約100kgの2ストVツイン?カーボンモノコックの怪物「VINS DUECINQUANTA」とは?

約100kgの2ストVツイン!? カーボンモノコックの怪物「VINS DUECINQUANTA」とは?
カーボン製モノコックフレームを採用した車重わずか100kg強のボディに、75hpを発揮する2ストロークVツインエンジンを搭載。往年のGP250レーサー然としたスペックのマシンが公道に躍り出る。
※この記事は『RIDERS CLUB(ライダースクラブ)2022年3月号 No.575』に掲載された内容をもとに構成しています。
フェラーリで出会った3人が超軽量スポーツバイクを製作
ヴィンチェンツォ・マッティア、ニコラ・トレンタニ、ジュゼッペ・エヴァンジェリスタ。のちにVINSの共同経営者となるこの3人が出会ったのは、フェラーリの開発部門でしのぎを削っていた2010年代初頭のことだった。
共同経営者の3人。右からCEOのマッティア、中央はボディワークを担当するトレンタニ、左がオペレーション担当のエヴァンジェリスタ。

VINSの最高責任者でもあり、海洋・航空宇宙技術の知識が豊富なマッティアが車両の技術部門を担当しており、彼がフェラーリで得た経験と技術力からくるアイデアは、この超軽量なバイクの開発に非常に役立っている。
マッティアが家のガレージで、最初にプロトタイプを試作したのは2015年。それからわずか2年後の2017年3月に、12名の従業員と共にVINSハイテク・エンジニアリング・サービスを設立した。
ドゥエチンクアンタは、250ccのインジェクション式水冷2ストロークVツインエンジンを搭載した超軽量ロードスポーツモデルである。カーボン製のモノコックフレームやホイールを備えることで、車重105kgという超軽量化に成功。税別本体価格は3万3000〜3万5000ユーロに設定される予定だ。
このモデルには7つの特許があり、3つは燃料噴射システム系統、残りはサスペンション、シャシー、新しい素材と製造技術関連についてだ。
レース用のスポーツバイクとして着想されていたが、ユーザーからの強い要望を受けて公道用モデルが開発された。今はイギリスでのみ公道用の認証を取得しているが、ユーロ5の認証取得にも向けて動いており、アメリカの電動バイクメーカー「Zero」のモーターを採用した電動モデルも打ち出そうとしている。
自社設計の2ストエンジンは75hpの最高出力を発生
心臓部は、自社設計の250cc水冷2ストロークVツインエンジン。2軸の逆回転クランクシャフトがピニオンを介さず直結され、アルミビレットのクランクケース内で回転する。ボア×ストロークは54×54.5mmで、最高出力は75hp。最大トルクは45Nm/11700rpm。
発生したパワーは、クラッチからカセット式の6速ギアボックスへ、そしてドライブチェーンによってリアタイヤへと伝えられる。電動式のウォーターポンプはステアリングヘッドの後ろのタンク下に位置し、電気式のスターターは10Ahのバッテリーによって給電されている。
燃料の混合は、各シリンダーのノズルからリードバルブを介して電気式間接燃料噴射システムによって供給されており、両シリンダーの同時点火が突出した性能を引き出す。
潤滑システムは、オイルがエンジンハウジング内のバイパスを通って注入され、混合比率は全開時に0.2〜2.5%。2つの相対するギロチンバルブ(スライドゲートバルブ)がケーブル作動式のスロットルボディの内部に実装されており、ストローク開始時からそれらが大きめに開かれることで、エンジン負荷のかかり始める初期段階のレスポンスを大幅に向上させることが可能となった。
エンジン単体の重量は28kgで、ECUは、アメリカのサプライヤー、PEエレクトロニクス製だ。

エンジン左側から。250ccの水冷2ストローク90度Vツインエンジン。2軸クランクシャフトの配置、特徴的な前方吸気、ストレート排気のレイアウトがよくわかる。プロトタイプのためシリンダーはヤマハYZを流用。量産時はオリジナルの仕様となる。

エンジン右側から。クラッチカバーやイグニッション、電動式のウォーターポンプ(クランクやギアを使わないのでフリクションロスがなく、レースエンジンに向く)のレイアウトが見える。下側シリンダーからは電動式排気バルブも見て取れる。

シリンダーごとにクランクシャフトを備え、ギアで連結する構造となっている。クランクケースを気筒ごとに密閉するのは2ストロークのレースエンジンならでは。

90度のVツイン。2軸クランクの配置がよくわかる。クランクギアはピニオン等を介さず直結し、360度同爆とすることで力強いトルクを発生させている。

筒内直噴ではなく、それぞれのポート内にインジェクターが突き出ている。一般的なリードバルブ吸気ではないギロチン式バルブなど、3件もの特許がここに仕込まれている。

整備性や、ギア比の調整に優れた6速カセット式のトランスミッション。非常にクロスしたギアレシオとなっている。トランスミッションもVINSのオリジナルだ。
オリジナリティに溢れるカーボンを多用したシャシー

ダッシュボードはデータロガーなどでも知られるAIM製のMXSというモデル。現代らしくCANでECUと接続され、ワーニングやエラーコードも表示できる。

自社製のカーボンスイングアームとBSTのカーボンホイール。ホタ・ホアンのブレーキはφ220mm。チャンバーのプレートが、プロトタイプ1号車を物語る。

クラッチは一般的なケーブル駆動。試乗したプロトタイプではシャープさに欠けるところがあったが、この辺りはブラッシュアップする予定という。

2本のプッシュロッドと両端のロッカーアームで支えられる横置きのリアショック。ウィリアムズのF1マシンからヒントを得た構造は、重心の集中化にも貢献。

カウル内に備えられたフロントサスペンションの圧側調整機構。ホサック式サスペンションはブリッテンにも通じる仕組みでフロントの高い剛性に貢献している。

リアショックのリザーバータンク。リンクは独特だが、ショックユニットは、モデナ近郊に構えるハンドメイドのレースサスペンションで知られるMupo社製だ。

ステアリングヘッドの前に配置されたフロントのショックユニット。ダブルウィッシュボーンに近い形状だが、BMWのテレレバーとも異なるユニークな構造。

フロントフォークも自社製のカーボンユニット。一般的なテレスコピックより遥かに軽量で、ハードブレーキングでも姿勢変化を抑えて鋭い切り返しに貢献する。

超軽量なマシンが生み出すライディングエクスペリエンス
軽量化されたボディは目を見張るほどで、まるで125ccのスポーツバイクを操作しているような軽やかさだ。レーシングマフラーを付けたプロトタイプは、そのエンジンの性質上、いまだ実験的な車両だが、シャシーやフェアリングはすでに量産品となっている。
2ストロークマシンで一般的なキックスタートではなく、セル一発で目覚めるエンジンは、低回転域でのバイブレーションが少し目立つが、トルクは非常に好印象であり、ギロチンバルブによって低回転域から力強く、フラットなトルク特性を得ている。500ccの単気筒モトクロスエンジンのようだ。ワインディングを登る時も、頻繁なシフトチェンジの必要はなく、低回転域で十分に仕事をしてくれる。シフトダウンした時のエンジンパワーの上昇も力強く、それでいて非常に安定している。
スロットルを開けていく際のパワーの移行は非常に滑らかで、エンジンのコントロールが正確であることが伺える。エンジンにかかる負荷が遷移していく感覚は、バイクを伝ってかろうじて感じ取れる程度である。
クラッチは若干重めで、ギアをニュートラルに入れるのに少々コツがいる。1速では90km/hまで引っ張ることが可能だが、ストリートモデルとしてはややロング過ぎるといったところだろうか。
サスペンションは非常に硬いが、反応性や制振性、ならびに素直な動きはスポーツライディングには最適だ。ホサックタイプのフロントフォークは、ブレーキングの際にはっきりしたフィードバックを見せてくれる。ステアリングアクシスまわりの慣性も低いため、方向転換が容易であることも際立っている。
曲がりくねった田舎道は、ドゥエチンクアンタのライディングエクスペリエンスを味わうことができる最適な場所だ。わずか100kg強という軽さは本当にありがたい。閃光のごとく軽やかなターンを可能とし、まるで子供が遊ぶように俊敏。ほんの一瞬車体を傾けただけで、いとも簡単に飛び移って移動できるような感覚にさせる乗り味だ。
ブレーキシステムのサイズ感も、スポーティなリズムによく合っている。トルクの太いエンジンは、無秩序に連続するようなコーナーですら問題なくこなすことが出来るだろう。ほとんど電動バイクにも近い感覚を覚える。マッティアは言っている。
「昨今では、メーカーが違ってもバイクの違いはあまりなくなってきているよね。誰もリスクを負ってまで、本当の改革を起こそうとは思わないんだ。そんな中で、僕らは新しい何かを作り出そうと一生懸命なんだ。全くの白紙の状態から始めてね。他にはないユニークな何かを作り出して、バイクの世界に浸透させていきたいんだ」
なお日本では、ファンティックなどの輸入元として知られる、モータリスト合同会社が取り扱う予定だ。

VINS DUECINQUANTA