学童保育「小4の壁」とは?「民間学童に17日で約9万円払った」ケースも

■長期休みだけでも公設の学童保育に行けたら…, ■調査に表れない「潜在的待機児童」の可能性, ■東京都の「認証学童クラブ事業」で環境改善なるか?, ■高学年も学童保育を利用できるように

 保護者が仕事や介護などで不在の時間、小学生の居場所となる放課後児童クラブ(学童保育)。いまや公立小学校に通う1年生の約半数が利用する施設ですが、定員オーバーなどで入所できない「待機児童」は全国で1万6000人超に上ります。特に保護者を悩ませるのが「小4の壁」。4年生の待機児童は、全学年のうち最も多い5589人です。新4年生の放課後は、どうなるのでしょうか?※後編<学童は低学年だけのものじゃない!「高学年が進んで通う」理想の学童とは? 専門家が見た現場>に続く

■長期休みだけでも公設の学童保育に行けたら…

 東京都三鷹市は、公設の学童保育の入所を「原則3年生まで」としている自治体のひとつ。同市に住む作業療法士の女性は、2025年春、小学4年生になった一人息子が学童保育を退所しました。長時間の留守番に不安があったため、息子には、小学校で実施されている「放課後子供教室」で宿題をしてから、英語やテニスなどの習い事に行ってもらうことにしました。

 放課後子供教室は文部科学省が所管する、放課後や休日に小学校の空き教室などを利用して遊びの場を提供する事業です。定員はなく、その学校の児童なら誰でも参加できます。保護者の就労状況も問われません。しかし、実施時間は午後5時頃までの場合がほとんどです。また、放課後子供教室には学童保育と違っておやつの時間がないため、女性が習い事に迎えに行くと息子は空腹と疲れでぐったりしているとか。

 さらに女性を悩ませるのは、放課後子供教室はお盆期間が休みになることです。

 25年の夏休みは、仕方なく完全自費の民間学童を利用したところ、17日間の利用料8万6000円と工作などの参加費が別途かかりました。

 24年までは夏休みも公設の学童保育に通っていたため、利用料は月5000円、おやつ代1500円でした。安心のためとはいえ、完全自費の民間学童は経済的負担が大きく、女性は早くも来年度の春休みを心配しています。

「春休みはお盆やお正月と違って親が休みをとりにくい時期。長期休みだけでも公設の学童保育を利用できれば……」と話します。

■調査に表れない「潜在的待機児童」の可能性

 従来、国は学童保育の対象を「概ね10歳未満」としていましたが、12年に児童福祉法が改正され、「保育が必要なすべての小学生」に引き上げられ、基本的には6年生まで利用できるようになりました。

 ただ、一部自治体では3年生・4年生までと“線引き”しています(1633自治体中、4年生までが29、3年生までが35)。地域の利用ニーズが高く、受け入れが追いつかないためです。こども家庭庁の調査によると、学童保育の登録児童数は1~3年生が全体の約8割。待機児童1万6330人のうち、1年生1966人に対し、4年生は5589人と約2.8倍に上ります(25年5月現在)。高学年のニーズに、供給が追いついていない課題があるのです。

■長期休みだけでも公設の学童保育に行けたら…, ■調査に表れない「潜在的待機児童」の可能性, ■東京都の「認証学童クラブ事業」で環境改善なるか?, ■高学年も学童保育を利用できるように

 しかも、待機児童にカウントされているのは、受け入れる制度があっても利用できなかった児童のみ。三鷹市のように対象を3年生までとしている場合、4年生以上は待機児童に含まれません。また、「6年生まで利用可」としている自治体であっても、現場では低学年の受け入れを優先し、「高学年がやめないと1年生が入所できない」という無言の圧力がかかるという声もあります。こうした場合も待機児童には含まれないといいます。

 そのため、実際には調査に表れた人数以上に学童保育を利用したくてもできない児童がいると考えられます。

 また、学童保育には人数の上限を定めた法律がないため、過密状態の施設が増えており、職員の目が行き届かない問題もあります。結果として、子どもが学童に行きたがらないという保護者の悩みにもつながっています。

■東京都の「認証学童クラブ事業」で環境改善なるか?

 東京都の待機児童数は全国最多の3360人(25年5月)。都は、これを28年5月までにゼロにする目標を掲げ、25年度から独自の認証制度をはじめました。さらに、学童保育を開設する区市町村に対し整備費や賃借料の補助もおこなっています。

 都の認証制度の対象は、区市町村が設置または運営している学童保育や、自治体の補助や委託等で運営する民設民営の学童保育(利用料は公設と同水準)で、完全自費の民間学童は含まれません。

 認証事業では開所時間や職員数、1支援単位(クラス)の人数、児童一人あたりの面積などで国の目安を上回る基準を設定。認証を取得した学童保育には、運営費として1クラスあたり年間約619万円を交付します。また、遊びの充実、長時間開所などで交付金の上乗せもあります。

 都福祉局家庭支援課では「学童保育に関する国の基準は大まかなものしかないので、毎日通いたいと思えるよう、質の向上を目指して認証をはじめています。民間事業者(民設民営)の参入を促し、質の向上と同時に量の拡充を進めていく考えです」としています。

 また、こども家庭庁も25年11月、放課後の小学生の居場所を設けた企業などに対し、建物の賃借料や見守りにかかる人件費を補助するモデル事業を今年度中にも実施すると発表しました。

■高学年も学童保育を利用できるように

 学童保育の運営をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」(埼玉県)代表で、学童保育に詳しい萩原和也さんは都の取り組みについてこう評価します。

「都が国の基準を上回る、質の向上に結びつく基準を示したことは評価できます。開所時間に関する国の基準はありませんが、都では少なくとも夜は7時まで、学校が休みの日は朝8時からの開所を求めています。認証の条件は厳しいですが、都内で学童保育を開いている大手の事業者にとって不可能なレベルではありません」

 一方で、萩原さんはこう指摘します。

「都内には高学年を受け入れていない公設の学童保育がたくさんあるのに、潤っている民間事業者の学童保育のレベルを上げることに税金を使うのは適切なのでしょうか。まず、高学年が入れない学童保育の支援を優先すべきだと思います」

(取材・文/大野有希子)

■長期休みだけでも公設の学童保育に行けたら…, ■調査に表れない「潜在的待機児童」の可能性, ■東京都の「認証学童クラブ事業」で環境改善なるか?, ■高学年も学童保育を利用できるように

○萩原和也(はぎわら・かずや)/日本で唯一の、学童保育の運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表。社会保険労務士。新聞記者時代に学童保育の重要性と支援員の待遇改善を痛感して、学童業界に転身。2011~22年にNPO法人の代表理事などとして学童保育の改革を成功させ、2022年からその経験をベースに、全国の学童保育や運営組織に助言やアドバイスを行っている。著書に『知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの〝社会インフラ″』(寿郎社)、学童保育のリアルな実態を描いた小説『がくどう、 序』(amazonでPOD出版)がある。

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