約1000個の「ヘアドネーション」達成! 子どもに「医療用ウィッグ」を届けた先の「想定外の課題」とは?
「脱毛症」「無毛症」など、髪を失った子どものために寄付された髪の毛で医療用ウィッグを作り、無償で提供する活動「ヘアドネーション」。専門団体『NPO法人JHD&C(ジャーダック)』代表・渡辺貴一氏へ取材。始めたきっかけや、ウィッグを届けたその先にある問題などについて。(全2回の後編)

イラスト/古屋あきさ
「脱毛症」「無毛症」「乏毛症」などの病気や、抗がん剤治療の副作用で髪を失った子どもたちのために、髪を寄付して医療用ウィッグを作り、無償で届ける「ヘアドネーション」の活動を2009年から続けてきたNPO法人ジャーダック(JHD&C)代表・渡辺貴一さん。
これまでに約1000個のウィッグを子どもたちに届けてきた渡辺さんですが、その一方で、本当に目指すのは「必ずしもウィッグを必要としない社会」だと話します。
後編では、渡辺さんにヘアドネーションの活動への思いと課題を語ってもらいました。
NPO法人JHD&C(ジャーダック)
Japan Hair Donation & Charity。通称ジャーダック。2009年、日本で初めてヘアドネーションを専門に行う団体として活動スタート。頭髪に悩みを持つ18歳以下の子どもたちに無償提供をしている。今まで届けたウィッグは約1000個。
https://www.jhdac.org/
「この髪の毛、もったいないね」という会話がきっかけ
──ジャーダックを立ち上げたきっかけを教えてください。
渡辺貴一代表(以下、渡辺さん):私はもともと美容師なのですが、私ともう1人の美容師の2人で2009年に立ち上げました。
立ち上げたきっかけはすごくシンプルです。美容師をやっていると「この髪の毛、もったいないね。ウィッグでも作れたらいいのにね」という会話が、本当によくあります。
特に、腰くらいまで髪を伸ばした人が「もう飽きたから切っちゃおうかな」って、バッサリいくときなど、全国どこの美容室でも、きっと同じような会話がされていると思います。
でも、当時の日本には、髪の毛を寄付してウィッグを作って、それを無償で届ける団体はひとつもなかった。それで、「じゃあ、自分たちでやってみようか」という、本当にそのくらい気軽な思いで始めたのが最初でした。

オンライン取材中のジャーダック代表・渡辺貴一さん。
渡辺さん:それともうひとつ。美容室は、全国になんと約27万軒あるんですよ。その数はコンビニの約5倍以上(令和5年度衛生行政報告例の概況)。そのなかで、自分たちが新しく美容室をオープンさせるなら、なにかひとつ意味があることをしたかったというのもありました。
お金になるようなことじゃないけど、誰もやっていないことは何だろうと考えて、思いついたのがヘアドネーションだったんです。誰もやっていないことに取り組むことで「自分たちの店の差別化ができたら」というのも、正直な動機のひとつでした。
ですので、メディアで「子どもたちの笑顔のために」などと私たちが紹介されることがありますが、正直、そんな崇高な理想から始めたわけではありません。
そしてこの活動が、まさかここまで大きくなるとは想像もしていませんでした。
「ウィッグをかぶればママが泣かないから」
──ウィッグを届ける活動を続ける中で、課題はありますか?
渡辺さん:私たちは「ウィッグを届ければ、それで問題が解決するわけではない」と考えています。届けることで一見、お渡しした本人やご家庭の問題が解決したように見えるかもしれませんが、実際には問題が「先送り」になってしまっているだけなのです。
──どういうことでしょうか?
渡辺さん:子ども自身が「ウィッグをつけたい」と思っているなら、それはいいんです。でも、多くのご家庭を観てきましたが、必ずしもそうではないケースも多い。
実際には、子どもはそれほどウィッグを必要としていないのに、親の側が「髪の毛がないのはかわいそう」と思い込んでしまい、かえって子どもを苦しめていることがあるのです。

イラスト/古屋あきさ
渡辺さん:例えば、ある高校生の女の子が、ウィッグのサイズを測りに来たときのことです。彼女の頭の形がとてもきれいで、見た目も本当にかっこよかったので、思わず「ウィッグしないほうがすごく似合っているよ」と声をかけました。すると彼女は、「やっぱりそう思う?」と、嬉しそうに返してくれたのです。
ところがその直後、お母さんが「毛があるあなたには子どもの気持ちはわからない。無責任なことを言わないでください!」と、怒りだしてしまいました。
彼女自身は、自分の頭の形を気に入っていたのですが、お母さんは「女の子に髪の毛がないなんてかわいそう」と思い、もしかしたら本人の気持ちが尊重されなかったのかも知れません。
また、別の男の子ですが、「どうしてウィッグをかぶっているの?」と尋ねたら、「僕は別にいらないんだけど、ウィッグをかぶると、ママが泣かないから……」と答えてくれたこともありました。
本人は必要としていない。でも、親を安心させるために子どもはかぶっている……。そんなケースもあるのです。
目指すのは「必ずしもウィッグ」を必要としない社会
──まさに、「誰のためのウィッグか」が問われる場面ですね。
渡辺さん:そうなんです。本人の意思が、完全に置き去りにされてしまっている。しかもウィッグって、実はとても不便なんですよ。特に夏場は蒸れるし、暑いし、かゆくなる。
私たちはよく、「家に帰ったら、靴を脱ぐより先にウィッグを外す」という話を聞きます。マスクを取るより、ランドセルを下ろすより、最初にウィッグを放り出す。
それだけ、ストレスがあるということなんです。

イラスト/古屋あきさ
──ジャーダックの今後の展望を教えてください。
渡辺さん:私たちが目指すのは、「ウィッグを使ってもいいし、使わなくてもいい」という、当たり前の自由がある世界です。
これまでジャーダックは、髪の毛を集めて、ウィッグを届けてきましたが、本当の目的は、その先にある「必ずしもウィッグがいらない社会」です。
ウィッグをつけてもいいし、つけなくてもいい。そんな「選択の自由」が保障された社会こそ、「誰にとってもほどほどに心地よい社会」になるのではないでしょうか。
だからこそ今後は、「ウィッグがあるかないか」にとらわれない、「あなたはそのままで大丈夫だよ」と伝えられるような社会づくりにもかかわっていきたいと思っています。
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ウィッグを届けることは、目的ではなく通過点。最終的に目指すのは、「ウィッグをつけても、つけなくてもいい」と心から言える社会であることを教えていただきました。そのためにも、まずはヘアドネーションやウィッグを必要とする子どもたちがいることについて、私たち一人ひとりが知ることから始めるのが重要なのかもしれません。
取材・文/横井かずえ
ヘアドネーションの送り先
〒531‐0072
大阪府大阪市北区豊崎3‐8‐18
NPO法人JHD&C事務局
宅配便記載用電話番号:06‐6147‐5316
*お電話でのお問い合わせには対応しておりません
*個別の到着確認はできませんので「追跡サービス」付きの発送方法をおすすめします。
NPO法人JHD&C(ジャーダック)
Japan Hair Donation & Charity。通称ジャーダック。2009年、日本で初めてヘアドネーションを専門に行う団体として活動スタート。頭髪に悩みを持つ18歳以下の子どもたちに無償提供をしている。今まで届けたウィッグは約1000個。
https://www.jhdac.org/