達川光男が占う日本シリーズ 阪神有利の下馬評も「モイネロ次第で…」“内弁慶”シリーズのキーマンは?

 10月25日に開幕するプロ野球の日本シリーズは、2年ぶりの日本一を目指す阪神と、昨季、DeNAに敗れたリベンジに燃えるソフトバンクが対戦する。制するのは果たして――。広島の名捕手として活躍し、日本シリーズに進出した両チームでコーチ経験もある野球解説者の達川光男さんに聞いた。

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■キーマンはモイネロ 懸念は寒さ

「阪神優位と見る評論家は多いようだが、レギュラーシーズンと日本シリーズは別もの。日本一はソフトバンクだろう」

 達川さんは、ズバリ予想する。

 セ・リーグを制した阪神はペナントレースを独走し、クライマックスシリーズファイナル(以下CS)も3連勝で勝ち抜いた。一方のパ・リーグのソフトバンクはペナントレースを制するも、日本ハムとのCSでは3連敗で逆王手をかけられるなど、苦しみながら2年連続で日本シリーズ進出を決めた。

「両チームに力の差はほぼない」としながら、ソフトバンクを日本一と予想する達川さん。ただし条件がつくという。“モイネロの2勝”だ。モイネロは今季12勝を挙げ、最優秀防御率のタイトルを獲得。CSでも第1、6戦に先発し計14イニング1失点で、NPB通算では355試合で防御率1.80。まさに投手陣の要だ。今年の日本シリーズは第1、2戦が本拠のみずほPayPayドーム福岡で、第3~5戦が敵地の甲子園。第6、7戦は福岡に戻る。モイネロは20日にCS第6戦で登板したことから、最初に投げるのは第2戦になる見通しだ。

「登板は福岡で2回でしょう。タフだから中5日以下で回れる。ただ、僕が1軍のヘッドコーチだったときに彼が1年目。キューバ出身ということもあってか、春先とかには投げたがらなかった。寒さがこたえるんだよね。最近急激に気温が下がってきたから、回復度合いが一番の鍵になると思う」

 ソフトバンクの先発陣はモイネロ以外にも、有原航平、大関友久、上沢直之が2桁勝利を挙げている。日本ハムとのCS6試合は最大でも3点止まりと、打線が湿りがちなだけに投手陣にかかる期待は大きい。

「今、当たっているのは誰もいないもんね。あえて打線のキーマンを挙げるとすれば牧原(大成)。首位打者に輝いたけど、CSでは重圧からなのか快音がほとんど聞かれなかった。ムードメーカーだし、彼が上位を打つようになれば勝てると思う」

■阪神の坂本、SBの海野 捕手には大きな差

 左脇腹痛で9月28日に出場選手登録を抹消された近藤健介の復帰も大きい。昨季のパ・リーグ首位打者、最優秀選手で、長く日本代表で中心打者を務めるなど球界屈指の好打者だ。

「起用法は代打だろうが、ベンチにいるだけで心強いだろうね」

 日本ハムとのCS第6戦でポストシーズン初安打を放った牧原が、重圧から解き放たれ、ベンチに控えるであろう近藤がここぞの場面で使えれば、打線が爆発することもありうる。

 日本ハムと6試合を戦ったことで、日本シリーズ開幕ギリギリまで実戦を経験できたこともソフトバンクの追い風になると達川さんは見る。

「日本ハムの伊藤大海や達孝太の速く落ちる球は相当よかった。日本シリーズ直前にそれを見ていたのは大きいね。阪神の村上(頌樹)、才木(浩人)の落ちる球には対応できるんじゃないかな」

 その阪神投手陣は、最多勝・最多奪三振の村上、最優秀防御率の才木に加え、高橋遥人、大竹耕太郎、デュプランティエと先発陣が盤石。中継ぎも、60試合以上の登板で防御率0.87の及川雅貴、NPB記録を更新する50試合連続無失点の石井大智に、31セーブの岩崎優と粒ぞろいだ。

 打線は一部ファンの間で“コア5”と呼ばれる不動の上位打線が健在。盗塁王の近本光司、最多犠打の中野拓夢、23本塁打の森下翔太、本塁打と打点2冠の佐藤輝明、精神的支柱として前を打つ2人を支える大山悠輔と、1番から5番まで怖い打者が並ぶ。

 達川さんも、日程などを勘案すれば今回の日本シリーズはソフトバンクが有利と見るが、同じ条件で戦えば戦力の充実度から「阪神に分がある」と語る。

「甲子園球場で阪神を破るのは並大抵ではない。ソフトバンクがホームでの第1、2戦の一つでも落とすようなら、阪神が勝つだろうね」

 達川さんが阪神のキーマンと指摘するのは、今季から正捕手になった坂本誠志郎だ。自己最多の117試合に出場、プロとして初めて日本代表に選出されるなど、充実の一途をたどる。

「そらもう坂本は今、12球団一の捕手じゃもん。キャッチングはもちろん、リードもうまいし、相手もよく見えている。誰が調子が良くて誰が悪いのかを判断できている。ソフトバンクの海野(隆司・捕手)はまだ捕るのが精いっぱい。打たれてから配球を変えるという感じだけど、坂本は打たれる前に変えるからね。阪神とソフトバンクでは、そこに大きな差がある」

■阪神の好左腕にソフトバンク打線は手こずる

 ソフトバンクは長年、正捕手を務めた甲斐拓也が今季から巨人に移籍。序盤は嶺井博希らとの併用だった海野は、後半戦に入って正捕手に定着。自己最多の105試合に出場した。プロ6年目だが、崖っぷちまで追い込まれた日本ハム戦を乗り越えたことで、大きな成長も見込めそうだ。

「僕もそうだったけど、1984年の阪急との日本シリーズの苦しい経験があって、正捕手の座をがっちりとつかめた。捕手は厳しい戦いに勝ってこそ伸びる。海野は日本ハム戦での表情を見てもいっぱいいっぱいで、焦っている様子が見て取れた。そこを乗り越えたことがどう出るか、だろうね」

 阪神投手陣で鍵を握るのは高橋だ。DeNAとのCS第3戦に先発し、八回1死まで無安打無得点の快投を見せた。

「ソフトバンク打線は高橋をなかなか攻略できないんじゃないか。パ・リーグにはいないタイプだから。好左腕という意味ではオリックスのエース・宮城(大弥)がいるが、彼以上に球速があって力で押してくる。ソフトバンク打線は左打者が多いし、DHが使えない甲子園ではおのずと打線が切れるから、高橋の調子次第では相当苦しむのでは」

 星勘定はどうなるのか。ソフトバンクを推す達川さんは「4勝3敗」と見る。

「2003年の日本シリーズ、ダイエー対阪神みたいな、ホームチームが勝つ内弁慶シリーズの様相になるね。周りの評論家20人くらいに予想を聞いたら、ほとんどが『阪神が優勝』『阪神が圧倒的に強い』と言っていたけど、僕は日本シリーズを選手で5回、コーチで3回、経験しているからね。ペナントレースやCSでの戦いぶりだけで『阪神です』とは判断できないんですよ。とはいえ、すべての試合が、僅差の戦いになるんじゃないですか」

(AERA編集部・秦正理)