日本の高校生が正答率92%で米国はたった54%…「学力」の圧倒的な差を生んだ長期休暇の過ごし方とは?

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アメリカの教育格差の要因は、授業が“ない時間”にあった。小学生の長期調査を分析すると、授業がある期間の学力の伸びは貧困層の子どもが上回るが、夏休みの数カ月で裕福な家庭との差が一気に広がっていたという。米国が抱える構造的な問題を多角的に検証する。※本稿は、ジャーナリストのマルコム・グラッドウェル、桜田直美訳『Outliers 思考と思考がつながる 最適解がみえる頭の主になる方法』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。

子どもに長期の夏休みは必要か

調査で驚きの実態が明らかになる

 アメリカの教育システムに関する議論で、夏休みの話題が出てくることはめったにない。夏休みはあって当然であり、フットボールの試合やプロム(卒業前のダンスパーティ)と同じように、学校生活に不可欠だと思われているからだ。

 しかしここで、小学生を対象にしたテストの結果を見てみよう。これを見ても、まだ長い夏休みは絶対に必要だと断言できるだろうか?

 これらの数字は、ジョンズ・ホプキンス大学社会学教授のカール・アレクサンダーによる研究から引用している。アレクサンダーは、メリーランド州ボルチモアの公立学校に通う650人の小学校1年生を対象に、数学と読解力の試験としてよく使われるカリフォルニア州学習到達度試験の点数を追跡調査した。

同書より転載

 先の表は、小学校1年生から5年生までの読解力の点数の推移だ。対象の児童は、社会経済階層によって「上位層」「中間層」「下位層」に分類されている。

 1年生の数字を見てみよう。たしかに階層によって点数に差はあるが、それほど大きな差ではない。裕福な家庭の1年生は、貧しい家庭の1年生に比べ、32点のアドバンテージがある。ちなみに、ボルチモアの貧しい家庭は本当に貧しい。

 次に5年生の数字を見てもらいたい。最初のテストから4年たったこの時点で、2つの階層の間にある差は2倍以上に広がっている。

 この「学力格差」という現象は、これまで幾度となく観察されてきた。そしてたいていの場合、次の2つのうちのどちらかの反応を引き起こす。

 ひとつは、貧困家庭の子どもの点数が低いのは、ただ単に豊かな家庭の子どもほど生まれながらの学習能力が高くないからだ、という反応。

 そしてもうひとつは、前者よりもわずかに楽観的で、これは学校システムの問題だという反応だ。現状のシステムでは、貧しい家庭の子どもの教育に寄与できていない、彼らが必要とするスキルを与えることができていない、というわけだ。

 しかし、アレクサンダーの研究はここからがおもしろくなる。なぜなら、どちらの説明も正しくないことがわかったからだ。

夏休みの前後で学力格差が広がる

意外にも貧困層での向上が顕著に

 ボルチモア市がカリフォルニア州学習到達度試験を実施するのは、学年の終わりの6月だけではない。

 学年の初め、つまり夏休みの直後の9月にも実施している。そこでアレクサンダーが気づいたのは、2つ目のテストの結果を使えば、少し違った分析ができるかもしれないということだ。学年の初め、つまり9月に実施したテストの点数と、学年の終わりである6月に実施したテストの点数を比較すれば、その子どもの学力が1年の間にどれくらい進歩したかが、正確にわかるはずだ。そして、6月の点数と9月の点数を比較すれば、夏休みの間の進歩がわかる。

 言い換えると、学力格差の原因(少なくとも部分的な原因)は、どこまでが学校での学習と関係があり、どこまでが夏休みの間に起こることと関係があるのか、ということだ。

同書より転載

 それでは、学校での学習で伸びた点数から見ていこう。上の表は、学年の初めの9月から学年の終わりの6月までの間に、テストの点数がどれくらい伸びたかを示している。「合計」の欄は、5年間の学校での学習で伸びた点数の合計だ。

 最初の表とはだいぶ違う結果になった。最初の表は、貧困家庭の子どもは勉強ができないという印象を与えていた。しかしこの表を見るかぎり、明らかにそれは間違っている。

「合計」の欄を見てみよう。小学校の5年間で、貧しい子どもの学習効果は金持ちの子どもを上回っている。前者は189点で、後者は184点だ。中間層の子どもの点数には負けているが、それほど大きな差があるわけではない。実際、2年生の欄を見ると、貧困層の点数の伸びがいちばん大きくなっている。

貧富の差が夏休み後に強く影響

休み中の過ごし方で違いが露わに

 次に、夏休みの後で読解力の点数がどう変化したかを下の表で見ていこう。

同書より転載

 違いがわかるだろうか?

「1年生の夏休み後」の数字を見てみよう。裕福な家庭の子どもは、読解力の成績が15点以上も上昇している。一方で貧しい家庭の子どもは、夏休み後の成績が4点近く低くなった。貧しい子どもも、授業がある時期なら、金持ちの子どもよりも点数を伸ばすことができるかもしれない。しかし夏休みを挟むと、かなり後れを取ってしまうのだ。

 さて、次に「合計」の数字を見てみよう。これは、1年生から5年生の初めまでの、点数の変化の合計だ。貧しい家庭の子どもは、読解力の点数が合計で0.26点上昇している。つまり読解に関しては、貧しい家庭の子どもは、学校の授業がない時期になると何も学ばないということだ。裕福な家庭の子どもはそれとは対照的で、なんと52.49点も上昇している。

 つまり、裕福な家庭の子どもと貧しい家庭の子どもの違いは、学校の授業がない時期に何をするかでほぼ決まっているようだ。

生育環境と学業成績の関係を探る

学校教育には根本的な問題が潜む

 これは何を意味するのだろう?現実的な可能性としてひとつ考えられるのは、生育環境が学業成績に与える影響だ。

 裕福な家庭に育つアレックス・ウィリアムズ、彼の両親は、子どもには総合的な教育が必要だと信じていた。そのため、息子を美術館や博物館へ連れていき、塾に通わせ、さまざまな体験や学習ができるサマーキャンプに参加させた。

 アレックスは、家で退屈すると、たくさんある蔵書から読む本を選ぶことができる。それに彼の両親は、息子が世界と積極的に関わっていられるようにするのが親の務めだと信じていた。アレックスの数学と読解力の成績が夏の間に上昇するのも、まったく不思議ではないだろう。

 しかし、ケイティ・ブリンドルはそうではない。ケイティはアレックスと違い、裕福ではない家庭で生まれ育った。サマーキャンプに参加できるようなお金はない。母親から塾に通うように言われることもない。家で退屈したときにすぐに読めるような本もない。彼女の家には、おそらくテレビくらいしかなかっただろう。

 もちろん、それでも楽しい夏休みをすごすことは可能だ。新しい友達ができたかもしれない。外で遊んだり、映画を観に行ったりもしただろう。誰もが夢見る自由な時間だ。とはいえ、これらの活動の中に、数学や読解力の成績を上げてくれるようなものはひとつもない。ケイティが自由な夏休みを楽しめば楽しむほど、アレックスとの差は開いていく。

 アレックスの頭脳がケイティよりも優れているというわけではない。ただアレックスのほうが勉強しているというだけだ。彼は夏休みの間もしっかりと勉強を続けている。一方でケイティは、ただテレビを見たり、外で遊んだりしているだけだ。

 アレクサンダーの研究からわかるのは、アメリカにおける教育に関する議論は、そもそもの前提が間違っているということだ。1クラスの人数を減らす、カリキュラムを変更する、すべての児童・生徒に新品のノートパソコンを支給する、学校の予算を増やすといった話題に多大な時間を費やしている。こういった話題が出るのは、学校教育のあり方そのものに何か根本的な問題があると考えているからだ。

 しかし、先ほどの表を思い出してみよう。9月から6月の間に起こったことを見ればわかるように、学校教育には効果がある。成績が振るわない子どもにとって、学校教育の唯一の問題は、むしろ学校で勉強する時間が足りないということだ。

アジア人が数学を得意とする理由

授業日数の差が学力を左右する

 実際、アレクサンダーは、ボルチモアの子どもが1年を通して学校に通ったらどうなるかを、ごく単純な計算で示している。その結果、小学校の卒業時で、貧しい家庭の子どもも裕福な家庭の子どもも、数学と読解力の成績がほぼ同等になるということがわかった。

 そう考えると、アジア人は数学が得意なのも、ますます自明の理ということになる。アジアの学校には長い夏休みは存在しない。それも当然だろう。アジアには、1年のうちの360日で夜明け前に起きることが成功につながると信じる文化がある。そんな文化が、子どもに3カ月もの長い夏休みを与えるはずがない。

 アメリカの学校は、平均して1年に180日授業がある。韓国の学校は220日。そして日本の学校は243日だ。

日本とアメリカの高校生

数学テストの差はどれくらい?

『Outliers 思考と思考がつながる 最適解がみえる頭の主になる方法』 (マルコム・グラッドウェル、サンマーク出版)

 最近、全世界の生徒を対象にした数学のテストで受験者に出された質問の中のひとつに、代数、微積分、幾何の問題のうち、学校で習った内容で解けた問題はどれくらいあったかというものがあった。日本の12年生(高校3年生)の答えは92パーセントだった。これが、1年に243日、学校に通うことの価値だ。学ぶ必要のあることをすべて学ぶ時間を確保できる――それに、学んだことを忘れてしまう時間も少ない。

 対して、アメリカの12年生の答えは54パーセントだった。アメリカのもっとも貧しい家庭の子どもにとって、問題は学校の授業ではない。これは学校問題ではなく、夏休み問題だ。