財布からお金がなくなり、備品も…社長が10年間目をかけてきた38歳役員候補が社内で窃盗疑惑を受けるまで

本人の代わりに退職の意思を伝える退職代行サービス「退職代行モームリ」を運営するアルバトロス(東京都品川区)が弁護士法違反の疑いで警視庁に家宅捜索され、話題となっている。いわゆる「非弁」行為が疑われており、報酬目的で弁護士以外の人が代理人として交渉したり、第三者にあっせんしたりする行為を指す。

代表は法的な本来弁護士に相談すべきところ、心理的ハードルが高くあきらめていたことを、「退職代行サービス」という会社の存在が、「我慢しないで行動する」ことを後押ししたともいえよう。ただ、どんな仕事もなにをもって「もう無理」と考えるのか。そこには社内でコミュニケーションがとれるかどうかにも寄るだろう。逆に、雇用側から解雇をすることももちろん制限がある。性別やジェンダー、妊娠や出産、介護を理由に解雇をすることは法律で禁じられており、厚生労働省のHPには以下のように書かれている。

“勤務態度に問題がある、業務命令や職務規律に違反するなど労働者側に落ち度がある場合が考えられますが、1回の失敗ですぐに解雇が認められるということはなく、労働者の落ち度の程度や行為の内容、それによって会社が被った損害の重大性、労働者が悪意や故意でやったのか、やむを得ない事情があるかなど、さまざまな事情が考慮されて、解雇が正当かどうか、最終的には裁判所において判断されます。”

キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。「ここ5年ほど、従業員が社内で窃盗や横領をしているという調査依頼が増えています。解雇をすべきなのかを調べ、するとしたら正当な理由があるという証拠をおさえる意味もあります」という。

山村さんは「困っている人を救える人になりたい」という気持ちが強い。学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修行に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。

従業員が社内で窃盗を…, 後継者のつもりで育ててきた, 社内での窃盗事件が多発, 社員がトイレにもバッグを持っていくように

カウンセリングルームでの山村佳子さん。裏には探偵をするにあたって必要な警察の証明書が

これまで「探偵が見た家族の肖像」として山村さんが調査した家族のことをお伝えしてきたが、この新連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにして行ったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮しながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。

今回山村さんのところに相談に来たのは55歳のサプリメント会社社長・華代さん(仮名)だ。「うちの会社の内部で窃盗が横行しています。ある社員を調べて欲しいのです」と山村さんのところに相談してきたのだ。

従業員が社内で窃盗を…

華代さんから「従業員が自社製品を横流ししたり、社員の財布からお金を抜いているみたいです。ショックで横浜まで来てしまいました」と連絡がありました。この連載を愛読してくださっており、「調査することがあれば、山村だ」と思ってくれていたそうです。

それから10分ほどで「いかにも社長」という雰囲気の貫禄ある女性がカウンセリングルームに入ってきました。身体を鍛えていることがわかり、華やかなで堂々とした雰囲気です。

「私はサプリメントの製造販売会社を経営しています。約20年前に急死した父から事業を受け継いでから、コツコツと商品を開発し、地道に事業をしてきました。おかげさまで売り上げも利益も増え続けています」

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東京に本社を構え、現在、正社員は10人ほど。先代から勤務する50代後半の役員が1人、あとは30代の役員候補が3人と営業、総務で会社を回しているそうです。相談に来たのは、30代の役員候補の女性についてでした。

「今、海外進出を目指して、会社一丸となって頑張っているところなのですが、半年前から38歳の役員候補の女性がおかしくなったのです。それまで真面目だったのに、派手になりました。心ここに在らずという状態が続き、あからさまに手を抜いたり誤魔化すようになったのです。朝の遅刻も増えていきました。ホストふうの男性と歩いていたところを見たという目撃談も耳に入ってきたのです」

後継者のつもりで育ててきた

問題点を指摘すると「今後は頑張ります」と涙目で謝罪するそうです。

「彼女は理系の大学を卒業しており、派遣社員を経てうちの会社に入ってくれました。研究者の友人も多く、人脈も豊富です。入社早々、目覚ましい成績を残したので役員候補にすると伝えました。彼女に大企業並みの給料を払いたいと思い、経営者として気合を入れ直しました。それまでのんびりした社風だったので、あれは私の転期だったと思っています」

女性も華代さんの期待に応えるために頑張ります。慣れない営業やPRをこなし、研究機関や製造委託先企業のやりとりなども行うように。

「ただ、ちょっと気持ちが弱いというか、肝心なところで逃げるようなところもありました。でもそれは鍛えることができる。かつての私と共鳴するようなところもあったのです。それに、私は結婚していますが、子供がいない。彼女を後継者にするつもりで10年間育ててきたのです。

ただ、彼女は考え方が短絡的だったり、自分の利益を優先したりするようなところがあり、“ちょっと厳しいかもしれない”と思うこともありました。私も彼女も頑張りましたが、経営者の器がないとダメなものはダメなのです。だんだん諦めに近くなり、最近は扱いがぞんざいになっていきました。私が諦めたことと彼女がサボるようになった時期は重なります」

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社内での窃盗事件が多発

華代さんは「まあ、経営者になれないなら、別の仕事をさせればいいだけなのです。今日ここにきたのは、別の理由があるのです……」と深刻な表情で話し始めます。

「今日、倉庫にあった見本で配るための商品や、予備で置いてあった商品が一気になくなっていることがわかりました。これは、社内で誰かが盗んだとしか思えない。たぶん、それをやったのは彼女だと思うのです」

倉庫を見回してみると、他にもいろいろなものがなくなっていました。

「今は外注しているので使っていない、店頭ポップデザイン用のパソコンやタブレット端末、商品撮影用のミラーレス一眼、どこかの会社のビンゴの景品でもらったゲーム機やブランドのクリスタルのグラスなどもなくなっていました。あとは先代の社長、つまり私の父が集めていたウイスキーの一部もなくなっていました」

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社員がトイレにもバッグを持っていくように

オフィスに戻ると、社員はトイレにも自分のバッグを持っていくことに気が付きます。

「親の代からいる役員の男性に、その理由を聞いたところ、彼女のデスクをあごで指し、人差し指を曲げるようなハンドサインをしました。これは“盗む”という意味です。別室で聞くと、“1ヵ月ほど前から、あの子が財布からお金を抜いている疑いがある。だからみんな自衛しているんですよ”と話してくれたのです」

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また、この男性はブランドのボールペンを最近無くしたのだけれど、盗まれた可能性を示唆します。他にも、従業員一人ひとりの動向を慎重に聞き取りした結果、役員候補として一番目をかけていた38歳の女性が犯人の可能性が高いことがわかったそうです。ある女性社員は、メイクポーチから買ったばかりのリップグロスを取られたことを告白。また、給湯室で埃をかぶっていた、先代が購入した接客用の食器ブランドのティーセットも消えていることもわかります。

「さらに、この窃盗事件の被害によって、営業のエースとその他の役員候補が『こんな会社にはいられない』と辞表を提出する準備をしていることもわかりました。それでは全く回らなくなってしまう。彼女が盗んでいる証拠を固め、円満に退職してほしいのです。とはいえ、彼女が盗んでいる手元を見たわけではありませんので、別の人が盗んでいる可能性もあります。やはり、しっかり証拠を固めて、私自身の気持ちの清算もしたいのです」

10年間、次期社長として目をかけてきた彼女の盗みを認めることは、華代さん自身が「人を見る目がない」という事実と向き合うことでもあります。これは経営者としてとても苦しい。だからと言って見て見ぬふりができる問題でもありません。

彼女と話し合い、退職してもらうための調査に入ることにしました。

◇窃盗の犯人が30代の役員候補女性と決まったわけではないが、ホストふうの男性と会っていたという目撃談も気にかかる。まずは現実をきちんと知り、そこで決断する必要がある。そして誰かが窃盗をしていたとしたら、その理由と改善策も重要だ。

では事実はどうなっているのか。後編「「結婚しよう」38歳役員候補の女性が「社内窃盗」していた理由は…マッチングアプリで出会った「相手」」にて詳しくお伝えする。