「巨額の子育て予算」が少子化対策にならない実態

2025年は「最後の望みの丘」だった, 東京の婚姻数は2年連続の増加だが…, 東京の未婚率は全国トップクラス, 子育て支援政策をしても止まらない少子化

(写真:Peak River/PIXTA)

2月末、厚生労働省から人口動態統計速報値が発表され、2025年の出生数は70万5809人で10年連続で過去最少となったとニュースやSNSで話題となりました。

【画像】日本の出生数はこれほど急激に低下している

ただし、留意したいのは、あくまでこの速報値は外国人も含んだものであり、日本人だけの出生数は今後の確定報の数字を待つ必要があります。私の推計では、67.1万人ということに落ち着くと見ています。辛くも67万人を下回ることは回避できそうですが、少子化の流れは止められてはいません。

一方で、この速報では、出生数が前年比2%減だったのに対して、婚姻数は1%増でした。出生数は婚姻数に依存しますから、婚姻数が増えたことは次年度以降の出生数に期待が持てるという見方もあります。

が、人口動態のメカニズム的には、2025年で婚姻数1%増では足らないし、本当は出生数もプラスに転じていないとならない理由があります。

2025年は「最後の望みの丘」だった

戦後日本では二度のベビーブームの山がありました。

一度目は戦後まもなくの頃(第一次出生の山)、二度目はそこで生まれた子どもたちが1970年代に結婚適齢期を迎えたことによるもの(第二次出生の山)です。ここでは年間で200万人もの出生がありました。本来ならば、第二の山で生まれた子どもたちが、1995年あたりから第三の山ができるはずという期待がありましたが、その3つ目の山はできませんでした。ちょうどバブル崩壊後の不況と就職氷河期にあたる時代でもあり、若者は結婚どころではなかったからです。

しかし、それでも圧倒的に多い若者人口のおかげで、その頃年間出生数110万人程度がコンスタントに続きました。山こそできませんでしたが、小さな丘はできたわけです(幻の第三次・期待外れの丘)。

そして2025年は、その小さな丘で生まれた子どもたちが結婚適齢期を迎える時にあたります。いわば、若者人口の塊がある最後の世代であり、ここで「最後の望みの丘」を作れるかどうかがポイントでもあったわけです。事実、社人研の「2023年将来人口推計」においては、この望みを加味した推計がされています。

しかし、速報値で明らかになった2025年の出生数見込みは、中位推計の74.9万人には遠く及ばず、最悪ここまで以下には下がらないだろうという低位推計の65.8万人をわずかに上回る程度です。そう考えるととても「良い兆し」とは言えないわけです。

もちろん、出生数が伸び悩んでいる要因には、2020〜2022年にわたって続いたコロナ禍の影響もあります。結婚の延期を余儀なくされただけではなく、若者にとっては、そもそも貴重な出会いの機会を奪われた「恋愛ロックダウン」期間でもありました。本来、婚姻と出生の丘ができるはずだった時期にこれがあったことで、推計32万組の結婚と45万人の出生が失われたと推計できます(参照→32万組の結婚が失われた結果…「出生数過去最少70万人割れ」を騒ぐ人に欠けている視点)。

2025年は「最後の望みの丘」だった, 東京の婚姻数は2年連続の増加だが…, 東京の未婚率は全国トップクラス, 子育て支援政策をしても止まらない少子化

東京の婚姻数は2年連続の増加だが…

とはいえ、そんな中で、速報値の都道府県別では、東京と石川だけは婚姻も出生もダブルでプラスでした。特に、東京の婚姻数は2年連続の増加で、2025年は前年比4.8%増。

都が発表した「都における出生数・婚姻数の増加に関する見解」では、2024年から25年にかけて増えた全国の婚姻数5657組のうち、7割を占める3911組が東京であるデータを提示し「東京が出会いの場となっており、全国の婚姻数増を牽引」と記しています。

確かに、数字はその通りなのですが、その解釈には留意が必要です。東京の婚姻数構成比が大きいのは、結婚適齢期人口が多いことと、逆に言えば、東京以外のエリアの婚姻数が増えていないため、結果として東京の構成比が高まっただけかもしれないからです。

以下は、速報値ベースで、東京、首都圏三県(埼玉、千葉、神奈川)、地方4大都市(愛知、大阪、兵庫、福岡)、その他の39道府県に分けた場合で、それぞれ婚姻数と出生数の前年比増減を比べたものです。

2025年は「最後の望みの丘」だった, 東京の婚姻数は2年連続の増加だが…, 東京の未婚率は全国トップクラス, 子育て支援政策をしても止まらない少子化

東京は婚姻数も出生数も増えていますが、首都圏三県と地方4大都市は、婚姻が増えていても出生が増えていない。その他39道府県は、婚姻も出生も増えていないという状況です。つまり、婚姻が増えたのは東京含む大都市だけということになります。

加えて、婚姻の伸びが減れば減るほど出生も減っています。まさに「少子化とは婚姻減による」と繰り返しお伝えしてきた内容を証明するものです。39道府県の出生数は全国の半分を占めます。東京だけが出生増でもそれでは日本全体が上向くことはないわけです。

東京の未婚率は全国トップクラス

それでも、出生が婚姻に依存するなら、東京含む大都市の婚姻数が増えていることは翌年以降出生も増えるという期待ができると思えるかもしれません。もちろん増えてもらわなければ困るのですが、前年比だけで大都市の婚姻率が改善されたと見るのも早計です。婚姻の絶対数だけではなく人口比も見る必要があります。

そもそも、東京の婚姻数が増えているといっても、東京の未婚率は全国トップクラスです。実際、婚姻数を20〜30代女性人口で割った婚姻率を速報値婚姻数と2024年10月時点の人口推計人口によって計算すると、東京の婚姻率は全国最下位です。東京だけではなく、45位神奈川、43位埼玉、42位千葉と首都圏は軒並み低位置です。

※人口動態統計による婚姻率は全年齢を対象とした人口を基に計算しているもので20〜30代女性人口に限ったこれとは異なります。20〜30代に限った理由は婚姻の9割がこの年齢帯で占められているからです。

要するに、東京など首都圏は婚姻数増とはいっても、人口割合の婚姻率にすれば低いままで、こうした分析をする際には実数と割合の両方を見る必要があるでしょう。

あわせて、婚姻数が増えても出生数が増えていない要因についても見てみます。

よりわかりやすく整理するために「発生結婚出生数」という指数を使用します。これは私独自に作った指標で、発生した一組の結婚に対してどれだけ出生があったかを見るためのものです。当年の出生数を前年の婚姻数で割ることで計算します。元データはともに速報値データを使用します。

結果は、東京1.09 、首都圏三県1.39、 地方4大都市1.44、その他39道府県1.53となりました。つまり、婚姻数が増えている大都市ほど、婚姻によって生まれる子どもの数が少ないということを意味します。

この発生結婚出生数の全国値は1995年あたりから長らく1.5前後で一定に推移しています。しかし、近年低下傾向にあり、2025年速報値で計算すると1.41にまで下がっています、それだけ、婚姻があっても生まれる子どもの数が少なくなっているということです。

2015年を起点として、それぞれの発生結婚出生数の増減推移をまとめたものが以下です。ちなみに、2020年が減少しているのは2019年令和婚効果で婚姻数が増えたため、2021〜22年が増えているのは逆にコロナ禍で婚姻数が減った影響です。

2025年は「最後の望みの丘」だった, 東京の婚姻数は2年連続の増加だが…, 東京の未婚率は全国トップクラス, 子育て支援政策をしても止まらない少子化

2015年対比で、東京は16.2%減と、もっとも減少幅が大きく、首都圏三県がそれに続きます。つまり、東京圏においては、結婚をしても子どもが産めないという傾向が強まっているということが言えます。

子育て支援政策をしても止まらない少子化

前述した通り、出生数は婚姻数に依存します。婚姻が増えなければ出生は間違いなく増えません。婚姻による第一子が生まれてこないからです。

一部で、第二子、第三子を促進すれば少子化解決などという論がありますが、完全に間違いで、第一子が生まれなければ第二子も第三子も永遠に生まれません。そして、第一子のためには婚姻(初婚)が必要になります。

しかし、実態は、婚姻が発生しても、特に大都市においては以前ほど出生につながっていません。決して結婚した夫婦が子どもを望んでいないわけではなく、「産みたくても産めない」という事情があるのでしょう。経済的な理由か、夫婦それぞれの勤務的な理由か、個々の事情はさまざまですが、長らく政府も自治体も子育て支援に重点を置いてきたわりに、その子どもが生まれてこない状況を作っているのではないでしょうか。

「全国の婚姻数が増えました、東京は婚姻も出生も増えました。子育て支援政策の効果が出ています」とはとても言えない。国の子育て支援関係予算(家族関係政府支出)はすでに11兆円もかけています(2023年)。東京都だけでも2.2兆円(2026年予算)です。それだけ予算をかけても、国は3割以上、東京も26%も2015年比で出生数を減らしています。辛辣な言い方をすれば、予算を増やせば増やすほど少子化を加速させてやしないか、と。

だからといって子育て支援を削れという話ではありませんが、児童手当や各種の無償化など、本当に意味や効果のある使い方なのかという検証なしに、ただ予算だけを増やしてきたためのこの結果なのではないでしょうか。

婚姻が作られないだけではなく、せっかく結婚した若い夫婦が希望通りに子どもを持てないということになれば、「最後の望みの丘」は「絶望の谷」へと変わってしまうでしょう。