多良間島へ「マイル修行」はなぜこうも炎上したか

沖縄県の離島へのフライトが「マイル修行」の客で満席になったことが、批判を浴びている(写真:kurosuke/PIXTA)

沖縄県の多良間島は、宮古島と石垣島の中間に位置する人口約1000人の離島である。島全体がさとうきび畑で黒糖生産量が日本一であるほか、宮古牛の生産地としても知られる。だが、観光客数は年間で9662人(2023年度)にとどまっている。

【写真】多良間島はどこにある? どこを往復する?

この小さな島が2026年1月、急に脚光を浴びるようになったのは、宮古島から多良間島へのフライトが「マイル修行」のための搭乗客で満席となり、島民が乗れない状況があると報じられてからだった。

赤丸が多良間島(写真:きゃら画エイト/PIXTA)

宮古島と多良間島を結んでいるのはJALグループの琉球エアーコミューター(RAC)。1日2便が就航している。宮古島の平良港と多良間島の間には多良間海運のフェリーが1日1往復運航(日曜日は運休)しているが、悪天候のために月によっては欠航率が3割におよぶなど確実に移動できる手段とはいいがたい側面があり、平均旅客数も10.6人(2023年度)にすぎない。

宮古島と多良間島の移動は、琉球エアーコミューターの利用率が93.6%、フェリーは6.4%と、ほとんどが飛行機利用であることがうかがえる(2022年度)。

■多良間海運のフェリー

便数:1日1往復(日曜は運休)

所要時間:2時間

運賃:片道2510円

離島住民割引(往復):2310円

定員:150名

■琉球エアーコミューター

便数:1日2便

所要時間:25分

運賃:片道9900円~(スペシャルセイバー)

特定路線離島割引(島民が対象):片道4150円

定員:50名

こうしたなか、マイル修行のための搭乗客がこの路線に集中し、満席になったことにより、島民が航空便を利用できなくなっていることが報じられると、修行への批判や弁護が寄せられるようになった。

マイル修行とは何か?

そもそもマイル修行とは何なのだろうか。マイレージプログラムの上級会員の資格を獲得するため、飛行機でできるだけ長い距離を飛んだり、多くの回数乗ったりすることを意味していることばで、1990年代にネット掲示板の2ちゃんねるなどで使われるようになったスラングであった。

上級会員になるとエコノミークラス搭乗時も航空会社のラウンジに入れたり、優先搭乗ができたりするなどのメリットを求めて、とにかく飛行機に乗りまくり行為が「修行」である。

修行をする人を修行僧とよび、女性の場合は修行尼とよぶこともある。余談だが、航空会社のラウンジの食事をつまむことを托鉢という人もいる。

なお、飛行機は機体の運用効率を高めるために、目的地に到着するとすぐに折り返すことが多い(多良間路線の場合は35分)。このように行きに乗ってきたのと同じ機材にそのまま折り返しで搭乗することをタッチとよぶ。

長くスラングだった「修行僧」が広く認知されるようになったのは、2018年に日本テレビ系のバラエティ番組『沸騰ワード10』で俳優の風間俊介さんが「修行」する姿が報じられるようになってからだろう。

こうした行為は世界中で行われており、英語ではマイレージランとよばれる。

北海道では「修行」を歓迎する例も

「修行」は変わった行為ではあるが、特に人に迷惑をかけるものではないと考えられてきた。修行によって上級会員が増えるとラウンジが混雑することに対して否定的な意見もネット上ではみられるが、そもそも航空会社のルールにしたがって上級会員を獲得している以上、その取得方法をほかの人から批判されるいわれはないだろう。

2018年ごろからヨーロッパを中心に、二酸化炭素を多く排出する飛行機に乗ることをフライトシェイム(飛び恥)と呼ぶようになったが、その観点から修行を批判する人も存在したが、ごく限定的である。

むしろ、修行を歓迎する事例もあった。有名なのは「紋別タッチ」である。

ANAのマイル修行のために羽田からオホーツク紋別空港の便に乗ってすぐに折り返す「修行」が話題になると、2021年から紋別地区のANA総代理店を務める紋別観光振興公社がオホーツク紋別空港で横断幕をかかげたり、往復回数の多い利用者の名前を刻んだプレートを空港ロビーに掲示する「タッチ回数ボード」を設置したりするなどの施策を行った。これにより搭乗者が増加した(施策は2025年3月に終了)ことは、路線維持の観点からは評価されてもいいだろう。

オホーツク紋別空港(写真:スタイル/PIXTA)

そもそも今回話題となった多良間島への修行もプラスと考えてよいもののはずだった。1月20日の弁護士ドットコムニュースによれば、多良間島の職員が次のように語っている。「新型コロナ禍が明けたころから、いつも顔を見かける4〜5人の乗客が到着してまた帰っていく姿がみられるようになりました」。

定員50名の飛行機で4〜5名であれば、修行僧によって満席になってしまうというよりも、むしろ修行フライトが需要を下支えして、路線維持に貢献した可能性すらある。

話題となった「多良間タッチ」の修行がひろがった背景はいくつかある。一つは2024年1月から、JALマイレージバンクの上級会員のルールが大きく変わったことだ。JGC(JALグローバルクラブ)など、上級会員の達成用件として、国内線は1搭乗につき5LSP加算されるというルールになった。長さや金額は問われない以上、短い期間かつ低コストで貯められる路線に人が集中する構造が生まれやすくなっている。

今回は2026年1月13日から那覇-宮古・石垣線、石垣-宮古線でダブルマイルキャンペーンとなったことが拍車をかけた。修行は宮古-多良間だけではなく、宮古-那覇や宮古-石垣と組み合わせて行われることが多いためである。

さらに2026年2月1日から28日までは「JAL Life Status プログラム2周年キャンペーン」と銘打ち、琉球エアーコミューターをふくむJALグループ国内線の搭乗時に1搭乗ごとのポイントが2倍(5ポイントが10ポイント)となるため、修行僧が集中することが予想されている。

JALの対応は早かったが…問題点も

JALも手をこまねいていたわけではない。むしろ対応は早かった。1月26日には、2月12~15日、28日の増便を発表した。とはいえ2026年1月29日時点では2026年2月の宮古発多良間行きのRACは28日中19日で2便とも満席となっている。また、増便は「修行僧」にとって効率がよくなるため、「修行僧」をさらによびこむ可能性がある。

(画像:日本トランスオーシャン航空のプレスリリース)

多良間線に投入されている機材はボンバルディアDHC8-Q400型機カーゴコンビとよばれるもので、機体の後部が貨物室となっているため、定員は50人とかぎられていることも仇となった。多良間空港の滑走路は1500mあるのでより大型の機材も離発着可能だが、そもそもこのキャンペーンが終了する3月以降にはほぼ通常の状態に戻ることが想定され現実的ではない。

多良間空港(写真:Ken Ishima/PIXTA)

上級会員への条件として搭乗回数をなくすという選択肢も影響が大きすぎる。比較的ハードルが低い対策は、次回多良間線を含む離島路線にかぎり、今後はポイントが2倍とするキャンペーンの対象外とすることだろうか。

SNSや動画などの拡散などを背景にして、効率的な修行ルートに人が集中することは今後も避けられない。修行そのものは航空会社のルールに則ったものであり、ネガティブなラベリングはさけたい。とはいえ、キャンペーンのたびに同様の現象が生じるのであれば、マイレージプログラムの一部ルール変更などの解決策が必要なのかもしれない。