競馬記者が見たアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』(19)「未知の“領域”」

オグリキャップはスクーリングに臨んだ中山競馬場で、カサマツ時代の仲間たちと再会した Ⓒ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.
競走馬をモチーフとしたキャラクター、オグリキャップが主人公のTBS系アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』(日曜後4・30、19話のみ日曜後5・0)の第2クールが放送中だ。地方・笠松競馬からはじまったオグリキャップのレースをリアルタイムで見てきた競馬記者が、毎週の放送に合わせて史実のオグリキャップやライバルたちの動向、実在の騎手、調教師、厩務員、調教助手、馬主、生産者らの言動を振り返ってオグリキャップの実像を紹介し、アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』と重ね合わせていく。

「足りないんだ。『それ』を掴(つか)まないと、私は勝てない……!」 Ⓒ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.
※以下、アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』のネタバレが含まれます。
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第19話のタイトル「未知の“領域”」通り、タマモクロスやオベイユアマスターにあってオグリキャップにないものについての考察が展開された。ジャパンカップで3着に敗れて以降、変わらず大食漢ではあるもののオグリは「私は……勝てないと思う」「足りないんだ……」「『それ』を掴(つか)まないと、私は勝てない……!」という思いに囚(とら)われていた。

六平いわく「文字通りの未知の領域」 Ⓒ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.
トレーナーの六平(むさか)銀次郎は、領域《ゾーン》ではないかと推測する。領域《ゾーン》は「時代を創(つく)るウマ娘が必ず入ると言われる」(六平)もの。六平は続ける。「ひと度その領域に足を踏み入れると、感覚は研ぎ澄まされ、普段と比べ物にならないほど圧倒的なパフォーマンスを発揮できるという」「オグリの言う『それ』が領域《ゾーン》のことかは分からんが……少なくともタマモクロスはそれをモノにしているだろう」
とはいえ、六平は「そんなモン関係ねぇくらいオグリを強くすりゃあいい」とも。そのために選ばれたひとつが、有マ記念の舞台である中山レース場でのスクーリングだった。

オグリ「クリーニング?」 ベルノ「スクーリングね」 Ⓒ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.
史実のオグリキャップも滞在している美浦トレーニングセンターから中山競馬場に移動してスクーリングを敢行した。
提案したのは新たにコンビを組む岡部幸雄騎手だった。
有馬記念の3週前に調教で初めてオグリの手綱を取った岡部は、その柔らかい身のこなしや乗り味の良さ、鋭い反応に感心し、絶賛した。有馬記念制覇のために、最善の手を尽くすための提案がスクーリングだった。
『2133日間のオグリキャップ 誕生から引退までの軌跡を追う』(有吉正徳・栗原純一、ミデアム出版社)にこうある。
<オグリキャップはここまですでに中央八戦、四つの競馬場で走っていたが、有馬記念の行われる中山競馬場は経験がなかった。そんなオグリキャップに一度中山競馬場の雰囲気だけでも経験させておこうと計画されたのがスクーリングである。スクーリングは、学校を意味するスクールと同義語。レースのない日に下見をすることだ。>
『名駿オグリキャップ 厩務員池江敏郎との一〇〇〇日』(橋本全弘、毎日新聞社)では、このスクーリングにはもうひとつの狙いがあったとしている。
<それは輸送することでカイバを食べ過ぎて太り気味になっているオグリキャップの馬体を絞ろうというものである。美浦トレセンから中山競馬場までは馬運車で約二時間の距離。そこを往復した上に激しい追い切りをかければ、かなりの運動量になる。
この中山競馬場への〝遠征追い切り〟は、オグリキャップにとってはまさに一石二鳥のグッドアイデアだったのである。>
『2133日間のオグリキャップ-』によると、オグリのスクーリングを一番うらやましがったのはタマモクロスだったという。
<ジャパンカップを終えても美浦へ移ってきたタマモクロスとオグリキャップは、この時、同じG-11棟で寝起きしていた。(中略)タマモクロスの井高淳一調教助手はいっていた。
「うちだってできればスクーリングをやりたいよ。でもそんなことのできる馬じゃないからね」
休み明けの天皇賞に勝ち、さらにはジャパンカップも二着。おまけに美浦という違った環境への移動とただでさえ神経の細いタマモクロスは、ピンチに陥っていたのである。
飼葉を口にしなくなった。同じ屋根の下で暮らしながら寝藁まで口にしたというオグリキャップと好対照。タマモクロスは精神的にも肉体的にもへたっていたのだ。>
1988年12月9日付のサンケイスポーツ(東京版)に<タマモクロス有馬記念を断念か 食欲減退体調崩す 流動食を流し込む状態>というショッキングな見出しが躍った。美浦トレセンに移ってからの9日間、飼葉量が通常の3分の1に落ち、追い切りをいつかけられるか見通しがたたず、関係者はすでに近日中に栗東トレセンへ引き揚げることがあるかもしれない旨を競馬会に伝えた、と記事にある。
アニメのタマモクロスは、トレーナーの小宮山勝美に神妙な声で「話があんねん」と何かを伝えた。オグリが中山レース場でスクーリングをする当日、そこで執務していたトレセン学園生徒会長、シンボリルドルフの前に小宮山勝美が現れた。何を伝えにきたのか?
■鈴木学(すずき・まなぶ)サンケイスポーツ記者。シンザンが3冠馬に輝いた1964年に生まれる。慶応大卒業後、89年に産経新聞社入社。産経新聞の福島支局、運動部を経て93年にサンケイスポーツの競馬担当となり、ビワハヤヒデ、ナリタブライアン兄弟などを取材。週刊Gallop編集長などを歴任し現在に至る。サイト「サンスポZBAT!競馬」にて同時進行予想コラム「居酒屋ブルース」を連載中。著書に『史上最強の三冠馬ナリタブライアン』(ワニブックス)。