会見は成功も「東大汚職事件」鮮明になったヤバさ

東京大学大学院の教授が「高額接待」を受けていたなどの汚職事件を受けて、謝罪会見を開いた東大の藤井輝夫総長(撮影:今井康一)
悪くない会見だった。むしろ記者会見だけを切り出して論じれば、かなりしっかりした内容であったと思う。
【写真】「誠実さが伝わってきた」と話題になった藤井総長の《超ロング“頭下げ”謝罪》
東京大学大学院医学系研究科の佐藤伸一教授が、一般社団法人「日本化粧品協会」から高級クラブやソープランドで繰り返し接待を受けたとして収賄容疑逮捕されたことを受け、1月28日、東大の藤井輝夫総長が開催した記者会見のことだ。
藤井総長が「教育研究機関として社会の信頼を著しく損ねた」と謝罪を行い、問題の高額接待の内容、当該教授の解雇処分、ガバナンスの改革案などが説明された。
本問題に関しては、多くのメディアが報道しているのだが、大学、特に国立大学の組織の特殊性が踏まえられておらず、問題の本質が捉えられていないように思えた。
記者会見で浮かび上がった「3つの違和感」
さて、会見の話に戻ろう。会見は大きな混乱もなく、粛々と進行した。冒頭、東大の実質トップである藤井総長が深々と頭を下げ、よどみなく説明を行い、記者の質問にも誠実に答えていた。
会見の前に専門家が入ってコンサルティングをしたのではないかと思うが、そうでないとすれば、今回の問題はさておき、藤井総長自身の危機管理能力はかなり高いだろう。
ちなみに、記者会見はメディアを通じて世の中に対して説明責任を果たすという役割以外に「セレモニー」としての役割もある。
日本の大学の頂点に立つ東大のトップである総長が、30秒間にわたって深々と頭を下げたというのは、セレモニーとして大きな効果があった。逆に言えば、藤井総長はそのことを理解していたからこそ、自ら記者会見に臨み、長時間頭を下げたのではないか。

「誠実さが伝わってきた」と話題になった藤井総長の30秒にわたる“頭下げ”謝罪。今回の件で、藤井総長が役員報酬50%を1カ月、病院・教員人事担当の相原博昭理事・副学長ら3人が同30%を1カ月、それぞれ自主返納したという(撮影:今井康一)
「記者会見としては」よくできていたと言えるのだが、逆に今回の当事者の脇の甘さ、それに対する東大の対応の不備が鮮明に見えた記者会見でもあった。
今回の不祥事に関して、大きな違和感を覚えたのは筆者だけではないと思う。
1. なぜ時代錯誤と言える高額接待が起きたのか
2. なぜ東大側が問題に気付かなかったのか
3. 新たに発覚した倫理違反22件はどのような内容で、なぜ複数の問題が起きたのか
これらの点は、大学、特に国立大学の組織構造のあり方に関わっており、そこを踏まえないと、正しく事象を理解することができないものだ。
「みなし公務員」という不思議な立場
性風俗の接待事件思い出すのが、1998年に発覚した、大蔵省(当時)幹部や日本銀行職員が銀行から接待を受けていた「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」だ。これ以降、国家公務員の利害関係者からの利益供与が禁じられ、自治体でも同様の規定が設けられるようになっている。
企業側も経費使用に厳しくなっており、風俗店はもちろん、高額接待の決済は下りにくくなっている。
法人化に伴い、国立大学の教員は、「公務員」から「国立大学法人の職員」となったが、「みなし公務員」として扱われ、公務員と同様の倫理規定が適用される。
ちなみに、私立大学の教員は「団体職員」という位置づけになるが、「みなし公務員」ではない。
今回の事件についても「私立大学の教員だったら問題にならなかったのでは?」という意見が出ている。たしかに、佐藤氏が私立大学の教授だったら逮捕はされなかったとは思うが、所属大学から何らかの処分を受けた可能性は高いのではないかと思う。
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件を受け、2022年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事(当時)の高橋治之氏が逮捕されたが、これも高橋氏が「みなし公務員」という規定だったからだ。
民間事業者として、コンサルティング料を受け取っていたとしたら(その対価が適正かどうかはさておき)、収賄問題にはならなかった可能性が高い。
私立大学だから――というのもあるかもしれないが、筆者が大学教員に就任した際、研究不正や研究費の使用に関しては細かいオリエンテーションや研修があったが、接待含め、民間事業者との関係のあり方、副業等について細かい指導はなかった(もちろん、職務規定は存在する)。
大学教員は、一般的に民間から接待を受ける機会はあまりない。
しかし、「医学部(あるいは東大理Ⅲ)は別格」という言われ方をする。偏差値の高いエリートが集まるという意味もあるが、東大に限らず、学部の独立性が高く、特に医学部や医学部の付属病院は「別組織」と言ってよいほどに組織形態が異なっている。
この優越的とも言える特異性から、佐藤氏に「みなし公務員」としての自覚が欠けていた、あるいは意識が希薄になっていたというのはあるのではないかと思う。

国内最高峰の教育・研究機関が揺れている(撮影:今井康一)
露呈した東大の「ガバナンス不全」
24年9月に協会側からの内部通報があり、東大が本問題を把握したとされるが、なぜそれまで発覚しなかったのか?という疑問が持たれる。
共同研究講座の開設にあたり、東大側は「商品の宣伝に利用されるのではないか?」ということを懸念したが、佐藤氏は「日本化粧品協会に(宣伝行為を行わないという)誓約書を提出させる」と回答したという。
しかしながら、誓約書は提出されておらず、大学側も未提出であることを確認しなかった。また、日本化粧品協会は、自団体のホームページやSNSに佐藤氏らとの共同研究を紹介していた。
さらに驚くべきなのが、研究費として日本化粧品協会などから2億円弱が支払われることになっていたが、実際に支払われたのは100万円にすぎなかったということだ。
記者会見では、調査チームの國廣正弁護士が共同研究管理体制のずさんさを指摘すると同時に、佐藤氏が協会に強く請求しなかったのは、高額接待を受けていたからではないかと推測している。
この点において、東大のガバナンス不全が露呈したと言えるのだが、民間企業であれば、誓約書が提出されていない、自社や自社社員が会社側の承諾なく宣伝活動に利用されている、支払われるべきお金の入金確認ができていない――といったことが起こったら、その時点で疑問に思うはずであるし、協会や佐藤氏側に再三の確認を求めるはずだ。
大学、特に国立大学は、法人化したとは言っても、営利を追求する組織ではないため、お金の管理が甘くなってしまうことはあってもおかしくないと思う。
ただ、産学連携を行う以上は、契約やお金の支払いの条件などもしっかり詰めて、監視と管理を行う必要がある。そのための組織作りが不十分であったと言えるだろう。

今回の件の調査を行った國廣正弁護士(写真左)同席のもと、藤井総長(写真中央)と相原博昭理事・副学長が会見をした(撮影:今井康一)
補足しておけば、大学教員の評価は、売り上げ実績ではなく、研究成果によって決まる。記者会見でも説明されていたように、給料の原資は大学の予算から出ており、協会側から入金がないからといって、給料が減らされるわけでもなければ、研究者としての評価が下げられるわけでもない。
一方で、高額の研究予算を獲得したところで、研究者の報酬が大幅に増えるわけでもない。多くの研究者は、「(収入が増えずとも)研究予算が増えて質の高い研究ができればよい」と考えている。
そう考えない研究者が「高額接待」という形でキックバックを受けてしまった――というのが、このたびの収賄事件の実相であったのではないか。
なぜ「東大病院院長」ではなく総長が会見?
また不可解だったのは、総長が自ら記者会見を行ったことと、その一方で、東京大学医学部附属病院の田中栄病院長(1月27日付で引責辞任)が欠席したことだ。
25年も東大で収賄事件があったが、これも同病院の医師が行ったものだ。
今回の記者会見は、連続する収賄事件を踏まえて開催されたものだと考えられるのだが、学部の独立性、および責任の所在を考えると、総長よりも、付属病院長が出席して、謝罪と説明を行い、引責辞任の表明を行うほうが重要であったと思う。
今回、会見を開催したのは、一連の不祥事が「国際卓越研究大学」の認定に影響することを東大側が懸念したからではないかとメディアでも指摘されている。藤井総長は記者会見で否定していたが、裏側にその意識があった可能性は十分にあるだろう。
少なくとも、記者会見が東大の信頼性が揺らいでいることへの対応策であったことは間違いない。

当初の予定よりも報道陣の数が多くなったため、会見は急遽、東大の安田講堂で行うことになったという(撮影:今井康一)
気になるのは、高額接待3件を含む、22件の倫理違反が発覚したという点だ。個々の詳細は不明ではあるが、この22件の中には、医学部以外のものも含まれるという。
国際卓越研究大学認定の基準には「ガバナンス(統治)」も含まれる。個人の不祥事、あるいは医学部の個別問題ではなく、大学全体の問題と見なされれば認定が見送られる可能性も十分にあるし、このまま東大が認定されても、激しい批判を浴びることが予想される。
22件の内容、特に3件の高額接待が、どこで、どのような形で行われたのかは非常に気になるところだ。
日本化粧品協会の「不可解な行動」
最後になるが、日本化粧品協会が、どのように高額の接待費を経費で落としていたのか。そしてなぜ、2億円弱の研究費を支払うと言っておきながら100万円しか大学側に支払わなかったのか?という点も解せない部分だ。
同協会は、内部通報を行ったり、民事訴訟を起こしたり、メディアの取材に答えたりもしている。接待は佐藤氏側から強要されたというし、よほど怒り心頭だったとは思うのだが、協会側は贈賄容疑に問われるような行為を自らしてしまっている。
東大にお金はほとんど入らなかったのに、“東大ブランド”を勝手に使われた――ということを考えると「東大は、佐藤氏と日本化粧品協会に騙された」という見方もできる。
東大ばかりに注目が集まっているが、日本化粧品協会の不可解な行動の裏に何があったのかも、気になるところではある。