運動をすると筋肉から分泌される…私たちの健康のカギを握る「若返り物質」って何?

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トレーニングを続けているのに、思うように体重が落ちないという経験はないだろうか。実は、運動の効果は「食事をいつ摂るか」に大きく左右される。まったく同じものを食べても、脂肪になるか筋肉に使われるかはタイミング次第。健康効果を最大化する、食事と運動の正しい関係を運動生理学者である筆者が解説する。※本稿は、青井 渉『筋肉はすごい 健康長寿を支えるマイオカイン』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。
筋肉から分泌される
健康ホルモン「マイオカイン」
マイオカイン(編集部注/近年発見された、筋肉が分泌するホルモン。50種余りのマイオカインが、健康によい影響を与える)は、2003年にデンマークの運動免疫学者Bente Pedersen博士らによって名づけられました。それまでも、運動をするとInterleukin-6が血液中に増加することが知られていましたが、これを分泌する臓器が骨格筋と特定されたのです。
今でこそ多くのマイオカインの存在が知られていますが、Interleukin-6は最初に同定されたマイオカインということもあり、多くの研究が進んでいます。その働きは多岐にわたり、例えば肝臓に作用すると、貯蔵されているグリコーゲンをブドウ糖に分解して血糖値を高めます。また脂肪組織に作用すると、貯蔵脂肪を分解し、血液中に放出します。それら血液中の糖や脂肪の多くは、筋肉でエネルギー源として利用されます。
Interleukin-6の分泌は、運動時間が長くなり、筋肉内のエネルギー源であるグリコーゲンが枯渇するほど増加します。つまり、筋肉は自らのエネルギーを得るため、Interleukin-6を分泌して肝臓や脂肪組織に情報を送っているといえるでしょう。まさに、ホルモンとしての働きです。
副腎のホルモン=コルチゾールなどは、絶食や運動など理由を問わず血糖値が低下すると分泌されますが、マイオカインInterleukin-6は筋収縮によって筋肉から分泌されるのが特徴です。
マイオカインの分泌量は
運動によって増減する
2003年以降、毎年のように新しいマイオカインが発見され、現在では50個以上が報告されています。当初はサイトカイン=タンパク質に限定されるものでしたが、これに限らず、乳酸のような代謝産物やRNAのような核酸など、筋肉から分泌されるものは全てマイオカインであるという考えが主流になってきました。
また、微小物質の重さを正確に測定する分析法が発展し、わずかな重ささえ感知できれば物質の存在を検出できるようになりました。このことにより、名前もわからない物質が筋肉から数多く分泌されることがわかってきました。そのような物質を含めると、600個以上のマイオカインが存在するともいわれています。
マイオカインの分泌には様々な特徴があります(表5‐1)。多くは運動によって増えるものです。例えば、30分程度サイクリングをすると、筋肉から血液中へ分泌され、数時間後には運動前の状態に戻ります。このようなマイオカインは運動するたびに分泌され、それらの作用を発揮します。
その一方、常時分泌されているマイオカインの量が、運動習慣によって増えるものもあります。例えば、運動習慣のない人がジョギングや筋トレを週3回、数カ月程度続けると、座っているときも寝ているときもマイオカインの分泌量が増えるのです。

同書より転載
座り中心の生活では
善玉マイオカインが生成されない
マイオカインには体に良い影響をもたらす善玉マイオカインと、悪い影響をもたらす悪玉マイオカインがあります。基本的には、運動によって分泌されるマイオカインは善玉で、不活動や老化によって出てくるものは悪玉と考えて良いでしょう。
運動によって増えるマイオカインには、脂肪や糖の燃焼、抗炎症、発がん予防、ホルモン分泌調整などの効果があり、運動の健康作用を仲介します。
一方、運動不足、座位中心の生活では、これらの善玉マイオカインが出ないのに加えて、筋肉のタンパク質を分解したり、炎症を惹起したりする悪玉マイオカインが分泌されます。
Interleukin-6は、運動によって増える代表的なマイオカインで、その働きについて最も研究がされてきました。例えば、30分ジョギングをすると、筋肉で増えたInterleukin-6が血液中へ分泌されます。そして、脂肪組織へ作用して貯蔵脂肪を分解するとともに、肝臓に作用してグリコーゲンを分解し、エネルギー源となる脂肪や糖を筋肉に供給します。
私たちはこのおかげで、長時間の運動をすることができます。またInterleukin-6は、膵臓(すいぞう)でのインスリン分泌を促して血糖値を下げたり、体脂肪を減少させたり、さらに脳の認知機能を高めたり、骨を強くしたりする健康への作用が報告されています。
IrisinやInterleukin-15というマイオカインも、運動によって増加し、Interleukin-6と同じように脂肪組織や骨、血管に好影響をもたらすことが報告されています。がん予防に働くSPARCやOncostatin M、Decorinも善玉マイオカインに含まれます。
さらに、マイオカインには、血液中にはほとんど出ていかずに、筋組織内に留まるものもあります。例えば、Interleukin-7は、筋細胞内から細胞外へ分泌されますが、その後、分泌した筋細胞自身、あるいは近隣の筋細胞に作用して代謝や筋肥大を促します。
このように、遠隔の細胞には作用せず、内分泌効果は持たないものの、分泌した細胞自身に作用する自己分泌作用や近隣の細胞に作用する傍分泌作用を持つ善玉マイオカインも多くあります。
運動は習慣化することで
より真価を発揮する
では、運動による善玉マイオカインの分泌を増やす方法はあるのでしょうか?
その方法の1つは、運動習慣を持つことです。運動が体におよぼす影響とは、1回1回の運動によってもたらされる効果に加えて、習慣的に行うことで得られる適応効果があります。
筋肉が肥大したり、ミトコンドリアが増えたりといった体質を変える効果です。このような適応が起こった状態で運動を行うと、運動習慣のなかった頃と比べて、いくつかの善玉マイオカインの分泌量を増やすことができるのです。
例えば、運動習慣のない健康な人を対象に行った研究では、60分サイクリングをしてもらうと血液中のSPARC濃度は運動前と比べて約20%増えます。その後、週3回、4週間サイクリングを行って適応を促します。そして、再度60分サイクリングを行うと、SPARCの増加は80%も高まりました。つまり、肥大した筋肉や、代謝機能が高くなった筋肉は、より多くの善玉マイオカインを分泌することができるのです。
マイオカインの分泌は食事によっても影響を受けます。
食品に含まれる成分の中には、筋肉の働きを良くするものがたくさんあります。タンパク質やアミノ酸は筋肉を作る材料となります。フィトケミカルといわれるポリフェノールやカロテノイドのような成分は血糖の取り込みやミトコンドリアの働きを高めるのに役立ちます。筋肉の量や質が高まると、運動による善玉マイオカインの分泌を高めることが期待できます。
一方、大豆に含まれるイソフラボンや、ターメリックに含まれるクルクミン等は、マイオスタチンのような筋肉を細らせる悪玉マイオカインを減少させることもわかっています。
腸内環境を整えると
脂肪燃焼能力が高まる
腸内細菌もマイオカインの分泌に影響します。腸内細菌からは短鎖脂肪酸やアミノ酸、ビタミンなどの筋肉の働きを良くする物質が作られ、マイオカインの出やすい状態を整えてくれるのです。
また、腸内細菌は腸のバリアを保持することにも役立ちます。バリア機能が壊れると、有害物質が血液に侵入して、筋肉の働きを弱めますが、善玉菌が増え、悪玉菌が減ると、腸のバリアが強固になり、筋肉のマイオカイン分泌能が弱るのを防いでくれます。
私たちは、運動を習慣化させたマウスの腸内細菌を別のマウスに移植すると、そのマウスの筋肉では糖や脂肪を燃焼する能力、さらには善玉マイオカインを作る能力が高まることを発見しました。となると、腸内環境を整える食べ物も、筋肉の働きを高め、マイオカイン分泌を促すことが期待されます。
ヨーグルトのような発酵食品は乳酸菌やビフィズス菌を含み、腸内環境を整えてくれます。また、穀類や野菜、果物に多く含まれる食物繊維は、善玉腸内細菌の餌となります。
やはり健全な筋肉を保つことが善玉マイオカインを多く作ることにつながるので、朝、昼、晩の3度の食事で、バランスよく栄養素を摂取することが最も大事です。食生活が乱れている状態で、特別な食品成分をサプリメントで摂取したり、特定のヨーグルトや野菜だけを偏って摂取したりしても意味がありません。
タンパク質が不足すると筋肉が萎縮し、また糖質が不足するとエネルギーを産み出せず、筋肉を動かすことができません。タンパク質、糖質、脂質、さらにはビタミン、ミネラルを適切に摂取した上で、フィトケミカルや腸内環境を整える成分を考えるべきでしょう。
食事のタイミングが悪いと
糖は脂肪になり栄養は筋肉に届かない
また、何をどれくらい食べるかだけでなく、いつ食べるのかも大事です。同じ種類のものを同じ量食べたとしても、食べるタイミングによって体に及ぼす影響は違います。
例えば、ご飯を山盛り食べた後は血糖値が上昇します。このときに体を動かせば、血糖は筋肉でエネルギー源として使われて、高血糖を防ぐことができます。
しかし、食後にデスクワークをしたり寝てしまうと、血糖はエネルギーに利用されずに、高血糖を招き、多くは脂肪細胞に取り込まれて体脂肪になります。同じものを食べても、体にとって良い働き(エネルギー源)をするのか、悪い働き(体脂肪源)をするのかは、食べるタイミングによるのです。

『筋肉はすごい 健康長寿を支えるマイオカイン』 (青井 渉、中央公論新社)
一方、食後すぐのタイミングに激しい運動をすると、胃腸に負担を与えて食物の消化、栄養素の吸収にも悪影響を及ぼします。また、食べた栄養素が筋肉に届いていない可能性もあります。
私たちは、食事のタイミングがマイオカイン分泌に及ぼす影響を確かめました。運動後のSPARCの血液中濃度は、運動の30分前に食事をしたときよりも、2時間前に食事をしたときの方が高いことを観察したのです。そのため、筋肉の能力を最大限に発揮するには、食事は運動の2時間以上前が良いでしょう。
対照的に、Interleukin-6は空腹時に運動した方が分泌されやすいこともわかっています。血糖値が低く、筋肉内のグリコーゲンが少ないと、Interleukin-6を分泌して、エネルギー源を得ようとするためです。しかし、Interleukin-6は出れば出るほど良いものではありません。高濃度のInterleukin-6は、炎症を起こしたり、貧血のリスクを招くことも懸念されます。
このように、食事と運動はお互い両輪の関係となっているのです。