なぜSUVは25年で「前方視界」が激減したのか? 米国調査が示す「死角リスク」の拡大

新型SUVの死角問題

 一般的に「新しいクルマほど安全性が高い」と考えられている。確かに、乗員保護性能や衝突回避機能などは年々進化している。しかし皮肉なことに、周囲に対する危険性はむしろ新型車の方が高まっているという調査結果がある。とりわけ近年のスポーツタイプ多目的車(SUV)は、ドライバーの視界が著しく狭くなっているのだ。

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 車両の安全性を評価する際、運転席からの視認性は基本中の基本である。視界のよし悪しは、歩行者や障害物の早期発見に直結し、事故回避のカギを握る。

 ところが視認性の広さは、これまで正確に数値化するのが難しかった。

・路上テスト

・比較検証

では主観的評価に頼らざるを得ず、客観的な評価基準が欠けていた。

 この課題に取り組んだのが、米国道路安全保険協会(IIHS)である。保険業界が設立した非営利団体で、事故予防や損傷軽減を目的に調査研究を行っている。

 IIHSは360度回転するカメラを運転席に複数設置し、体格の異なるドライバーの目線からの視界を撮影。撮影された画像はソフトウェアで解析され、車両を中心とした一定の半径内で、道路のどの範囲が見えるかが数値化された。同時に、

・Aピラー(前方支柱)

・ボンネット

・サイドミラー

など、視界を遮る構造要素も特定された。これにより、

・どこに死角があるのか

・周囲の何%が見えているか

を、上空画像として可視化する手法が確立された。

ボンネット高騰による死角

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米国道路安全保険協会のウェブサイト(画像:米国道路安全保険協会)

 今回、米マサチューセッツ州ケンブリッジにある米国運輸省ボルペセンターの研究者らが、IIHSの手法を用いて調査を行った。対象は1997年から2023年の間に販売された人気車種である。ドライバーの視界を数値的に測定した。対象車種は以下の6モデルだ。

・シボレー・サバーバン

・フォード・F-150

・ホンダ・アコード

・ホンダ・CR-V

・ジープ・グランドチェロキー

・トヨタ・カムリ

 分析は車両を中心にした半径10mの範囲で、ドライバーがどれだけ視界を確保できるかを測定した。この距離は時速約16kmで走行している際に、ドライバーが危険を認識して停止するまでに必要な距離とほぼ同じである。さらに、10mから20mの範囲の視界測定も行った。

 結果、新旧モデルで最も大きな視界差が見られたのはホンダ・CR-Vだった。1997年モデルでは68%の視界があったが、2022年モデルでは

「28%」

にまで低下している。また、2000年モデルのシボレー・サバーバンは、半径10m以内で56%の視界が確保されていた。しかし2023年モデルでは28%まで減少した。CR-Vとサバーバンの両モデルとも、新型ではボンネットの高さ上昇が視界悪化の最大の原因と結論づけられた。

 フォード・F-150は1997年モデルで視認性が43%と元々低かった。だが2015年モデルでは36%にさらに悪化している。

大型化が招く視界悪化

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交通事故イメージ(画像:Pexels)

 調査対象となった2台のセダン、ホンダ・アコードとトヨタ・カムリは、視認性の低下が最も小さい結果となった。2003年モデルのアコードは65%だった視界が、2023年モデルでは60%にとどまり、わずかな低下に留まっている。一方、カムリは2007年モデルの61%から、2023年モデルで57%に改善傾向を示した。

 10mから20mの視認性については、世代交代とともに改善するモデルもあれば、悪化するモデルもあり、結果はまちまちだった。

 フルサイズSUVなど、車高が高く運転席の位置も高い車種は視点が高く、周囲の状況を把握しやすいと一般にいわれている。しかし今回の調査は全く異なる結果を示している。走行テストセンターの運営ディレクター、ジェニファー・ストックバーガー氏は

「ドライバーが見通せない範囲は実際には増加しているのです」

と語る。

 つまり、年々大型化しボンネットが高くなっているSUVでは、新しいモデルほど視認性が低下しているのだ。

 この傾向を業界全体のトレンドと断定することはできないが、代表的な車両のデータは、前方視界が年々悪化している事実を端的に示している。

安全技術の裏に潜む危機

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リポート「人気車種における前方死角の変化の縦断的分析(1997年~2023年)」(画像:米国道路安全保険協会)

 またこの研究では、同時期に米国の道路で歩行者と自転車利用者の死亡者数が、それぞれ37%、42%と劇的に増加したことを指摘している。

 新型車は自動緊急ブレーキなど安全装備が充実している傾向にあるにもかかわらず、交通事故による死亡者が増えている。これは視認性の低下が少なくとも一部の原因である可能性を示唆している。

 新型車にはデジタルリアビューカメラなど、視界を補う技術が搭載されているものもある。リアウィンドウがない車種も珍しくなくなってきた。

 こうした視覚補助技術の普及により、設計者は車両のウィンドウ面積をさらに小型化し、どの部分が視界を遮るかを軽視する傾向が強まっている可能性がある。

 さらに、Aピラーの大型化や高張力鋼板の増加は、横転試験などの衝突安全性能を高めるための重要な施策である。乗員の安全性を高める効果がある一方で、ドライバーの視界を妨げる悪影響も及ぼしている。

 ボルペセンターの研究者たちは、外部視界の悪化傾向についてさらに調査が必要だと考えている。一方、IIHSは死角と衝突事故の関係を明らかにするため、約150車種の視界データを現在も収集中である。

 安全装備のイノベーションで乗員を守る技術は進化し続けている。しかし、歩行者や自転車にとって車がますます危険になっているとすれば、本末転倒と言わざるを得ない。“走る凶器”と化す車の設計には、早急な見直しが求められている。