「ボランチできるか?」指揮官に問われた欧州日本人DFは“人生初挑戦”も即答で「できます!」。あらためて垣間見せたフットボールIQの高さ【現地発】

「ボランチできるか?」指揮官に問われた欧州日本人DFは“人生初挑戦”も即答で「できます!」。あらためて垣間見せたフットボールIQの高さ【現地発】

4月24日のAZ対NAC戦(1-1)で、毎熊晟矢(AZ)がオランダリーグで初めてアシストを記録した。0-1のビハインドで迎えた後半アディショナルタイム7分、右サイドバックのデンソ・カシウスが上げたファーへのクロスを、毎熊が相手DFの死角から打点の高いヘッドで折り返し、ゴール正面で待ち構えていたFWマックス・メールディンクのオーバーヘッド弾を引き出した。

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「負けていたので点を取りに行くしかない場面で、危険なところに入っていきました」

ヨーロッパリーグでは2ゴール・2アシストを記録したばかりでなく、自身のシュートがGKにセーブされたこぼれ球を味方が押し込むなど、AZのゴールに関与し続けた毎熊だっただけに、リーグ戦出場23試合目での初アシストということに少し驚きを覚える。

「(リーグ戦では)アシストの前だったり、チャンスを作っても最後に入らずアシストが付かないというのが続いていたので、やり続けるしかないと感じてました。ひとつ、(アシストが)付いたのは安心しましたけれど、遅かったなあという風には思います」

膝の負傷から癒えたばかりの毎熊は3日前のKNVBカップ決勝、対ゴー・アヘッド・イーグルス(1-1。PK戦でゴー・アヘッド・イーグルスが優勝)で延長前半4分までプレーしたということもあり、NAC戦ではベンチスタートだった。彼の出番は0-0で迎えた70分、ポジションはボランチだった。

「前日、(マールテン・マルテンス)監督から『前めのポジションで使うかもしれない』と言われました。『前のポジションはやっていたのでできます』と答えたんですけれど、試合に出る直前にいきなり『ボランチはできるか?』と訊かれたので『できます』と答えました。人生初のボランチでしたけれど。もうちょっと相手にとって怖いところにパスを刺したり、侵入したりしたかったんですけれど、相手も(コンパクトな陣形で守って)中を絞っていたので難しかったです」

KNVBカップ決勝で披露した毎熊のパフォーマンスを振り返ると、マルテンス監督の「前めのポジションで使うかもしれない」「ボランチはできるか?」と毎熊に問いかけたのが理解できる。

ゴー・アヘッド・イーグルスの左サイドはウイングのマティス・スライが中に絞って4バックのAZに対して4対4の形を作ったり、中盤を厚くしたりするなか、左SBのアスケ・アデルガールドが大外のスペースに駆け上がってきた。

右SBを務める毎熊にとってはスライに付くか、アデルガールドに付くか、難しい判断が絶え間なく生じる展開だったが、スペースマーキングもマンマーキングもしっかりこなしたうえ、さらにゴー・アヘッドのMFエンリク・ヤンサナがデリバリーするビルドアップのパスも読み良く、幾度かインターセプトした。20分、FWトロイ・パロットのシュートがゴールポストに当たったシーンや、FWアーネスト・ポクが積極的にシュートを放った場面は共に毎熊のインターセプトがAZの攻撃の始点となっていた。

こうした守備のタスクをしっかり果たしながら、AZがボール保持した時の毎熊は中盤、サイドアタッカーの役割もこなす。試合を通じて毎熊の中盤での貢献度は高く、パスワークが非常に安定していた。サイドアタッカー役としての毎熊は味方を使ったワンツーでの突破が利いており、47分にポクが倒されPKを奪ったひとつ前のシーンでは、毎熊がMFペール・コープマイナースとのワンツーから右サイドを攻略し、そこから正確かつ強く低いクロスをゴール正面のパロットに通していた。

「(膝を痛めて1か月間戦線離脱してから)ヘラクレス戦で25分間だけプレーしただけだったので決勝戦のコンディションは万全ではなく、90分を迎える前に足を攣りました。決勝戦では、あの時の僕が出せるすべてを出せたと思います」

以前にも毎熊のことを「ピッチの至るところに顔を出すユリエン・ティンバー(現アーセナル)のアヤックス時代に、プレーが被る」「360度の視野を持つ毎熊は、相手CBを背負ってポストプレーもこなせる稀有な右SB」と彼の多機能ぶりを評したことがあるが、マルテンス監督も毎熊ならFWもMFもできるという確信を持っているのだろう。

――SBの選手が360度の視野でプレーできるのは大きいですね?

「そうですね。自分はもともとFWをやってましたので。日本でもそうですけれど、オランダにはより中でプレーできるサイドバックがいないと感じます。ここでは自分の違った良さを出せるんじゃないと思います」

KNVBカップ決勝という大舞台。1-0でリードして迎えた後半アディショナルタイム7分、コープマイナースが相手選手にユニホームを掴まれてバランスを崩したところ、ゴー・アヘッド・イーグルスの蹴り込んだクロスが手に当たってしまいハンド。毎熊もレフェリーに「相手の反則じゃないか」と詰め寄ったが判定は覆らず、ゴー・アヘッド・イーグルスが起死回生のPKを決めた。結局、AZはPK戦の末に敗れ去る。もう少しというところで取り損ねたタイトルに、決勝直後の毎熊の目には涙が滲んでいるようだった。

「僕がセレッソ大阪1年目の2022年、ルヴァンカップ決勝戦(対サンフレッチェ広島。1-2の敗戦)、セレッソが1-0でリードしていて、後半ロスタイムに同じような形でVARでハンドを取られて追いつかれて、そのままロスタイムで勝ち越されて負けたことがありました。今回はそれにちょっと似たものがありました。セレッソでのことがあったので、今回は勝ちたいという気持ちが強かった。それだけに心に堪えるものが大きかったです。

正直、次の日までは堪えました。なにも考えない時に決勝のことが出てきてしまうんです。昨日の夜も寝る前に考えちゃいました。しかし、やっぱりプロである以上目の前の試合は100%でやらないといけない。すぐに試合があったので切り替えて、この試合に勝つために2日間過ごしました」

前節終了時点で7位のゴー・アヘッド・イーグルスは、KNVBカップで優勝したことにより来季のヨーロッパリーグのグループフェイズにストレートインする。一方6位のAZは4チームによるプレーオフで来季のカンファレンスリーグ予選2回戦への切符を勝ち取らなければいけない。

「決勝戦の負け方もちょっと心にくるものでしたし、次の日はみんなけっこう暗いムードだったんですけれど、プレーオフもありますし、もう一度違うゴールに向かおう、と。5位だとより優位になりますし、そういう話もして新たな目標を掲げてみんなでやってきただけに、今日は勝ちたかった。

(AZはリーグ戦で3分け4敗、KNVBカップ、ELラウンド16で負けるなど)うまくいかない流れがずっと続いている。ちょっとだけ次の試合(5月4日。対ゴー・アヘッド・イーグルス)まで空くのでリフレッシュしたい。次は決勝で負けた相手ですし、勝って、残り試合、ひとつでも上で終われるように全部勝つつもりでやらないといけません」

悔しさを引きずってはダメ。しかし悔しさを忘れる必要もない。シーズン大詰め、若きAZのイレブンに負けじ魂が試される。

取材・文●中田 徹