きゃりー「保育園落ちた」待機児童減なのになぜ?

子どもの預け先がないだけで、人生設計が崩れるんだと知りました(写真:筆者提供)
「子どもの預け先がないだけで、人生設計が崩れるんだと知りました」
【クリックして図表を見る】待機児童数は年々減っている…はずが?どうして保育園全落ちの報告が後を絶えないのか
インタビューに協力してくれたAさん(33)は、そう語る。なぜ“改善しているはず”の制度の中で、母親たちはキャリアを断たれ続けているのだろうか。
「保育園全落ちは、人生を変えるほどの破壊力」
Aさんは、都内のIT企業で正社員として働いていた。第1子出産にあたり産休・育休を取得し、復職することを前提に10園以上の認可保育園に申し込んだという。しかし、結果は全滅。
「認可外保育園も探しましたが、月10万円を超える園しか空きがありませんでした。復帰後は時短勤務予定だったので収入は確実に減るし、保育料とのバランスを考えると現実的ではないかなと思い……。結果、育休を延長しましたが、翌年も全落ちしてしまったんです」
結局Aさんは復職を断念し、退職を選んだ。
「職場に迷惑をかけたくないし、復帰の見通しも立たない。待機児童という言葉は知っていたけど、自分の人生を変えるほどの破壊力があるとは思っていませんでした」
現在は子どもが幼稚園入園後に再就職を検討しているというAさん。しかし、新卒から長く勤めていた企業でのキャリアを断絶されたことに、今なお強い喪失感を抱えているという。
東京都在住のBさん(38)は、第2子の保育園申請で3年連続の不承諾となった。
「うちは上の子が小学生なので“きょうだい加点”がありませんでした。第1子のときより条件が厳しくなっているように感じ、フルタイム共働きでも安心できないんだなと痛感しました」
認可保育園の入園選考は点数制で行われる。勤務時間、家庭状況、きょうだい在園の有無などが数値化され、合計点の高い家庭から入園が決まるのだ。

条件は自治体によって異なるが、きょうだいが保育園利用していると加点されるケースが多い(写真:筆者提供)
Bさんは最終的に正社員復帰を断念し、週3日のパート勤務を選択した。
「祖父母は遠方に住んでいるため頼れません。保育所の一時預かりや在宅勤務を組み合わせて、どうにか働いています。でも、これまでのキャリアは事実上リセットされました」
年収は出産前から約6割減少したという。
“待機児童ゼロ”なのに保育園に入れない?
毎年1月下旬から2月上旬にかけて、全国の自治体から対象家庭に向けて認可保育園の入園結果が通知される。待機児童問題は解消に向かっているとされるが、毎年この時期になると、SNS上には保育園に入れなかった母親たちの嘆き悲しむ声が数多く投稿される。
先日、歌手・タレントのきゃりーぱみゅぱみゅ氏がXに「保育園落ちた」と投稿し、大きな反響を呼んだことも記憶に新しい。著名人の保育園全落ちがネットニュースとして報じられるほど、保育園に入れない問題は依然として社会的関心の高いテーマであることがうかがえる。
しかし、この現状とは裏腹に、全国の待機児童数は2017年の約2万6000人をピークに減少し、2025年4月時点では2254人と8年連続での減少を記録している。さらには、多くの自治体が「待機児童ゼロ」を達成しているというのだ。

待機児童数と保育所等定員数(画像: こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ:令和7年4月1日」 より筆者作成)
上記の表を見ると、全国には待機児童数を十分に受け入れられる数の保育所が存在していることが分かる。
しかし、これには大きな落とし穴がある。統計に含まれない『隠れ待機児童』の存在だ。国の定義では、以下のようなケースは待機児童から除外される。
・特定の保育園のみを希望している
・育児休業中で復職していない
・認可外など自治体独自事業を利用している
・求職活動を休止している
たとえば、きょうだいと同じ園に通えなければ送迎が困難なため特定の保育園の空きを待っている家庭や、前年度の不承諾を受けて育休を延長している家庭などは、たとえ認可保育園の入園を希望していても、待機児童にはカウントされない。
こうした“見えない待機児童”の数は年々増加し、近年では数万人規模にのぼるとされる。特に都市部では、その傾向が顕著だ。
“代替手段”を使えばいい?→月10万近い費用がかかる
認可保育園に全落ちした場合の対処法として、ベビーシッターや認可外保育施設、一時預かり保育などの利用が挙げられる。自治体によっては補助制度も用意されており、「預け先がまったくないわけではない」と説明されることも多いようだ。
しかし現実には、こうした代替手段を継続的に利用できる家庭は限られている。最大の理由は費用だ。
認可外保育園の月額利用料は10万円前後に及ぶことも珍しくなく、ベビーシッターを定期利用すればさらに高額になる。時短勤務や収入減を前提とする育児期において、この負担は決して小さくない。
2児の母である筆者も、かつてこの問題に直面した。
第1子出産後、認可保育園の不承諾を受け、働き続けるために認可外保育園や民間ベビーシッターの利用を検討した。しかし、認可外保育園の最低利用料は月額9万8000円、ベビーシッターは1時間2500円程度と知り、現実的ではないと判断し利用を見送ったことがある。
中には就労を優先して利用する道を選ぶ家庭もあるが、「働くために預けるのに、保育料を払うとほとんど収入が残らない」という本末転倒の状況に陥るケースも少なくない。
このほかにも、一時預かり保育という選択肢もあるが、利用枠が限られていることが多く、希望日に確実に予約できる保証はない。
筆者も最終的には一時保育を利用することで、かろうじてまとまった労働時間を確保できるようになった。しかし、翌月分の予約は毎回激しい争奪戦だった。園指定の予約日に電話で申し込むのだが、朝一番にかけてもなかなかつながらず、100回近く発信してようやく予約できることも珍しくなかった。
それでも「すでに満員です」と断られる日も多く、思うように働けない状況が続いたことを覚えている。
このように、制度上は“代替手段がある”とされながらも、経済的・実務的なハードルの高さから、実際には選択肢として機能していない家庭は少なくない。保育園に入れなかった場合の負担は、依然として各家庭の自己責任に委ねられているのが現実だ。
八方ふさがり。このツケを払うのは誰か
統計上、日本国内の共働き世帯は増加の一途を辿っている。実際に、厚生労働省が発表した「2024(令和6)年国民生活基礎調査の概況」によると、子どもを持つ母親の就業率は近年過去最高水準を更新し続けている。

児童のいる世帯における母の仕事の状況の年次推移(画像: 厚生労働省「2024(令和6)年国民生活基礎調査の概況」 より筆者作成)
しかし保育園に入れなかった場合、離職や働き方の変更を迫られるのは圧倒的に母親だ。理由は至って単純で、多くの家庭で収入の低い側が育児を担う構造が言わずと出来上がっているからだ。無論、男女の賃金格差がそのまま育児負担の偏りにつながる。
この格差が存在する限り、保育園に全落ちした場合のリスクは自然と母親に集中する。
男性の育休取得率は年々上昇傾向にあるが、職場の理解不足などを理由に取得しづらい環境も依然残っている。結果として、母親側がキャリアを後回しにする構図が再生産されているのだ。
「本当は夫にも育休を取得してもらいたかったけれど、夫の会社では男性が育休を取得した実績がほとんどなくて。夫自身も肩身が狭い思いをしたくなかったのか、結果的に育休申請すらせずに、今まで通りの働き方を継続しました」。Aさんはそう語る。
保育園全落ちによりキャリアを断たれる母親が今なお多く存在することは、もはや個人の問題ではなく、日本の制度設計の問題であるとも言えよう。
制度上の改善と当事者の実感が一致しない現実

「点数的に1歳児クラスでの入園は難しい」と役所から助言を受け、筆者は第2子を0歳児クラスから預けることになった
保育園に入れなかったとき、失われるのは母親のキャリアや収入だけではない。女性の継続的な労働参加の停滞、専門人材の離職、それにともなう税収減少や出生意欲の低下など、社会全体で見ても、その損失は計り知れない。
それでも国の政策議論は「待機児童数の減少」という数字に焦点を当てがちだ。待機児童数が減ったという事実は、確かに重要である。しかし、隠れ待機児童が増加していることからも分かるように、制度上の改善と当事者の実感は一致していない。
制度が「解決に近づいた」とされる一方で、今この瞬間も自身のキャリアや自己実現を諦めている母親たちがいる。
「保育園に入れなかった」――ただそれだけの理由で。
保育園全落ちのツケを直接払っているのは、多くの場合母親だ。しかしその犠牲が積み重なった先で、社会全体が支払うコストは決して小さくない。
その影響の大きさは、統計だけでは測りきれない。この問題を、国はどう見るだろうか。