競馬記者が見た『ザ・ロイヤルファミリー』(4)佐木隆二郎のイメージと重なるのは安藤勝己? 岩田康誠? 内田博幸? それとも戸崎圭太?

『ザ・ロイヤルファミリー』第4話の1シーン©TBSスパークル/TBS
俳優、妻夫木聡が主演を務めるTBS系日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(日曜後9・0)が放送中だ。競馬の世界を舞台に夢を追い続けた熱き人間と競走馬の20年にわたる壮大なストーリー。山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞をダブル受賞した、作家・早見和真氏による同名小説が原作のドラマをキャリア30年超の競馬記者が毎週の放送に合わせてレビューする。
※以下、『ザ・ロイヤルファミリー』のネタバレが含まれます。
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ロイヤルホープの主戦騎手を務める佐木隆二郎(高杉真宙)が、原作と違って地方競馬の騎手として登場した。『ザ・ロイヤルファミリー』ではこれまでも競馬界の対立構造を描いてきた。潤沢な資金で高額な競走馬を購入して多くの大レースを勝つ馬主と競り合いに敗れて落札できない馬主。ここで競走馬を購入しないとGⅠレースを勝てないとまで言われる大牧場と高齢化問題や後継者不足によって減少の一途をたどる日高地方の中小牧場。

『ザ・ロイヤルファミリー』第4話の1シーン©TBSスパークル/TBS
ドラマで佐木隆二郎を地方・岩手競馬所属の騎手としたことで、同じ日本にいながら「住む世界は異なっている」とドラマのナレーションが伝える中央競馬と地方競馬の騎手の差異を浮き彫りにした。
中央競馬の騎手になるためには千葉県白井市にある競馬学校の騎手課程の試験に合格後、少なくとも3年の日々を競馬学校で学び、中央競馬の騎手免許試験に合格しなくてはならない。一方、地方競馬の騎手になるには、地方競馬教養センターに入り、2年間の騎手養成課程で学ぶ必要がある。
なぜ2つの道があるのかといえば、主催者が違うから。中央競馬は日本中央競馬会(JRA)が、地方競馬は都道府県や指定市町村(特別区を含む)がそれぞれ主催しているからだ。地方競馬での騎手免許の交付は、公正かつ円滑な実施の推進を図るために設立された地方競馬全国協会(NAR)が担っている。このため競走馬と騎手の交流は、今でこそ門戸が開放されてきたとはいえ自由な交流は行われていない。

『ザ・ロイヤルファミリー』第4話の1シーン©TBSスパークル/TBS
佐木隆二郎は、中央の競馬学校騎手課程在学中に行った暴力行為によって自主退学し、父が調教師をしている地方・岩手県盛岡市で騎手として活躍している。
地方競馬の騎手や調教師の息子が中央競馬の騎手になるケースは少なくない。トップジョッキー、川田将雅の父は地方・佐賀の元騎手で現調教師で、フォーエバーヤングの主戦を務める坂井瑠星の父は地方・大井の元騎手で現調教師だ。
ドラマの佐木隆二郎のように、中央の競馬学校騎手課程を中退し、地方で騎手デビューした例もある。有名なのは、地方・船橋の名騎手だった石崎隆之を父に持つ石崎駿。内臓疾患による体調不良で退学したが、その後に地方競馬騎手免許を取得した。
地方所属から中央所属に転身した騎手もいる。先駆けとなったのは地方・笠松所属だった安藤勝己氏。1990年代後半から中央へのスポット参戦が増え、2003年に正式に中央に移籍した。その後、小牧太、岩田康誠、内田博幸、戸崎圭太らが移籍して中央で活躍(小牧太は昨年、地方・兵庫に復帰した)。『ザ・ロイヤルファミリー』のテロップでその名前を見る赤木高太郎も地方競馬から中央競馬に移籍したジョッキーだ。
気性の荒いロイヤルホープを乗りこなせる騎手として、調教師の広中博(安藤政信)が候補に挙げたのが佐木隆二郎だった。彼は、栗須栄治(妻夫木聡)の三顧の礼に心を動かされ中央競馬への移籍を決意。試験に合格し、2013年6月の3週目、東京競馬場での新馬戦でロイヤルホープとともに中央デビューを果たした。第4話のタイトル「メイクデビュー」はロイヤルホープと佐木隆二郎にかかるダブルミーニングだったわけだ。
ロイヤルホープのメイクデビューで使われた実際のレースは、社台レースホース所属のライトクオンタム(鞍上はクリストフ・ルメール)が勝った2022年11月12日の2歳新馬戦(東京、芝1600メートル、牝馬限定)だろう。
レースの直前、馬主・椎名善弘(沢村一樹)のレーシングマネジャー・相磯正臣(吉沢悠)が「うちの新しい勝負服、芝に映えますね」と話したように、椎名の勝負服は社台レースホースに似たデザインに変更されていた。山王耕造(佐藤浩市)も佐木隆二郎の進言によって変更することになった。この連載の2回目につづった<馬主・山王耕造は勝負服のデザインを変えるのか? それはいつ? その理由は?>という疑問が解消されたので胸のつかえが取れた。

『ザ・ロイヤルファミリー』第4話の1シーン©TBSスパークル/TBS
ちなみに、ドラマの途中で挿入された検量室前のシーンはアーモンドアイが2分20秒6の世界レコードで制した2018年のジャパンカップ(鞍上はルメール)で、その直後に流れたレースは牝馬のウオッカが制した2007年の第74回日本ダービー。佐木隆二郎の競馬学校同期・松井の活躍を伝えるレースシーンで使われたのは、社台レースホースのジャンタルマンタル(鞍上は川田将雅)が勝った今年の安田記念だと思われる。
会社の違法派遣関与疑惑は片が付いたが、「隠し子 金銭トラブル!?」という新たな問題が山王耕造に持ち上がった。目黒蓮はどうやら、山王が車を飛ばした前橋の病院に入院している中条美紀子(中嶋朋子)の息子のようだ。
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おまけで第3話のおさらいを。先日、休みの日に北海道千歳市の社台ファームを訪れたら『ザ・ロイヤルファミリー』の話題で持ちきりだった。というのも、社台ファーム代表・吉田照哉さんの長男で社台レースホース代表を務める吉田哲哉さんが第3話に登場したからだ。
「俳優デビューだよ」とニコニコ顔の照哉さんが、レストランにあるテレビで哲哉さんの出演シーン(録画)を見せてくれた。照哉さんの隣にいた哲哉さんも笑顔だ。せりふ付きで出演した牧場スタッフもいたそうで、社台ファームの牧場風景や坂路での調教風景、坂路小屋や門扉などがドラマで使われ、「ここが北稜ファーム」と喜んでいた。
細部に至るまで手入れされた素晴らしい牧場を何度も訪れている者として、美しい牧場風景がドラマに使われるのは自分のことのようにうれしい。実際、ドラマの中で流れる牧場風景はとても素晴らしい。
ドラマでの北稜ファームは日高地区の牧場を圧迫するほどの大牧場として描かれているが、照哉さんはまるで気にしていない。競馬場でのレースが花形であれば、競走馬を生産する牧場は下支えする存在。ドラマを見た人たちが縁の下の力持ちである牧場を少しでも認知してくれれば、という大局観に立っている。さすが大牧場の代表は心が広い。
競走馬セールのシーンにも社台グループの社員や有名馬主のマネジャーが馬主役で出演していたという。ドラマに出てきたスナックが馬産地に実際にあることも、社台ファームでの『ザ・ロイヤルファミリー』談議で知った。
一緒に社台ファームにお邪魔した年配の獣医師さんも毎週、ドラマを熱心に見ているそう。道内の競走馬生産地はさながら『ザ・ロイヤルファミリー』ブームの様相を呈していた。
新潟競馬場では10月26日の開催最終日に、ロイヤルファイト役で第1話に出演した同競馬場の誘導馬オースミムーンが「ロイヤルファイト」の馬名が印刷された特製ゼッケンをつけて登場し、観客の注目を集めた。ブームは着実に競馬ファンにも浸透している。(鈴木学)