「亡くなる前日まで自分でトイレに行く」を実現させる緩和ケア医 すべては「死ぬまでかっこよく生きる」ために

■「筋肉はあなたを裏切らない」, ■1時間に10回立ち上がれれば歩けます, ■重いダンベルを3回持ち上げる, ■ストレッチをがんばれば痛みは引いていく

 緩和ケア医の萬田緑平さんの新著「棺桶まで歩こう」。えっ?!と驚くタイトルだが、萬田さんが開く診療所では、「亡くなる前日まで自分でトイレに行く」ことを実現させるプログラムがあるという。

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 歩くことにとって大事なのは、筋肉ではなく「気力と根性」だと言いました。気力、根性があるというのは脳が若い、元気だということだからです。

 夜遅くまで仕事をしても好きな人に会いに行ったり、朝まで飲んで仕事に戻ったり、「若い頃はよくできたなあ」という人も多いのではないでしょうか。それは好きな人や楽しいことのために「がんばれた」ということ、つまりは脳が若かったのです。

 僕は患者さんに、「亡くなる前日までトイレに歩いて行くこと」を目標にしようと提案します。すると、多くの患者さんは「そんなことが可能なんですか!?」と目を輝かせます。「自宅で過ごしたいけど、家族に迷惑をかけたくない」と考えているので、「トイレに自分で行ける」ことが可能だと知ると喜ぶのです。

「かっこよく死のう!」「死ぬまでちゃんと生きよう!」という言葉に反応する方も少なくありません。

■「筋肉はあなたを裏切らない」

 僕がすすめる「棺桶にまたいで入ろう!」という掛け声は、「かっこよく死ぬ」ことの象徴なのだと思います。だからこそ、僕の話を聴いてくださった皆さんもおおいに盛り上がったのでしょう。

「かっこよく死ぬ」、すなわち「死ぬまで歩く」という目標を持った患者さんたちは、脳が元気になるのでしょう、生き生きとしてきます。そして努力します。

 萬田診療所では、がんばれる方には、その努力の仕方を教えます。

 歩くのに必要なのは「気力と根性」だと書きましたが、筋肉はやはり必要です。大腿四頭筋という、膝上の筋肉が「立ち上がりの筋肉」です。

 筋肉は使わないとどんどん衰えてしまいますから、気力があるうちにできるだけ歩くことが大事なのです。患者さんには、「膝の上の筋肉があなたの寿命を決めます。だから歩き続けましょう」と伝えています。

「貯筋」しましょう。筋肉はあなたを裏切りません。

 僕は患者さんに、こんな風に語りかけます。

〈みんな死にたくないのだから、「死ぬ死ぬ」言わない。「かっこよく死ぬ」ではなく、「死ぬまでかっこよく、生きる」ことを目指しましょうよ。「死ぬまで歩くぞ」ではなく、「生きてる間は歩くぞ!」のほうがいいですよね〉

 そして室内に響く、「生きてる間は歩くぞー」という掛け声。萬田診療所ならぬ「萬田道場」と呼ばれるゆえんです。

■「筋肉はあなたを裏切らない」, ■1時間に10回立ち上がれれば歩けます, ■重いダンベルを3回持ち上げる, ■ストレッチをがんばれば痛みは引いていく

■1時間に10回立ち上がれれば歩けます

 人間は、歩けなくなる前に立てなくなります。

 イスから「立ち上がる」にも、腕の力を使って立ち上がる、腕を使わないでひょいと立ち上がるという2種類があります。僕は患者さんにまず立ち上がってもらい、どうやって立ち上がるかを見ます。そして、何回立ち上がれるかを数えます。

 6回立ち上がれる人だったら、「6回が7回になったら寿命が延びたということ。逆に、6回が4回になったら寿命が縮んだなということですよ」という話をします。寿命は自分でわかるのです。

 腕を使ってさえ立ち上がれなくなってもしばらくは歩けますが、それは歩けなくなる一歩手前。落第ポイントぎりぎりで、こうなるとがんばれと言ってもがんばれなくなります。ですから、腕を使わず立ち上がれるかどうかを目安にするといいと思います。

 施設などで、大勢の高齢者に一斉にできるリハビリの方法があります。実は1人歩くのには、1人のスタッフが必要です。

■重いダンベルを3回持ち上げる

 テーブルにつかまってイスに座り、「じゃあ始めるよーっ、イチッ、ニッ」と立ち上がるリハビリです。テーブルにつかまって、身体がうしろに倒れないようにだけ気を付ければ、一人ひとりに介助者がつかなくてもかまいません。スペースさえあれば、掛け声だけで大勢の人たちが一斉にできる方法です。

 歩けない人でも、ゆっくりでいいから1時間に10回立ち上がる。すると、次第にもっとたくさん立ち上がれるようになります。歩けなかった人が1日100回くらい立ち上がれるようになった頃には、歩けるようになっているはずです。1日300回できるようになった人もいました。

 人間は立ち上がることができれば、歩けるのです。

 一つ覚えておいてほしいのは、負荷をかけたほうが筋力はつくということ。重いダンベルを3回、または軽めのダンベルを100回持ち上げるのとどちらが筋力がつくと思いますか? 案外「100回」と答える人が多いのですが、答えは「3回」です。

 持久力をつけるなら軽いダンベルを100回ですが、筋力は「重いダンベルを3回」のほうがつくのです。

■「筋肉はあなたを裏切らない」, ■1時間に10回立ち上がれれば歩けます, ■重いダンベルを3回持ち上げる, ■ストレッチをがんばれば痛みは引いていく

■ストレッチをがんばれば痛みは引いていく

「歩きたいし、がんばる気持ちはあるのだけれど、痛みがあって……」という方もいると思います。

 誰しも歳を重ねていけば、いろいろなところが痛くなるのはいたし方ありません。でも、ストレッチでどうにかなるケースがたくさんあります。ストレッチは、そして続ける習慣はものすごく大事です。

 僕も足が痛いから、ストレッチばかりしています。合わせると、1日だいたい1時間くらいはしているでしょうか。股関節が痛くて脚が開きづらいから、開くようなストレッチです。これをしないと、僕はたぶん歩けないと思います。

 肩が痛くて物を投げられない時期もあったけれど、1年かかってようやく治りました。膝も悪くしたのですが、意識してきれいにまっすぐ歩くことを続けたら、やはり1年くらいで回復しました。

「萬田道場」でも、必要な患者にはストレッチを指導します。

 肩が痛いからと、上げないでいると、その痛みが引いた頃にはもう上がらなくなってしまいます。

 痛くても我慢して、ぎりぎりまで上げる、曲げるなどを続けていれば、そのうち痛みが引いてきます。

 たとえば、指が曲がってしまうというなら、逆方向に伸ばして1、2、3……と数え、「ぎりぎりのところで30秒おさえていようよ」とアドバイスします。「そのうちまっすぐになってくるよ。何カ月かかるかわからないけど、やるしかないよね」と。

 その人の身体の状態を見て、がんばってぎりぎりまでできるところを見極めます。

 僕はリハビリの専門家ではありませんが、患者の状態に向き合い、訴えを聞き、オリジナルのリハビリ法をひねり出しています。そのうえで、本人ががんばれば、ほとんどの場合、成功します。

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