が適用される医療費の自己負担分(本来2割)が全額助成されるため、多くの場合実質無料となります。

2. 義務教育就学児医療費助成制度(マル子医療証)

小学1年生から中学3年生までが対象です。通院の場合は1回200円を上限として自己負担し、それを超える医療費は全額助成されます。入院の場合は自己負担分の3割全額が助成されます。なお、入院中に病院でかかる食事代は自己負担となります。

3. 高校生医療費助成制度(マル青医療証)

高校生年齢までの児童を対象に、一部の自治体で実施されています。

このように全国で子どもの医療費に関しては、全国の自治体によって何らかの補助が出されています。

ただ、ここで注意が必要です。

小児医療費の助成はこの令和になっても住む地域によって異なります。意外と知られていないですよね。このように助成内容が自治体によって大きく異なるため、引っ越した場合に受けられる助成が変わることがあるのです。

では何が違うのでしょうか?

まずは対象年齢が異なるケースです。

都道府県では、通院では「就学前まで」を対象とする自治体が最も多く、その次に「15歳の年度末まで」の自治体が多くなっています。一方、市区町村は自治体によって差が大きく、なんと驚くことに「15歳の年度末まで」(約59%)を助成する自治体が最多です。高校生になったら自己負担が発生するのも持病があるお子さんだと辛いものです。

さらに自己負担の程度も違います。

全国の都道府県のうち、9県は医療費を全額補助(自己負担なし)としており、残りの37都道府県では何らかの一部負担が設定されています。市区町村レベルでは、約73%の自治体(1,266/1,741)で自己負担がない(現物給付)方式を採用しており、約27%の自治体で一部自己負担が残っています。

このように差がある現状ですが、全国でこれだけ差があるのは制度設計の「主体」と「財源」が自治体任せになっているからです。

国の法律で一律の基準が決まっているわけではなく、「対象年齢」「自己負担の有無」「所得制限の有無」「現物給付か償還払いか」など、ほぼすべてを各自治体が自由に決められるため、自治体ごとに大きなバラツキが生じます。

そのため、財政余力が乏しい自治体では「所得制限をかける」「一部自己負担を残す」「対象年齢を就学前までにとどめる」といった形で、高齢者福祉、インフラ整備など他の政策とのトレードオフの中で抑制的な設計になりがちです。

そのため、「18歳までの全国一律無償化」を国制度として創設し、居住地による格差を是正すべきだとする知事会・政党・専門家からの提言が繰り返し出されている状況なのです。

医療費無償化が子どもに与える影響

医療費の無償化は子どもを持つ立場から嬉しいのは間違いありません。

しかし、社会全体としてみた時に本当に子どもの健康に良い事をしているのでしょうか?

実は日本では、小児医療費助成制度が3割(あるいは2割)から無料へと劇的な変化した歴史があり、これを「自然実験」的に利用した精度の高い研究が行われています。

実は、早稲田大学のKangらによる2022年の研究では自治体ごとに助成の開始時期や対象年齢が異なることを利用した「差分の差法」を用い、因果推論を行いました(#1)

分析の結果、医療費の実質無償化は、外来医療の利用を統計的に有意かつ大幅に増加させることが明らかになりました。受信間隔も短くなり、再診患者数も増加、月の医療費も拡大するという結果となりました。

この結果は実は他の研究でも強く支持されています。

東京大学の飯塚・重岡らによる研究では、レセプトデータ(診療報酬明細書)を用いた分析を行い、自己負担が3割から0割になった場合、月間に少なくとも1回以上外来を受診する確率が6〜8パーセントポイント上昇することを見出しました。これは助成なしの状態から比べると19〜25%の増加にあたります。

彼らは別の論文でも、違う効果にも言及しています(#3)

彼らは、風邪やインフルエンザといったウイルス性の疾患(抗生物質が効かない疾患)に対して、抗生物質が処方される頻度を分析しました。

分析の結果、医療費が無償化された環境下では、本来必要のない抗生物質の処方が有意に増加していることが明らかになりました。

さらに、当時慶應義塾大学の加藤氏らによる2017年の研究では、DPC(診断群分類包括評価)データを用いて興味深いデータを出しています。

所得の低い地域では、外来医療費の助成を拡大したところ、子どもの入院件数が減少しました。これは、経済的な理由で受診を控えていた層が早期に外来を受診できるようになり、重症化を防げたことを示唆しています。

一方で、所得の高い地域では、何と逆に入院件数が増加していました。これは、外来受診の頻度が増えたことで、医師による詳細な検査や診断の機会が増え、結果として、必ずしも緊急ではない検査入院や待機的な治療入院が掘り起こされたことを示唆しています。

さらには、福間・高久らの研究チームは、全国規模のレセプトデータ(JMDCデータ)と、保険者が保有する正確な世帯年収データをリンクさせた独自のデータセットを構築して、所得別に医療の利用具合がどう変わるかを検討しました(#5)

分析の結果、医療費が無償化された際の受診行動の増加幅は、低所得世帯よりも高所得世帯で顕著に大きいことが判明しました。低所得世帯では無償化により、年間外来受診日数が +2.64日 増加し、外来医療費は +154ドル(約1.5-2万円) 増加していましたが、高所得世帯では無償化により、年間外来受診日数が +5.96日 増加し、外来医療費は +511ドル(約5-6万円) 増加していたのです。

つまり、高所得世帯は低所得世帯に比べて、2倍以上も無償化の恩恵(追加的な医療サービス)を受けていることになるのです。

ふらいと先生はこう思う

今回は、子どもの小児医療費助成について深掘りして解説しました。小児医療費助成制度は令和の今になっても自治体毎に自己負担が異なることも解説しました。さらには、国内データを用いて小児医療費助成は所得の低い世帯では効果的である一方、所得の高い世帯では不必要な入院を多くしたり、不必要な外来受診が増えている事が示されています。

これらは意外と医療者の中でも知られていない、子どもの医療費助成における国内の貴重な研究結果です。

このように小児医療費助成によって「高所得者が受診行動を大きく変えていて、必要のない検査入院や待機的な治療入院が増えた」という事実を考えると、全国一律に子どもの医療費無償化を目指すのは子ども達の健康や医療費にとって良い事をしているのかは慎重に考えないといけません。

エビデンスだけを考えると、所得制限をかけるのは子どもの健康や医療費の事を考えると「妥当」であるというのは明らかですが、今は少子化社会であり子どもに優しい自治体が素晴らしいという世論の中で、判断できる自治体は少ないと思います。子どもが少ないのに、所得制限だなんて!という気持ちもわかります。確かに所得制限は子どもの立場から考えると「僕たち私たちの権利でしょ!知らんがな」という話になりますよね。なので今のご時世で所得制限は現実的ではないと思います。

まあ無理もないと思います。私も含めて小児科医達も自己負担の低いor無い自治体を住む地域に選んでいるわけですから。。ただ、知っておいても良い研究データだとは思っています。

医療費がどんどん膨れ上がっているこのご時世に、子どものこう言った問題にメスが入らない事を祈るばかりです。

今回も長文を読んでいただきありがとうございました。

参考文献

#1. Kang C, et al. Does free healthcare improve children's healthcare use and outcomes? Evidence from Japan's healthcare subsidy for young children. Journal of Economic Behavior & Organization 2022;202(2):372-406

#2. Iizuka T, Shigeoka H. Is Zero a Special Price? Evidence from Child Health Care. American Economics Journal; Applied Economics 2022:14(4):381-410

#3. Iizuka T, Shigeoka H. Free for Children? Patient Cost-sharing and Healthcare Utilization. NBER Working Paper, 2018 No.25306 https://www.nber.org/papers/w25306 (2025/12/15最終確認)

#4. Kato H, Goto R. Effect of reducing cost sharing for outpatient care on children’s inpatient services in Japan. Health Econ Rev. 2017;7:28

#5. Fukuma S, et al. Effect of no cost sharing for paediatric care on healthcare usage by household income levels: regression discontinuity design. BMJ Open 2023;13(8):e071976

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