中学受験、SNSを見ては「うちの子はこれで大丈夫?」と不安になる母に、プロがアドバイスする「距離の取り方」とは

「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さん。連載「偏差値にとらわれない中学受験相談室」、今回は、SNSを見てどの情報を信じればいいのか分からなくなり、子どもについ厳しく言ってしまうのがつらい、という親御さんからのお悩みです。
【相談】
SNSや掲示板を見ていると、他の子は毎日5時間以上勉強しているとか、〇〇塾じゃないと合格できないとか、いろんな情報が出てきて本当に不安になります。うちはそこまで時間も取れていないし、塾も転塾したほうがいいのか迷ってしまって……。私自身がどの情報を信じればいいのか分からなくなり、子どもにもつい厳しく言ってしまう自分がつらいです。(小6男子の親 東京)
安浪:この手のご相談には、毎回同じことを言っています。「SNSや掲示板はもう見ないでください」――これに尽きます! 見てもいいのは、匿名ではなく、実名で責任を持って発信している人だけ。それも“この人とこの人だけ見る”と決めて、それ以外は見ない。匿名の投稿は、信頼できる情報ではありません。もちろん実名でも「N=1」、つまりその人だけのケースということも多いですけどね。
矢萩:「掲示板」って言葉が出てくる時点で、自分から見に行っているんですよね。誰かに見せられているんじゃなくて、自分で行っている。余裕があって純粋な興味で見るならまだしも、悩んでいるときに見るべきではないです。だって悩むということは、どこかで「なんか違う」と思っているからでしょう?それを確かめたくて「違うよね」と言ってほしくて見に行く。でも、余計に不安が増える。そういう構造に取り込まれてしまいます。
■不安になる要素のほうが圧倒的に多い
安浪:「SNSで学校の口コミを見て判断しています」という方も多いですが、それもあくまでその保護者の意見ですしね。本当に知りたいなら、学校説明会や在校生、先生への直接の質問の方がずっと信頼できます。たしかにSNSで得られる情報もありますが、不安になる要素のほうが圧倒的に多い。だから、距離の取り方を意識してほしいですね。
矢萩:大事なのは、まず「自分の違和感」に気づくことです。「これちょっと違うな」と思っているのに見続けているなら、それは自分を苦しめてるだけ。逆にいろいろな事例を「これは使える」「面白い」と思って気持ちよく使えているならいいんです。でも悩んでる時点で、もう見ないほうがいい局面に差しかかっていると思います。
安浪:「転塾したほうがいいのか」という相談もよく受けますが、それはすぐに結論を出せる話ではないんです。今どこに通っていて、どの学校を目指していて、お子さんがどういう状態なのかなど、本人と話しながら細かく見る必要があります。なので私の場合は、有料の個別相談でお答えすることが多いです。気軽に回答できる内容ではないですね。

矢萩:転塾するかどうかは「本人がどう感じているか」に尽きます。本人が楽しそうに通っているなら変える必要はない。でも「つらい」「合ってない」と感じているなら、別の選択肢を考える価値がある。周囲の声よりも、まず子ども自身のサインを見逃さないこと。そして、親自身が何に違和感を覚えているのかを言語化すること。それが、いちばん大事です。
■SNSは成功例だけを切り取って見せる構造
安浪:受験情報がやっかいなのは、これをやったら「偏差値が上がりました」「合格しました」みたいな成果つきの投稿が多いからなんですよね。それを見て「それをやらないと合格できないのか」とか「同じことをやっているのにうまくいかない」と思って不安になる。でも、SNSはうまくいかなかったケースはほとんど投稿されません。うまくいっている人でも、思うようにいかなくなると投稿がいつの間にかフェードアウトしていたりしますから。
矢萩:そう。成功例だけを切り取って見せる構造に、気づかないといけない。でもこの相談者さんは、もう気づき始めているんです。「つい子どもに厳しく言ってしまう自分がつらい」と、自分で違和感に気づいてる。
安浪:「なぜSNSを見ちゃうんですか?」って聞くと「暇だから見てる」「時間つぶし」って言う人、結構多いんですよね。だから私は、見る時間を別のことに置き換えることをおすすめしています。たとえば体を動かすとか、趣味を始めるとか、パートに出るとか。寝る前に見ちゃうなら、スマホはリビングに置いて寝る。ハード的に制限をかけるのも一つの方法です。自分がつらくなると、子どもにもうまく寄り添えなくなってしまう。
だからまず、親が自分をケアすることが最大のサポートです。
矢萩:まずは自分を責めずに、自分の気持ちに素直になって、「子どもに厳しく言ってしまう」という気づきを大事にしてほしいですね。

■子どもにつらくあたりそうになったら…
安浪:子どもにつらくあたりそうになったら、子どもの小さい頃の写真を見るといいですよ(笑)。
矢萩:あぁ、それは現実的に効きますね。
安浪:昔は「ママ〜!」って言っていた子が今やこんな難しい勉強をやっているんだ、って素直に思えます。
矢萩:結局、どんな話も「個別の事例」なんです。それを一般化して「うちもそうしなきゃ」と思うから混乱する。メディアリテラシーの本質はそこにあります。「これはうちには当てはまらないかも」と、ひと呼吸おいて考えること。情報をそのまま鵜呑みにせず、「こういう例もあるんだ」と受け止める。そこに一つ、自分なりの考えを挟む。それが、SNS時代の親に求められる力なんだと思います。
(構成/教育エディター・江口祐子)