解説|活況の日本と冷え込む米国―世界が見限る経済覇権

解説|活況の日本と冷え込む米国―世界が見限る経済覇権
NEKO ADVISORIES 岩倉です。イタリアで開催中のミラノ・コルティナ冬季五輪では、日本選手団が快進撃を続けています。開幕から1週間でメダルは既に10個に到達し、過去の大会と比べても最も早いペースで二桁の大台に乗せました。この明るいムードは日本の金融市場にも漂います。
年初からTOPIXと日経平均はともに1割超の上昇を記録し、史上最高値を次々と塗り替えています。高市政権が発足してからだけでも日経平均は5%ほど伸びており、人工知能・半導体から防衛、エネルギー、国土強靱化まで17の重点分野を掲げた成長戦略への期待が背景にあります。(ブルームバーグ)

しかし、米国では「SaaSの終焉」が叫ばれ、株価は下落の一途を辿っています。アンソロピック、OpenAI、グーグルが鎬を削って開発を進めるAIエージェントの進化により、これまで企業向けソフトウェアが担ってきた業務が不要になるのではないか。そんな危機感が一気に噴き出しました。
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本日のニュースレターでは、米国の雇用市場と消費行動の実態を掘り下げ、債券や通貨の世界で起きている資金の流れの変化、そして米中関係の新たな局面が経済全体にどのような影響を及ぼしつつあるのかを見ていきます。日本株が活況を呈している今だからこそ、視野を広げて世界経済の地殻変動を捉える必要があるでしょう。
<本日のトピック>
・歪む米国消費、富裕層依存
・関税転嫁の打撃、揺らぐ雇用
・世界が距離を置く米国債市場
・米台蜜月と中国の反発
米国消費、富裕層依存
米国経済では消費行動の分断が深刻化しています。富裕層と低所得層の間で、消費パターンの乖離が鮮明になっているのです。調査会社の分析によると、所得上位10%の世帯が全米消費支出に占める割合は、現在では半分近くに達しています。30年前、この層の消費シェアは3分の1程度に過ぎませんでした。
直近四半期で市場予想を上回る好成績を収めた企業をみると、富裕層顧客による高単価商品やサービスの販売を行っています。例えば、仏エルメスは前年比プラス10%程度の売上高を記録しています。特に米国市場は12%を超える伸びを記録しました。ただし、成長率は鈍化していることにも注意が必要です。(ロイター)
さて、中低所得層に目を向けると、状況は一変します。生活消費財や個人向け金融サービスなどの企業は消費者が予算を切り詰めるために購買を先送りする圧力に直面していると説明しています。確かに、2月のミシガン大学消費者信頼感指数は57.3まで回復しましたが、これでも2020年1月の水準より2割ほど低い状態です。株式を多く保有する消費者の信頼感は急上昇している一方で、株式を持たない層では改善の兆しすら見られず、低迷が続いているという見方もあります。

実際に買い物の現場で変化がみて取れます。自動車市場では、消費者は装備が充実した上級グレードから、必要最小限の機能に絞った基本グレードへと関心を移しています。例えばトヨタ自動車でもトヨタ自動車も同様で、カローラやカムリといった手頃な価格帯の車種が好調だった反面、高級ブランドのレクサスは販売が振るいませんでした。(ロイター)
物価上昇は所得額に限らず等しく影響を受けますが、食料品や燃料、家賃といった生活必需品が支出に占める割合が大きい低所得世帯ほど影響を受けます。1月の米・消費者物価指数(CPI)は2.4%となり、市場予想を下回る結果となりました。(CNBC)引き続き注視が必要です。
関税転嫁の打撃、揺らぐ雇用
米国の雇用市場は、数字の裏側に深刻な問題を抱えています。1月の雇用統計では非農業部門の就業者数が前月比13万人増となり、市場予想を大きく上回りました。失業率も4.3%に改善し、一見すれば労働市場は安定しているかのようです。しかし、この数字を分解してみると、全く異なる実態が見えてきます。
雇用増加のほとんどは医療セクターに偏っています。高齢化社会を迎えた米国では医療需要が拡大しており、医療従事者だけで8万人超が新たに雇用されました。しかし、製造業では大統領選後だけで8万人以上の雇用が消失し、金融や情報、運輸・倉庫といったセクターでも減少が続いています。連邦政府の雇用も削減が進み、昨年秋のピークから30万人以上が職を失いました。(ブルームバーグ)
さらに注目すべきは、労働省が同時に公表した過去データの修正です。昨年春までの1年間で創出された雇用は、当初の見積もりより86万人以上も少なかったことが判明しました。(ロイター)雇用市場の基盤は、私たちが思っていたよりもはるかに脆いのです。

WSJ
この脆弱な雇用環境に、新たな負担が加わっています。関税です。トランプ政権は「関税は外国が支払う」と繰り返し主張してきましたが、データはその逆を示しています。ニューヨーク連銀の最新調査によれば、昨年導入された関税の9割近くを米国内の消費者と企業が負担しています。(ロイター)関税が輸入品のコスト増を直接もたらし、それが国内価格の上昇につながっていると指摘しています。外国企業が負担するのはごく一部で、米国企業が利益を削って吸収できる範囲にも限界があります。結局、負担の大半は最終的に消費者へと転嫁されていくわけです。
こうした生活費の上昇を前に、政権は国民へのアピールを強めています。トランプ大統領は、20%を超えるカード金利は「犯罪的」だとして、金利の上限を1年間10%に制限する提案を行っています。無論、この政策は劇薬になるでしょう。金融機関側は強く反発しており、JPモルガンのCEOは「経済的大惨事を招く」と警告しています。(ブルームバーグ)
関税によって物価は上昇し、それに対する政治的な対症療法がかえって金融システムの安定を脅かす。米国経済は今、構造的な問題を先送りしながら、表面的な対策で国民の不満をなだめようとしています。
世界が距離を置く米国債市場
米国経済の脆さは、国内だけでなく世界との関係にも表れ始めています。30兆ドルを超える規模を誇る米国債市場は、長らく世界最大かつ最も安全な資産の受け皿とされてきました。好況時も不況時も、外国の中央銀行や機関投資家が積極的に資金を投じ、米国の財政を支えてきた構図です。しかし、その前提が静かに崩れ始めています。
最も顕著な変化を示しているのが中国の動向です。この10年間、中国は一貫して米国債の保有規模を縮小させてきました。ピークだった2013年と比較すると、現在の保有額はほぼ半分になっています。昨年11月時点での残高は6830億ドルで、これは2008年以来見られなかった水準です。

米国債離れは中国に限りません。デンマークの年金基金はグリーンランド発言を機に約1億ドルを売却し、オランダも欧州へシフトを進めています。インドは5年ぶりの低水準、ブラジルも長期債を減らしています。各国で米国債の「絶対安全」という前提が揺らいでいます。
同盟国は異なる動きを見せています。日本、カナダ、英国は保有を増やし、外国勢全体では昨年11月に9兆4000億ドルと過去最高に達しました。しかし米政府の借入拡大ペースを考えれば、外国人投資家の比率は低下の一途です。10年前は半分近くを占めていましたが、今は3割程度です。支える基盤は確実に細りつつあります。(ブルームバーグ)
米台蜜月と中国の反発
債券市場の地殻変動と並行して、地政学的な緊張も高まっています。米国と台湾は12日、広範囲にわたる貿易協定を正式に結びました。台湾側は米国からエネルギー資源として440億ドル超のLNGと原油を調達し、航空機や関連部品に150億ドル、電力インフラには250億ドルを投じます。農産物や医療機器、自動車といった米国製品の輸入拡大にも合意しました。米国は見返りとして、台湾製品にかけていた関税を20%から15%へ引き下げます。(ブルームバーグ)両者の経済的な結びつきが強まる半面、この接近は中国にとって看過できない動きです。
台湾の頼清徳総統は海外メディアとのインタビューで踏み込んだ発言をしました。もし中国が台湾を手中に収めれば、その拡張志向は止まらず、次に標的となるのは日本やフィリピンといった近隣諸国だと警告したのです。頼総統は議会が400億ドル規模の国防予算追加を承認する見通しを示しており、米国からの武器調達を含めた防衛体制の抜本的強化を進める意向です。(時事通信)
米国は今、内憂外患の状態にあります。国内では消費行動の分断と雇用市場の脆弱性が進行し、対外的には債券市場での地位低下と地政学的対立の深刻化に直面しています。ドルと米国債が担ってきた「最後の安全資産」という役割が、かつてないほど多方面から問い直されています。米国の立ち位置は、経済面でも外交面でも、確かな揺らぎを見せ始めているのです。
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