ビジネスで必要条件と十分条件を使いこなす方法 論理的に見えて実はそうではない意思決定をしないために

必要条件と十分条件の理解は、論理的に物事を考える際にも非常に重要です(写真:アン・デオール/PIXTA)

ビジネスでは論理的に意思決定することが重要だ。しかし、論理的に見えて、実はそうではない意思決定が日常的に見られる。その一例が、必要条件と十分条件の関係を取り違えてしまうこと。大人の数学塾の塾長を務める永野裕之氏に、具体的な例を【問題】として取り上げて、解説してもらった。
※本記事は『【数学的】意思決定トレーニング』の内容を一部抜粋したものです。

必要条件と十分条件

【問題】

上司に次のように言われました。

「7時間以上の睡眠をとれば必ず仕事の効率が上がる。だからお前は7時間以上の睡眠をとる必要がある」
必要条件と十分条件の観点から、上司の言葉の矛盾点を指摘してください。

ビジネスシーンで「必要条件」や「十分条件」という用語がそのまま登場することもありますが、必要条件と十分条件の理解は、論理的に物事を考える際にも非常に重要です。必要条件や十分条件の具体的な使い方を解説していきます。

出かける前にクローゼットの前で洋服を選ぶとき、季節が夏なら、夏服の中から選びますね。それは「今日着る服には暑さをしのげることが必要」だからです。同じように、出かけていく場所にふさわしいか、会う相手に失礼がないかなども吟味するでしょう。これらも今日着る服の必要条件です。

このように、何かを選ぶときは必要条件を重ねていけば、どんどん範囲が狭まり、目的のものが見つかりやすくなります。

これは、多くの人が無意識に行っていることだと思いますが、「あ、必要条件を使っているな」と意識することが重要です。そうすれば、たとえば次のような効率の悪い会議をせずに済みます。

社員A「今度の新製品のアイデアですが、私は競合他社の製品を徹底的に調査しました。その結果わかったことは……(この後約2分続く)」

上司 「よく調べてあるな。ところで、製品化になったとしたら小売価格は700円以下に抑えたいのだが、それは大丈夫か?」

社員A「どんなに切り詰めても1000円程度にはなるかと……」

社員B「私は現代の若者のニーズである『等身大』をキーワードにして考えてまいりました。今どきの若者は……(この後約3分続く)」

上司 「そうか。よくわかった。ただ、今回の新製品は年内発売を目指している。それは可能かな?」

社員B「こちらの商品化は、早くても年明けの3月になります……」

もうおわかりですね。そうです。この上司は新製品が満たすべき最低限の必要条件を、後から部下に提示しています。これが、会議の効率が悪くなっている原因です。

本来であれば、「希望小売価格は700円以下で、年内に製品化が可能なものを考えてくれ」と最初に必要条件を提示するべきなのです。そうして、あらかじめ考える範囲を狭めておけば、部下も考えやすくなりますし、会議には新製品の必要条件を満たすアイデアだけが出てくるはずですから、せっかく考えたものが無駄になることもありません。

命題とその真偽

数学では、真偽(正しいか正しくないか)を客観的に判断できる事柄を命題と言います。

「富士山は世界一高い山である」は、間違っています(偽です)が、客観的に真偽が判定できるので命題です。一方、「富士山は美しい山である」は、美しいかどうかは主観的な判断であり、客観的には真偽が判定できないので命題ではありません。

一般に、命題「Pならば(⇒)Q」において、P(仮定)は満たすけれど、Q(結論)に当てはまらない例のことを反例と言います。

たとえば「鳥ならば飛ぶことができる」という命題は偽です。なぜならペンギンやダチョウは鳥に分類されますが、飛ぶことができず、反例が存在するからです。

ある命題について1つでも反例が見つかれば、その命題は偽です。これに対して、ある命題が真であることを示すのは簡単ではありません。数学の世界には、反例が見つからないのでおそらく真であると予想されてはいるものの、厳密な証明ができていない命題がたくさんあります。

証明したいときは十分条件を意識する

ただ、ある種の命題に関しては、十分条件を使えば、正しいことが証明できます。「横浜市在住ならば神奈川県在住」を例に考えてみましょう。

(出所)『【数学的】意思決定トレーニング』

この命題は真ですが、「ならば」の前後を逆にした「神奈川県在住ならば横浜市在住」は正しくありません。神奈川県在住の人の中には、川崎市在住や鎌倉市在住など横浜市以外に在住の人がいて、反例があるからです。

一般に、PがQに完全に含まれているとき「P⇒Q」の命題は必ず真です。このときPを(Qであるための)十分条件、Qを(Pであるための)必要条件と言います。そして、

「十分条件⇒必要条件」は必ず真

「必要条件⇒十分条件」は必ず偽

です。

片方が他方に完全に含まれているならば、小さい方が十分条件、大きい方が必要条件ですから、次のように言うこともできます。

「小⇒大」は必ず真

「大⇒小」は必ず偽

(出所)『【数学的】意思決定トレーニング』

冒頭の問題の【解答】

「睡眠時間が7時間以上⇒仕事の効率が上がる」が真ならば、睡眠時間が7時間以上は十分条件なのに、上司があたかも必要条件のように言っているのはおかしい。

【解説】

(出所)『【数学的】意思決定トレーニング』

上司は「睡眠が7時間以上⇒仕事の効率が上がる」と言っているので(ここではこの命題自体の真偽は問いません)、「睡眠が7時間以上」は(仕事の効率が上がるための)十分条件です。それなのに上司は「7時間以上の睡眠が必要である」と言っていて、必要条件と十分条件がすり替わっています。

本来は仕事の効率が上がる方法は他にもあるはずなのに、7時間以上の睡眠が少なくとも必要な条件のように言うのはおかしいわけです。

他にも「あなたの病気は手術すれば治ります。だから、あなたは手術を受ける必要があります」という医師による説明も同じように矛盾しています。

一般に「A⇒Bです。だからBのためにはAの必要があります」の形の文章は、論理的に正しくありません。惑わされないように注意しましょう。