イカゲーム超え「Netflix歴代1位」は再び韓国頼み

アニメーション映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』がドラマ「イカゲーム」を抜き、Netflix史上最多視聴記録を塗り替えた(画像:Netflix)
前王者「イカゲーム」に大差をつけて歴代1位に
Netflix史上最多視聴記録がついに塗り替えられました。これまで韓国発ドラマ「イカゲーム」が全作品のトップに君臨していましたが、アニメーション映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』が配信開始から11週目にしてその記録を抜き、Netflix最大のヒット作となりました。
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『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は独占配信スタート直後から世界各国で1位を獲得し、Netflixから最新数字が発表された9月10日現在の累計視聴回数は2億9150万回と、2位の「イカゲーム」(シーズン1)、3位の「ウェンズデー」(シーズン1)を大きく引き離しています。さらに劇中歌もヒットし、グッズ展開も広がり、快進撃はまだまだ続くとも言われています。
オリジナルの実写ドラマシリーズで名を馳せたNetflixが、ミュージカル調のCGアニメ映画でまさかの成功です。言うなれば、ディズニー最大の稼ぎ頭『アナと雪の女王』を彷彿とさせるヒットの方程式を描いています。
ただし、ヒロインに据えたのはプリンセスではありません。今どき要素を使いこなすNetflixらしく「超人気K-POPアイドル」です。主人公はガールズグループ「HUNTR/X(ハントリックス)」のメンバーでありながら、“デーモンハンター”として戦う使命を持つスーパーヒーロー女子でもあります。特殊能力を持つヒロイン像に関してはアナ雪のエルサに近いものを感じます。
いわゆる“王子様”ポジションも然り。悪魔たちが送り込んだK-POPボーイズグループ「Saja Boys(サジャボーイズ)」のセンターがヒロインのお相手であり、悪役でもあるのです。

悪魔たちが送り込んだという設定のK-POPボーイズグループ「サジャボーイズ」のジヌ。彼のキャラクターストーリーは韓国ドラマみがある(画像:Netflix)
偽りのない生き方をテーマに、世界を救うために悪魔と闘うというストーリーをハリウッド式の3幕構成でわかりやすく見せています。さらにK-POP文脈で新鮮味を出し、ユーモアを交えたキャラクターの魅力の引き出し方も申し分ありません。
主人公のルミをはじめ、ガールズグループメンバーのゾーイ、ミラの受け入れられやすい個性はもとより、ボーイズグループのジヌが持つキャラクターストーリーが何より憎い。
朝鮮王朝時代の400年前まで遡って悪魔に魂を売った背景は韓国ドラマみがあり、単なる悪役に終わらせず揺れ動く心情の描き方も巧みです。ルミと付き合うのか付き合わないのか、じれったくなるような不器用な恋愛模様まで盛り込まれているのです。
そのほか、マスコットキャラの虎ダフィもユーモアのアクセント付けに光る存在です。見た目こそ『不思議の国のアリス』のチェシャ猫や『となりのトトロ』のネコバスにどことなく似ていますが、オリジナリティのある可愛らしさを表現しています。
ソニーグループとNetflixの“超強力タッグ”
すかさずマーチャンダイジングの展開も進んでいます。作品のグッズ化にも力を入れる流れの中で、公式NetflixショップではHUNTR/Xとサジャボーイズそれぞれの帽子やTシャツなどのアパレル商品をそろえています。
そればかりか、劇中でルミたちがカップ麺を頬張るシーンとまったく同じ「辛ラーメン」特別版が韓国限定で発売され、関連食品商品が北米、欧州、オセアニア、東南アジア、メキシコなど世界各国で展開する動きにまで広がっています。

劇中でルミたちがカップ麺を頬張るシーンとまったく同じ「辛ラーメン」特別版が韓国限定で発売され、マーチャンダイズ展開も進む(画像:Netflix)
柔軟にビジネスを拡大できるのは原作のないNetflix完全オリジナル作品のアニメであることが大きいでしょう。それはもちろんストーリーとキャラクターの良さがあってこそで、作品を企画し、制作したソニー・ピクチャーズ アニメーションの手腕が活かされていると思います。
本作は同社所属の韓国系カナダ人のマギー・カン氏のアイデアをもとに作られ、彼女が脚本と共同監督を務めています。長編映画作品監督としては今回が自身初だそう。過去にはイルミネーション・エンターテインメントで『ミニオンズ フィーバー』のストーリーアーティスト参加やワーナー・アニメーション・グループで『レゴニンジャゴー ザ・ムービー』のストーリー責任者で実績を積んでいます。
有望株のクリエイター起用を応援するNetflixらしい人材でもありますが、ソニーグループとタッグを組んだ戦略性が今回の成功につながったと思います。クリエイター作品の冒頭クレジットのNマークに続くのはソニーのロゴです。Netflixとソニーグループが組んだことが印象づけられています。
自社の総合配信プラットフォームを持たずに、配給からその先のビジネス展開まで「儲ける仕組み」を作品ごとに変えてきたソニーのエンタメビジネス力をNetflixは借りたともいえます。ソニー側は韓国ローカル色の強い今回の作品はNetflixでこそ活かされると判断した目利きがあったのだと想像できます。
サウンドトラックが各国チャートを席巻
ミュージカル仕立ての劇中歌の仕掛けも巧みです。たとえK-POPに興味がなくても、ヒットマーケティングを駆使して生まれたような楽曲はどれも聞き馴染みが良いと感じるはず。名曲感たっぷりです。身体が勝手にリズムに乗るK-POPの醍醐味を表現しています。
サウンドトラックが各国チャートを席巻している状況です。アメリカのビルボード・ソング・チャート「ホット100」で劇中歌の4曲が同時にトップ10入りし、これまでのストリーミング再生数は全世界で30億回以上と、今年最大ヒットのサウンドトラックになることは間違いなさそうです。
歌いながら作品を楽しみたいというニーズを汲んで、アメリカなどで期間限定の“応援上映”が行われると、北米の週末興行収入ランキング(8月23、24日)で1位を獲得してしまうほどの勢いです。カナダやオーストラリア、ニュージーランド、イギリスでも1000回以上の上映が行われ、いずれも完売だそう。劇場でもヒットを飛ばす作品なのです。
一部の業界アナリストから皮肉まで言われています。というのも、今年はじめにNetflixの共同CEOテッド・サランドス氏が「観客が本当に求めているのは自宅で映画を観ることだ」と話していたからです。この発言とは裏腹に、真逆の反響があったNetflixは今後、劇場公開への消極的姿勢を見直すかどうか、そんな視点からも注目されています。

劇中歌のストリーミング再生数が全世界で30億回を超え、今年最大ヒットのサウンドトラックとなりそうだ(画像:Netflix)
日本では盛り上がりに欠けるが今後は?
一方、日本では海外ほどの熱量は感じられません。配信開始2週目以降、公式週間ランキング映画部門の10位以内を維持し、これまで週間1位まで上昇することもあり、遅れてブームが到来する可能性はなきにしもあらずですが、あえて再びアナ雪と比較すると、決定的に条件が欠けています。
本編は日本語吹き替えでも視聴できますが、何度も登場する劇中歌に日本語バージョンはなく、オリジナルの英語(一部は韓国語)のままです。「レリゴー」を「ありのままの」にするようなローカル版の徹底はありません。
そもそもミュージカル系作品はNetflixとしては新たな試みです。どう対応していくのかが今後の課題となりそうですが、子どもから大人まで見る人を選ばないような作品で成功事例を作り出したことの価値は大きいはず。Netflixなりに学びがあったのではないでしょうか。