【参院選・激戦区ルポ】二階陣営は「パンダは失敗だったかも…」 和歌山・二階氏vs.世耕氏の仁義なき「紀州戦争」

■「和歌山の空気の入れ替えを」, ■「人間関係が大切ではないか」, ■町長が世耕氏の「脅し」を暴露, ■パンダ外交をめぐっても応酬

 参院選・和歌山選挙区(改選数1)の「紀州戦争」が激しさを増している。

 自民党は二階俊博元幹事長の三男、二階伸康氏を擁立。一方、安倍派の裏金事件で自民を離党した元経産相の世耕弘成衆院議員は、元有田市長の望月良男氏を“刺客”として送り出し、支援している。昨年10月の衆院選和歌山2区で、自民公認の二階伸康氏と無所属となった世耕氏が争い、世耕氏が圧勝した「紀州戦争」。その第2ラウンドが、参院選で繰り広げられているのだ。

 選挙戦も残すところ1週間ほどとなった7月中旬、二階氏陣営は支援者に、

〈緊急通知 情勢緊迫 一票一票の獲得に全力を!!〉

 という文書を発出した。記者はその文書を入手したが、そこには危機感があふれる文言が並ぶ。

■「和歌山の空気の入れ替えを」, ■「人間関係が大切ではないか」, ■町長が世耕氏の「脅し」を暴露, ■パンダ外交をめぐっても応酬

〈戦いは最終局面、和歌山の命運を懸けた“正念場”です〉

〈いま動かなければ、すべてが失われる――その崖っぷちに、私たちは立っています〉

〈すべてはこの一週間にかかっています。これまでの努力を、ここで無にしてはなりません〉

 文書を出すきっかけになったのは、7月8日のあの“失言”だった。石破茂首相が二階氏の応援に和歌山に駆け付けたが、その到着前に演壇に立った鶴保庸介参院議員が、

「運のいいことに、能登で地震があったでしょ」

 と発言し、大炎上。鶴保氏は謝罪して発言を撤回し、参院予算委員長も辞任したが、沈静化する気配はない。16日には石川県町村議会議長会が自民党本部に「厳しい指導と適切な処分を要請する」という抗議文を出している。

 実は自民党の情勢調査では、“鶴保失言”の前まで、和歌山選挙区の二階氏と望月氏はほぼ横並びだった。だが、俊博氏の時代から二階氏陣営を支えてきたA氏は、「鶴保氏の失言があった後の調査では、5ポイント以上の差がついてしまった」と言って頭を抱える。

「競り合っている一番大事な時期に、あの発言は致命的。鶴保氏は俊博氏の“弟子”ともいえる存在ですからね。失言後、一気に支援がしぼんでしまい、まさに選挙戦をぶち壊したようなものです。ゆえに『緊急通知』を出すしかなかった。さらに言えば能登半島のある石川選挙区も、自民党候補が優勢だったのに、野党候補に差を詰められ大苦戦と聞いています」

■「和歌山の空気の入れ替えを」, ■「人間関係が大切ではないか」, ■町長が世耕氏の「脅し」を暴露, ■パンダ外交をめぐっても応酬

■「和歌山の空気の入れ替えを」

 一方の望月氏陣営は、このタイミングを逃さなかった。鶴保氏の発言の翌9日、これまで望月氏のバックアップにとどめていた世耕氏が、御坊市であった集会で初めて前面に立ってマイクを持つと、

「自民党の議員がとんでもない発言をした」

 と言った後、

「和歌山の空気の入れ替えを実現しなければならない」

 と訴えた。また世耕氏は自身のXでも鶴保氏の発言をとりあげ、

〈これはあまりにも酷い発言です〉

〈あまりにも県民の気持ちから乖離した発言。こんなこと和歌山県民一人たりとも思っていません〉

 などと批判を展開した。

 望月氏陣営の地方議員B氏は、こう話す。

「世耕先生の風向きを読む感覚は抜群です。“鶴保失言”をチャンスだと読み、攻勢に転じたのでしょう。鶴保批判に、支援者は拍手喝采だった。世耕先生も、会場の盛り上がりに満足そうだった」

■「人間関係が大切ではないか」

 これに対して焦る自民党では、森山裕幹事長が7月15日に和歌山入り。これまで和歌山では二階俊博氏はじめ自民党が強固な保守基盤を築いてきたことを念頭に、

「和歌山らしくない、このような選挙。少しおかしな選挙でありまして、異例で、異様」

 と苦言を呈し、さらに「紀州戦争」を仕掛けている世耕氏をこう批判した。

「優秀で能力がある方だが、今回は理解できない」

「(世耕氏は)安倍晋三首相が期待して育てられた方。しかし安倍政権を支えていたのは、幹事長の二階(俊博)氏でした。その関係もわかっておられる。今は(世耕氏は)自民党ではないが、人間関係を大事にして生きていくのが大切ではないか」

 すると、世耕氏は森山氏に対抗するように、17日に和歌山市内であった集会に1000人ほどの支援者を集めてこう訴えた。

「(昨年の衆院選は)私の圧勝だった。皆様のもう一回がんばれという応援があってのこと。私は安倍さんのそばでずっと仕事をしてきました。真の保守政治とは何かということを教えてもらいました。望月さんこそ間違いなく真の保守政治を取り戻してくれる」

■「和歌山の空気の入れ替えを」, ■「人間関係が大切ではないか」, ■町長が世耕氏の「脅し」を暴露, ■パンダ外交をめぐっても応酬

■町長が世耕氏の「脅し」を暴露

 両陣営の激しい攻防の中で、二階氏を支援する由良町の山名実町長は、自身のFacebookで、こんな“暴露”をした。

〈7月6日に世耕衆議院議員からこのような内容の電話がありました。いきなり、私に「動かないで下さい」「SNSの拡散はしないで下さい」「私らは必ず勝ちます」「これからの関係が大切でしょう」と、私はびびりました〉

〈望月候補との戦いの中で世耕議員からこのような電話が来ると言うのは脅しにあたると思います。動くなと言うことは選挙の自由の妨害にもあたると私は思います。このような事が許されるのでしょうか?〉

■パンダ外交をめぐっても応酬

 この激しい「戦争」に巻き込まれたのが、「パンダ」だ。

 アドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)最大のセールスポイントだったパンダ4頭が6月末に中国に返還され、話題になった。日本と中国の「ジャイアントパンダ保護共同プロジェクト」の契約期間満了に伴うものだが、和歌山ではパンダの再貸与を求める機運が高まっている。かつてパンダ外交を後押ししてきたのが、日中友好議員連盟の会長も務めていた二階俊博氏。俊博氏と中国との親密な関係は知られるところで、伸康氏も秘書としてそれに接してきた。そのため二階氏は参院選の演説で、

「パンダを白浜に戻したい。中国と交渉したい。そのためには参議院議員のバッジが必要なのです。地域の経済効果は1300億円」

 などと何度も訴えた。するとこれを踏まえて世耕氏は自身のXで、こう切り返したのだ。

〈パンダは大きな観光資源であるし、帰ってきたらとても嬉しい話だが、一方で私はパンダに関して政治家は関与や中国に対する「お願い」をすべきでないと思っている〉

〈そうでないと相手のパンダ外交に乗せられてしまうことになる〉

 これについて二階氏陣営のA氏は、

「パンダは失敗だったかもな。受けていない」

 と暗い表情だ。

 対する世耕氏陣営のB氏は、笑みをこぼす。

「鶴保氏の失言にパンダと、二階氏側はこちらが反撃できるネタをよく提供してくれます。オウンゴール連発だ」

 パンダも取りざたされる「紀州戦争」の行方はいかに?

(AERA編集部・今西憲之)

*  *  *

 和歌山選挙区ではこのほか、日本維新の会の浦平美博氏、共産党の前久氏、参政党の林元政子氏、NHK党の本間奈々氏、無所属の末吉亜矢氏が立候補している。