日本を狙う中華詐欺パークの「異常な本質」…監禁、閉鎖、監視体制は「中国の大学運営」とコロナ対策で誕生?

地場産業が「詐欺」の街

「詐欺拠点について、なにか知ってる?」

ボロボロの茶店の主人のおばさんに、スマホの画面に表示したクメール語の翻訳文を見せると、一瞬顔を引き攣らせてから「とんでもない」と首を振られた。もちろん、彼女は知らんぷりをしているだけだ。この茶店の隣にある中国系企業の奥に、特殊詐欺拠点(園区)があるのは明らかなのである。今年の春、内部で働いていた日本人数人が「釈放」されたことで、日本でもニュースになった。

ここはカンボジア西部のパイリン特別市。タイ国境からわずか3キロの地点にある田園地帯だ。周囲の空き地のあちこちに「土地、貸します/売ります」といった中国語の看板が出ており、このあたり一帯の主人が中国人なのがわかる。園区がある敷地前の壁付近には、アルファードなどの高級車での送迎や、中国国内から現地への物品宅配をうたう中国語の広告も出ている。住民たちの需要がうかがい知れた。

3月29日付けのNHKのWEB版記事が報じた、園区の元日本人詐欺従事者の証言によると、求人条件は月2000ドルの保障給に衣食住完備。だが、現地では劣悪な環境下で午前9時から午後9時まで休憩もなく働かされ、詐欺広告用のX(旧Twitter)のアカウント作りに従事させられたという。

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畑ごしに撮影したペイリンの園区。高い壁と、3軒続く中華食堂が確認できる。中国的「人権」とはメシと寝るところを確保すること……。なので、詐欺拠点でもメシだけは充実。2025年5月28日筆者撮影

同報道によると、鉄格子で囲まれたこの園区にいた詐欺従事者らは400人ほど。敷地内には彼らの住居のほか、スーパー、ジム、カジノなどもあったとされる。私が隣の畑から望遠レンズで覗いてみた限りでは、ほかに敷地内に3軒、長江中流域の湖南省や江西省などの料理を出す中華料理店を確認できた。さながらひとつの街だ。

カンボジアの至る所に園区が

もっとも、こうした場所はカンボジアやミャンマーではめずらしくない。たとえばカンボジアだけでも、私が現地報道に明るい日本人を介して知った「園区のある街」は以下のとおりだ。なお、当然ながらひとつの街に複数の園区が集中している場合もある(とりわけ、首都のプノンペンとリゾート都市のシアヌークビル、タイ国境のポイペト、ベトナム国境のバベット周辺には、大小を問わず大量の拠点が存在する)。

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カンボジア園区シティマップ。なお、私の本アカウントではもっと詳細に個々の園区をポイントしており、「中国人死亡」「拷問」「日本人行方不明」などのタグで埋まった「事故物件紹介サイト」みたいになっている

なかでも、今年5月末に私が現地取材をおこなった時点で熱かったのが、ポイペトを中心とするタイ国境地帯である。そこで、とりあえずポイペトで原付バイクを借りた私は、国境沿いを南に100キロくらい往復して、判明している情報をもとに園区を片っ端から見て回ることにした。

さすがにコネ無しで敷地内に入るのは危険なので、外観を中心にチェックしたが、それでも多種多様なパターンを確認できたのは興味深い。前回、タイ側から国境越しにミャンマー領の園区を眺めたものも含めれば、私は多分(特殊詐欺業界の幹部を除けば)日本でいちばん園区をたくさん見た日本人だと思う。そのうえで、東南アジアの中華系詐欺拠点のパターンをまとめてみよう。

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ポイペトの中国系スーパー。日本の池袋などにあるものと違い、空間の広さや陳列、店内のコピーまで完全に中国国内と同じ。清涼飲料水のラインナップなど、「2025年の中国」の品揃えをそのまま観察できて有意義だった。ただし、詐欺とカジノで(中国人だけ)バブルの街で通貨もUSドル建てなので、価格はかなり高い

(なお、私の滞在中からカンボジアとタイの国境紛争が激化し、両国間の往来やタイ側からのインフラ供給が滞ったことと、今年7月中旬からカンボジア当局がなぜか真面目に詐欺拠点を取り締まり始めたことで、現地の拠点は勢力を弱めている模様だ。情勢は日々変化し続けている)。

まるで詐欺のアウトレットモール

最も大規模で、日本人が働く事例も多いと思われるのが、「詐欺パーク型」の園区だ。そもそも、「園区」という中国語は本来、工業団地を指す言葉である。東南アジアに進出した中華系の工業団地が、経営不振などで詐欺拠点に転用されたのがおそらく発端で、それが儲かるとわかり、最初から詐欺拠点にすることを目的に建設されるようになったのだろう。

日本人にわかりやすいイメージで説明すると、アウトレットモールみたいな感じである。すなわち、木更津なり御殿場なりが園区全体の名称、そこに入っているビームスやポールスミスのようなテナントが、個々の詐欺拠点(通称「公司」、日本語では「ハコ」)に相当する。

ゆえに同じパーク内にあっても、別のハコ同士はヨコのつながりがない場合も多い。それぞれの業務内容(ロマンス詐欺、警察を騙る詐欺、XやLINEを用いた投資詐欺など)や顧客層(中国本土、英語圏、日本など)、具体的な詐欺手法のノウハウなども異なっている。

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ポイペトにある巨大な詐欺パーク型の園区「宝隆園区」と、門前に据えられた獅子像に興味を持った地元のカンボジア人親子。敷地に出入りする車両や中国人たちを確認したため、取材時点ではまだ稼働していた模様。2025年5月29日筆者撮影

いっぽう、パーク内にはハコのみならず、前述のように食堂やジムがあり、他にKTV(中華風豪華カラオケ)や性風俗店、道教の廟、バスケットボール場などを備えているケースもある。噂レベルの話でいえば、日本にも進出している中華系飲食チェーンやスイーツチェーンの店舗が出店していた例もあるようだ。

もっとも、アウトレットモールと違って詐欺パークの敷地の周囲は封鎖されており、外部からの侵入も一般労働者の脱出も不可能である。

カンボジア在住の中国人のジャーナリストに話を聞いたところでは、詐欺パークは「中国の大学と似ている」ともいう。確かに中国の大学の多くは、広大な敷地内に学生寮や各種商店・レストランなどが完備されていて、内部だけで生活を完結させることが可能だ。周囲は塀や柵で囲まれ、出入口いは守衛がいて人の出入りを制限している(なお、大手のメーカー系中国企業も似たような仕組みで従業員を管理している)。

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5月末に日本人29人が拘束されたポイペトの金河園区(後述)をGoogleマップで見たもの。現在は黄色の空間に建物がたくさん建っている。隣のカンボジア人経営の企業(赤い線で囲われた場所)が土地を提供しており、同企業内の敷地を通らないと園区に出入りできない

ちなみにコロナ禍の時期、中国の大学や大企業は感染拡大防止を理由に何ヶ月も完全封鎖されて外部との往来が厳重に禁止されたが、私が聞いた話では東南アジアの詐欺パークの閉鎖性が極端に強まったのもコロナが原因だったという。こんな部分まで中国本土と一緒というわけだ。言うまでもなく、労働者をロックダウン状態にして働かせることは「詐欺」という業務内容とは極めて相性がいい。

使えない詐欺プレーヤーは突き落とす?

いっぽう、特殊詐欺が儲かるとわかったことで、ハコが単独でオフィスビルやマンションの一室に入居する例も増えた。カンボジアのポイペトの国境付近にある中国人の多い繁華街や、同じくプノンペンの中国人地区には、人間(ほぼ中国人)がよく墜落死するビルがいくつもある。私も実際に見てきたが、これらはビル型の特殊詐欺拠点であると目されている。

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ポイペトの中国系スーパーのすぐ近所にある「墜落ビル」。取材時点でも詐欺拠点が入居していたらしく、写真を撮るとカンボジア人のガードマンに激しく誰何された。2025年5月27日筆者撮影

一連の墜落死は、詐欺の業績が上がらない現場従事者が自殺や逃亡を図ったか、経営側の中華マフィアに拷問されて投げ捨てられたかだろう。なお、今年7月には同国のシアヌークビルで、やはり特殊詐欺拠点のビルから墜落したとみられる日本人が病院に搬送される事件も起きている。

また、特にカンボジアに多いのが「カジノ間借り型」だ。同国はもともとカジノが合法で、内戦終結後間もない1990年代から、台湾や東南アジア各国の華僑資本(基本的に黒い)が各地でカジノ経営をおこなってきたのだが、近年は施設が老朽化。

併設するホテルもボロボロになった……ので、特殊詐欺のハコに間借りさせる例が増えている。特に国境地帯はこの手の老朽化カジノが多いらしく、私が見た限りでもかなりの数のカジノ系園区がある。

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フザープラムは本来は小さな田舎町だが、完全に中国に染められており、謎の活況を呈していた(左上)。右下はカジノが詐欺拠点に転用されたとみられるCT園区(仮名)。2025年5月28日筆者撮影

ちなみに、タイ国境のフザープラムにあるCT園区(仮名)は、マレーシア華人のグループが経営するホテル併設の古い大規模カジノがまるごと園区になっているとされ、敷地全体が柵で囲われガードマンがいて……と、「巨大詐欺パーク型」に近い形態になっている。テレグラムの現地中国人チャンネルによると、CTグループは各地で園区を経営。暴力的なやり口で悪名高いようだ。

著名人が楽しんだオンラインカジノも

この「オンカジ型」は、運営形態ではなく業務内容の区分である。すなわち、彼らが手掛けているのはオンラインカジノ。これは掛け率や勝敗を胴元(運営側企業)が操作できるので、実質的には詐欺に近い運用が可能である。もっと悪質な場合は、ネットなどで「オンカジ必勝法」を教えるアドバイザーが登場し、多額のカネを賭けさせてハメる……などということもおこなわれる。

オンカジはカジノが合法のカンボジアで盛んだったが、2019年に規制が入った。結果、どうせ違法ならもっと儲かる商売をしようと、カンボジア国内やミャンマーなどで詐欺園区の経営に鞍替えする業者が多く出たが、オンカジ業界に残った業者も存在した。特にラオスの金三角特区(この記事を参照)は現在もオンカジが合法なので、こちらにある詐欺拠点の多くはこの形態だ。

日本で2月以降、プロ野球各球団の選手20人以上のオンカジ利用歴が発覚した事件や、6月に同じくオンカジ利用でフジテレビの社員やアナウンサーが逮捕や書類送検された事件をはじめ、今年に入って日本のスポーツ・芸能・マスコミ業界はこの問題に揺れている。これらのオンカジのすくなくとも一部は「中華暗黒ベルト発」である可能性が高いと思われる。

カンボジア警察の稼ぎ方

話をカンボジアに戻そう。ところで、私は国境沿いの園区を見て回るためにポイペトの街でバイクを借りたのだが、業者が「ヘルメットはない」「誰もかぶっていない」と言い張ったので、移動の全行程がノーヘルだった(注:現地でもヘルメットをかぶっている人はいる)。

そのため、カンボジア警察の検問に2度引っかかった。いずれもスマホ画面で中国語の警告文を示され、罰金600バーツ(約2700円。自国通貨の信用が低いので、国境地帯では隣国のタイバーツが流通している)を支払うように命じらる、というパターンである。

もちろん、私もその命令に異論はなかった(業者がヘルメットを渡してくれないのは、私としても安全上不安だったのだ)。だが、罰金を払う際に警官に「レシートをくれ」と言うと、1回目の検問では「じゃあ400バーツでいい」と言い出し、2回目の場合はなんとタダで釈放された。

しかも警官たちは、私が日本のパスポートと国際免許証を出すと、揃って当てが外れたような顔で戸惑っている。やり取りを続ける私たちの前では、母と妹を乗せたサイドカー付きのバイクを運転する12歳くらいの子どもが、ノーヘルのまま平気でかっ飛ばしていく……。

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バイクで走るカンボジアの田舎町。なお、標識の交差点を右に曲がるとタイ国境、真っ直ぐ進むと同様の田舎町のカムリエン……。だが、カムリエンにも複数のカジノ間借り型の詐欺拠点や、小規模な中国系スーパーが存在する。2025年5月28日筆者撮影

どうやらカンボジア警察は、中国人っぽい人にだけカネがあるとみて適当な取り締まりをふっかけ、「罰金」名目の小遣いを徴収しているらしい(仮にヘルメットをかぶっていても、無免許などなんらかの理由をつけると思われる)。

つまり、カンボジアはそのくらい国が腐っている。だが、そんな国だから中華暗黒ベルトや日本の反社たちがこぞって移住してくるのだろう。

東南アジアの畑で「詰み」かけた

さて、そんな環境のなかで延々と詐欺拠点を見て回っていた私は、帰路にGoogleマップのナビを信用してバイクで走っていたところ、畑のどまんなかの未舗装路に入ってしまい、抜け出そうともがいていたら道に迷った。しかもガソリン残量は残り1で、スマホの電池は残り15%。加えて空はスコールの気配が漂い、日没までわずか30分である。

ガソリンとスマホの電源が切れた状態で、カンボジア・タイ国境の街灯もない畑のなかでスコールにやられて夜を迎えると、文字通り「詰む」。冗談抜きで野獣や野盗に襲われるリスクもある。最後に立ち寄ったフザープラムの街で、ガソリンスタンドをスルーしてCT園区を見に行ってしまったのが間違いのもとだ。

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未舗装路。なお、こちらはスマホの電池が無くなる前の午後2時ごろに撮影(私が迷った場所の路面はもっとヤバい)。専業のカメラマンじゃないので、ピンチになったら写真なんか撮っている余裕はない。2025年5月28日筆者撮影

かなり焦ったものの、とにかく畑の道を西に進み続けた結果、なんとか主要幹線に出て給油できた。単に自分がマヌケなだけだが、無駄に危機一髪の目に遭ってしまった。逆に言うと、それ以外に怖い目には遭っていないので、詐欺拠点それ自体については危険を回避して動けたといえなくもない。そういうことにしておこう。

現場に一番乗りしたものの……

そして、道に迷っていた間に、電池が残り少ないスマホにとんでもないニュースが飛び込んできた。バイクを借りたポイペトの郊外、まさに私が今日の午前中に通り過ぎた国道沿いの場所にある詐欺拠点・金河園区に、カンボジア当局のガサ入れが入り、日本人の詐欺従事者が30人近く拘束されたらしいのだ。

大急ぎで戻るべく、ガソリンを満タンにしたバイクで残り70キロの道のりをひた走ったところ、夕方なので謎の虫が顔に突撃してきて大変痛い。日没後に吠えかかる野犬に追われつつ(なお狂犬病の危険がある)、街灯がないカンボジアの夜の星はきれいだなあと思いながら、金河園区の近所まで帰ったのは夜の8時半だった。

夕食を食べてずに飛ばしていたので、近所にあった数少ないセブンイレブンでトムヤンクン味のカップヌードル(タイ製)をすする。そして、事件の現場に日本のメディアで一番乗りである──が、隔週刊の『週刊現代』の取材なので、別に速報できるわけでもない。とりあえず写真を撮影してXに投稿しておいた(その後、こちらの金河園区の日本向け詐欺チームのリーダーにインタビューした記事はこちらを参照)。

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一番乗り(特に意味はない)で写真を撮った金河園区。右に見切れている道教の秒からもわかるように、台湾系マフィアが経営。なお、ライトの隣の建物のなかにマフィアの拷問部屋がある模様。2025年5月28日筆者撮影

撮影が終わってからホテルに戻ると大雨が降りはじめ、低地にあるホテル周辺は洪水に近い状態になった。翌朝でも路上に下水混じりの水が溢れ、歩くとふくらはぎの真ん中くらいまで汚水に浸かり、全身がドブ臭い匂いに包まれる。とはいえ、この日も出かけなくてはならない。カンボジアでの中華暗黒ベルトの調査は、まだ端緒についたばかりであった。