朝8時の温泉旅館、宴会場で『スト2』興じる光景が話題 30年前の「1冊の同人誌」がきっかけだった
「温泉旅館の朝」と言えば、やはり朝風呂。起きてすぐ至高の温泉に浸かるのは、これ以上ない贅沢である。
しかし現在X上では、早朝の温泉旅館の宴会場で目撃された信じがたい光景が「最高すぎる」と話題になっているのをご存知だろうか。
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■早朝の宴会場で興じているのは…
ことの発端は、Xユーザー・MDC本舗@HAGANEさん(使用キャラ:Xブランカ)が投稿したポスト。
「世界よこれが朝8時の日本旅館の風景じゃガハハ」と世界に向けて発信された投稿には、格闘ゲーム往年の名作『スーパーストリートファイターIIX』(エックス)に興じる人々の写真が添えられている。
アーケードのゲーム筐体がズラリと並んでいることから早朝のゲームセンターと思いきや…浴衣を着用している人の姿が。そう、こちらはポスト本文にもあるように、温泉旅館の宴会場にて『エックス』をプレイする人々を収めた写真だったのだ。

SPA2X in けやき
画像提供:弁田さん『エックス』がアーケードにて稼働したのは1994年。とても令和とは思えない光景である…。
こちらの光景は人々に多大な衝撃を与え、Xユーザーからは「旅館と言えば、やはりゲームセンター」「スリッパ履いてプレイしてるのが、また良い」「めちゃくちゃ楽しそう」「最高の朝活」など、称賛の声が相次いでいた。

SPA2X in けやき
画像提供:弁田さん調べたところ当該の写真は、山形県東根市の温泉旅館「琥珀の湯 欅の宿」にて開催されたイベント「SPA2X in けやき」のワンシーンであることが判明。
そこで今回は、同イベントの運営者に詳しい話を聞いてみることに。
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■平成初期:格ゲー黎明期
取材に応じてくれたのは、宮城県仙台市在住の『エックス』プレイヤー・弁田さん(使用キャラ:X本田)。
仙台のゲームセンター「ゲームコーナー東部」の常連で、毎月開かれている『エックス』大会のほか、今回話題になった「SPA2X in けやき」の運営も担っているという。
そんな弁田さんは「SPA2X in けやき」は、「様々なプレイヤーの交流がきっかけで誕生した」と語る。
同イベント開催に大きく関わっているのが、カメラ屋さん(使用キャラ:Xケン)。カメラ屋さんと言えば『エックス』全盛期に「足払い戦最強」と言われたレジェンドプレイヤー。
『スト2』稼働黎明期に当たる1990年代初頭は現代のようにインターネット文化が発達しておらず、格ゲーコミュニティ内での情報共有は、現代とは比較にならないほど限られていた。しかし、そうした環境を補って余りある「プレイヤー達の熱量」が存在したのだ。
中でも、カメラ屋さんが発行した『スト2』攻略本の同人誌『感謝で昇龍拳』は多くの格ゲーマーに感銘を与え、令和の今なお「格ゲーのバイブル」として名高い存在である。
その影響は凄まじく、『スト2』直撃世代ではないうえ、他ゲー勢の記者(使用キャラ:ウル4バルログ)でもその存在を認知しているレベルだ。
そんなカメラ屋さんは現在、情報通信ネットワーク事業の会社・株式会社ATKの代表取締役社長を務め、本業のかたわらゲームセンターやアーケードゲーム関連の支援を行っている。
さらに、特定非営利活動法人「感昇」理事長として、『スト2』をはじめとするアーケードゲーム大会の企画・運営・支援を行う団体で活動しているのだ。
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■「ゲームセンター」という文化
新型コロナウイルスの流行、度重なる物価上昇、格闘ゲームは「家庭用でプレイする」という風潮が大きな逆風となり、近年は全国でゲームセンターの閉店が相次いでいる。
しかしゲーセンという空間でしか得られない興奮と熱狂、そして仲間に魅せられ、「おれたちのeスポーツ」に勤しむべく、今なおゲーセン通いを続ける各ゲーマーが少なからず存在するのも事実である。
続いて紹介したいのが、「山形 名作アーケードゲーム倶楽部」として東北地方のゲーム文化保存事業に貢献するJACKさん。JACKさんは、山形にあったゲームセンター「ジャック&ベティ山大前店」の元店長という経歴の持ち主。
ゲーム雑誌『ゲーメスト』スタッフが全国各地のゲームセンターを回るイベントの一環で訪れたことがあるほか、あのプロゲーマー・梅原大吾氏がイベント来店したこともあり、同店は「2D格闘ゲームの聖地」として知られていた。
東北のゲーセンが次々と閉店している状況を憂いていたJACKさんは、「ホテルにゲームコーナーを作り、ゲームセンターに代わるゲームコミュニティを作る」という構想を練っていた。すると、こちらのアイデアに共感したカメラ屋さんが企画を支援。
そしてJACKさんが情報収集した結果、東根市でeスポーツ事業に力を入れている温泉旅館「琥珀の湯 欅の宿(当時東根グランドホテル)」と出会ったのだ。
その後、JACKさんは旅館に通い詰め、ゲームセンターとeスポーツの現状について、旅館の担当者と語り合う。そして次第に、ATK支援の元、様々なアーケードゲーム筐体が旅館に設置されるようになった。
さらなる転換期が訪れたのが、2023年11月。
とある山形のプレイヤーから「コロナ禍以降、『ヴァンパイアセイヴァー』の大規模大会が開催されていないので、みんなが集まれる大会を開催したい」という相談を受け、ついに「琥珀の湯 欅の宿」にて、初めてのアーケード格ゲー大会イベントが開催されたのだ。
ちなみに、今から30年以上前にJACKさんが『感謝で昇龍拳』を通販購入し、カメラ屋さんと手紙で交流するようになったのが、2人のファーストコンタクトだという。
あの頃全国に撒かれた格ゲーの火種が、時を超えて「ゲーセンの格ゲー」という文化を再度盛り上げているという事実に、胸が熱くなってこないだろうか。
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■最年少の参加者は「10歳」と判明
そして2024年11月、ついに記念すべき「SPA2X in けやき2024」が開催。
これは関東で開かれた『エックス』の大規模大会にて、カメラ屋さんと弁田さんが共にチームを組んだ際、「『エックス』の大会を山形で開催しよう」と話したことが、きっかけだという。
迎えた当日は参加者大盛り上がりの大盛況で、実際に参加した『エックス』勢からは「温泉地でスト2大会、というのがおっさん好みで良かった」「修学旅行的な雰囲気」「宴会場での大会の開催やその後の夕食、そして温泉入り放題など、とても満足のいくものだった」などの高レビューが寄せられている。

SPA2X in けやき公式イラスト
イラスト制作:MDC本舗@HAGANEさんそして今回、第2回となる「SPA2X in けやき 2025」のイベントの様子が大バズりし、同イベントが広く世間に認知されたのだ。

SPA2X in けやき
画像提供:弁田さん主な参加者について、イベント運営の弁田さんは「東北と関東からの参加者が多いですが、関西からの参加者も複数名いらっしゃいます。最年長は50代で、最年少は10歳(もちろん親御さん同伴)でした」と、説明する。10歳から『エックス』に触れる若き格ゲーマー…将来が楽しみである。
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■30年前のゲーム、なぜプレイする?
誤解を承知で言えば『エックス』、および『スト2』はおっさんのゲームである。
無敵技を出すのにゲージが必要な令和の格ゲーコンプラからすれば、「酷いゲームバランス」と感じる人も多いだろう。しかしそんな『エックス』に、さらにはゲーセンでプレイする格ゲーに魅了される若手格ゲーマーが、今日も世界のどこかで産声をあげている。
今回のイベントに参加したヒカゲさん(使用キャラ:Xバルログ)も20代と、『エックス』勢の中では若手も若手。
「ご飯もお酒も美味しくて、ゆったり温泉にも入れて、その上で『エックス』もいっぱいできる…。身も心も対戦欲も満たされ、大満足のイベントでした」と、振り返る。
ヒカゲさんは「色々なプレイヤーの方と色々お話させて頂きながら『エックス』を楽しめるのが、このイベントの素敵なところだと思います」と、頷いていた。

SPA2X in けやき
画像提供:弁田さんまた、ヒカゲさんはゲーセンで格ゲーをプレイする魅力について、「筐体の向こう側に戦っている相手がいる、っていう感覚が熱いです。1プレイに50円を払っているからこその緊張感も、ゲーセンならではだと思います」と、力説。
加えて「『エックス』というゲームはもう今後調整がないからこそ、どんどん突き詰めていく楽しさがあります。自分のような若手からすると『スト2』を何十年も突き詰めている強豪プレイヤーの方々と戦えるのも魅力で、刺激になります」と、語ってくれた。
■第3回の開催も決定
そんな「SPA2X in けやき 2025」が身内の盛り上がりを超え、Xで大きな話題となった件については、運営側も大きな喜びを感じている模様。
弁田さんは「特に大きな話題となったのは、2日目の朝にアーケード筐体に向かい、真剣に対戦を繰り広げている参加者様方の姿でした。旅館の温かい雰囲気の中で、朝を迎えてもなお対戦を楽しむ皆様の姿は、今回のイベントの元になったゲームである『エックス』への強い愛を、そのまま体現するものだと感じています」と、振り返る。
続けて、「今回の写真が多くの人々にシェアされ、『懐かしい』『楽しそう』といったコメントを多数頂いたことは、今回のようなイベントへの潜在的な需要の現れであると受け止めております」とも語ってくれた。
そして待望の第3回「SPA2X in けやき 2026」は、2026年10月10日から11日にかけての開催が既に決まっている。
弁田さんは「昨年の参加者数は44名、今年の参加者数は57名でした。あくまで目標ですが、来年は旅館貸切ができるくらいまで参加者を増やし、さらに盛り上げていければと思っています!」と、展望を語ってくれた。
また、「琥珀の湯 欅の宿」では2026年6月13日から14日にかけて『バーチャファイター3tb』の宿泊付きのイベントが予定されており、その他ゲームタイトルでも宿泊付きのイベントが検討・予定されている。

SPA2X in けやき
画像提供:弁田さん多くの人にとって「ゲーセン」や『スト2』は「懐かしさ」の対象として映るかもしれない。しかしアケ勢にとってゲーセンでの対戦は「いま」であり、「紡ぐべき未来」なのだ。
■執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。ゲーセン文化に関する取材記事を多数手がける。
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