冬なのにクマ大量出没の謎 「冬眠の仕方を知らない孤児クマ」「ヒエラルキーの低いクマ」が人里に迷い込む理由

冬季にもかかわらず、東北地方を中心にクマが毎日のように出没している。クマは冬眠しているのではなかったか。何が起こっているのか。
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■物置小屋の中にクマ!
「物置小屋の中に黒い毛のかたまりがある。多分、クマだと思う」
1月13日午前10時ごろ、福島県喜多方市に暮らす60代の男性から同市熱塩加納総合支所に通報があった。
男性は農作業用の物置小屋周辺の除雪作業中、動物の足跡を見つけた。辿ったところ、小屋の中にいる「クマらしき動物」を発見したという。
雨まじりの雪が降るなか、支所の職員と鳥獣被害対策実施隊の隊長は1キロほど離れた現場に駆けつけた。職員は、こう話す。
「小屋の内部を確認すると、稲わらの中にクマが隠れていた。午後1時半ごろに箱ワナを設置して、実施隊のメンバーが追い込んだ。10分ほどでクマがワナに入りました」
捕獲された体長約150センチのクマは、その後、駆除された。
「この付近はクマが出没する地域ですが、通報した男性は、『雪が降る時期にクマが出たのは初めて』だと驚いていました」(支所の職員)」

■年明けも頻繁に「クマ目撃情報」
12月、1月といえば、通常、クマは冬眠する時期だ。だが、近年は東北地方を中心にクマが出没するケースが激増している。
たとえば、福島県では、2022年12月、クマの目撃件数はわずか1件だった。ところが、23年と24年の12月は21件。25年12月は71件に増加した。同県の担当者は「年が明けても毎日のようにクマの目撃情報が寄せられる」と言う。
環境省によると、25年12月のクマによる人身被害は6人(速報値)。富山2人、岩手、秋田、長野、島根の各県1人。
岩手県のケースでは、姿が見えなくなった飼い犬を捜しに出かけた奥州市在住の60代の女性が突然現れたクマに襲われ、顔などを負傷した。
■「孤児グマ」の増加が関係?
なぜ、冬季にクマの出没が相次いでいるのか。日本ツキノワグマ研究所(広島県廿日市市)・所長の米田一彦さんは、「三つの複合的な要因があるのでは」と話す。
最も直接的な要因と推察されるのが、母グマが駆除されたことによる「孤児グマ」の増加だ。

■母が駆除され、冬眠の作法を学べなかった
環境省によると、今年度(25年11月末時点)は全国で1万2548頭のクマが捕殺された。
「クマ全体の数は減りましたが、孤児グマは増えていると思います」(米田さん、以下同)
母親を失い、穴の中で冬眠することを学習できなかった子グマは、母グマが駆除された人里近くの窪地などで冬眠する。人のいない空き家、廃屋、作業小屋、神社仏閣に、床下などから潜り込むことも珍しくないという。冒頭のケースで物置小屋に入ったクマは、20年ごろから繰り返されてきた大量駆除の年に生まれた孤児グマの可能性があるという。
■別荘や小屋にクマが潜り込んで越冬
別荘に入り込んで越冬するクマもいる。奈良県十津川村では24年4月、70代男性が所有している別荘に入ったところ、中にいた冬眠明けとみられるクマに襲われた。
「研究所近くの古い別荘にもクマが入り込んで越冬し、ベッドの下で、荒く喉を鳴らして寝ていて騒ぎになったことがあります」
バブル期に建てられた別荘は全国各地にある。米田さんは「空き家が多くなると、『クマ別荘』になりかねない」と、心配する。
■越冬穴に引きずり込まれて死亡
二つ目は、クマの生息域の拡大だ。昔は、冬季のクマの人身被害は山奥に限られていた。
「林業が盛んだった昭和30(1955)年代は特に、冬季伐採の作業員がクマに襲われることは珍しくありませんでした」
秋田県の場合、ツキノワグマは天然スギの根が地表に露出した「根上がり」にできる穴を利用して越冬することが多い。
「スギの木を伐採する際にクマに襲われたり、根元の越冬穴に誤って足を入れてしまい、引きずり込まれて亡くなったりすることもありました」
危険防止のため、銃器を携行した「護衛ハンター」が同行することもあった。
「1962(昭和37)年に『森林法』が改正され、森林資源の保全が強く図られるようになると、天然林の伐採自体は減少し、作業員がクマに襲われることは減りました」
いっぽう、林業の衰退に伴い、放置される森林が増えた。高齢化が進みハンターも減少した。
「結果、クマの生息域が拡大し、生息数も増えたのではないかと考えています。近年は山中だけでなく、人里や住宅地にもクマが現れています」

■麓近くのクマは「眠りが浅い」
三つ目は、クマの冬眠時の「眠りの深さ」の違いだという。
本来、警戒心の強いクマは、ハンターらと出合わない安全な山奥でひっそり冬眠する。クマの世界は年齢や体格などによるヒエラルキーがあり、成熟した強いオスグマほど位が高く、標高の高い山奥で冬眠する。位の低い若いクマは人里近くの麓に追いやられてしまう。
米田さんは冬眠中のクマを秋田県で37例、広島・島根両県で32例、直接観察した経験がある。標高が低く、気温が比較的高い人里近くで冬眠するクマは眠りが浅く、覚醒しやすいという。
「気温が高い場所で越冬しているクマは、冬眠中も熟睡しているわけではなく、うつらうつらしている感じで体を動かします。幹線道路近くに越冬穴がある場合、トラックや除雪車の振動に反応して目を開けることもある」
■草地で越冬、歩き回るクマも
気温が高い地方では、穴に潜らず冬眠するクマもいた。中国地方の海岸部に生息するクマはススキ原のような草地に腰を下ろして越冬することも珍しくないという。
「島根県平野部で冬眠する母子グマを観察した際、寒い日は雪をかぶったまま寝ていましたが、暖かい日は体を動かすこともありました」
冬眠期でも活動するクマが増えている理由は、温暖化の影響ではないかと米田さんは推測する。
「歩き回っている姿も目撃されています」
冬眠中のクマは、歩き回っても、餌を探すことはないといわれている。だが、寝起きばなに人間と鉢合わせすれば、襲撃を受ける可能性は大いにある。
自治体は、「冬季であっても外出時には油断せず、周囲に気を配ってほしい」と、住民に呼びかけている。クマがいる地域では、冬だから安心とはいえなくなってきているのが実情のようだ。
(AERA編集部・米倉昭仁)
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