「日本では戦争を語ることが一種のタブー」“元国連”異色の論客が記した「戦争論」の本が「売れないと思う」と言われたワケ

戦争はなぜ繰り返されるのか――。その根源的な問いに向き合い、『22世紀の戦争論 なぜ人類は戦争を繰り返すのか』を書き上げたのは、元国連職員の36歳だ。ウガンダのスラムで目撃した暴力、米シンクタンクや政治の現場、国連での政策形成。異なる現場を横断した経験を経て執筆した初の著書は発売後に即重版し、注目を集めている。国連本部で研鑽を積んだ新鋭は何者なのか。下村建太氏のインタビューをお届けする。
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――36歳で初の著書『22世紀の戦争論 なぜ人類は戦争を繰り返すのか』を出すまでに、米シンクタンク、政治家である父親の公設秘書、ロンドン大学大学院、国連職員とキャリアを駆け上がってきました。ご自身の肩書をどう捉えていますか。
肩書が難しくて……。特に今、何かに所属しているわけではないんです。直近のキャリアである「元国連職員」で通しています。
国際政治に強い関心を持ったのは、大学2年生のときにウガンダを訪れたことがきっかけです。首都のカンパラを拠点として、約3カ月滞在しました。ここにスラムがあったのですが、本当にひどい環境でした。街に入ってすぐ、目の前で7歳ぐらいの少年が男性に顔を殴られている場面に遭遇したんです。衛生状態も悪く、地元の方は「HIVにかかり、10年後に生きていられるかわからない人がたくさんいる」と話してくれました。
スラムで暮らす住民の多くはソマリアからの難民か、ウガンダ北部の紛争から逃げてきた国内避難民です。そうした現状を目の当たりにして、戦争や紛争が人々の生活をいかに壊してしまうかということを突きつけられました。
――ウガンダには大学を休学して訪れたんですよね。渡航費をためるために建設現場でアルバイトをされたと聞きしました。
いわゆる「留学」であれば、親もサポートしてくれたと思います。ただ、休学して途上国に行くとなると、絶対に反対されると思ったんです。建設現場の仕事は朝が早く、だいたい朝5時くらいには家を出ます。実家暮らしだったので、夜まで不在にしていると怪しまれるじゃないですか。建設現場ならバレないと思ったんです。
渋谷ヒカリエは僕が建てたんです。いや、「建てた」と言うと大げさですが(笑)、「荷揚げ屋」として石こうボードのような重い資材をひたすら運ぶ仕事をしていました。そんなふうに渡航費と滞在費をコツコツとためていきました。

■親から「今すぐ戻ってこい」
――そうは言ってもいずれは親に伝えなければいけないと思いますが、どう切り出したんですか。
それが、大学から「あなたのお子さんは学校に行ってませんよ」と手紙が届いてしまったんです。ちょうど建設現場にいたときで、親から「今すぐ戻ってこい」と電話がかかってきました。
今思えば当たり前ですが、すごく怒られました。でも事情を説明して、最終的には応援してくれました。
――行き先としてウガンダを選んだのは、何か理由があったんですか。
それも親に怒られたのがきっかけです。もともと発展途上国の問題に関心があったので、世界のいろんな国を見て回ろうと思っていました。でも、いろんな国を見ても表面的にしかわからないから、1つの国に長くいたほうがいいと言われたんです。
父親が当時深く関わっていた「あしなが育英会」が、親を亡くした子どもたちのための施設をウガンダに持っていたので、そこに滞在させていただくことになりました。
――そこで冒頭の少年と出会ったのですね。2013年には上智大学を卒業して、米シンクタンクのCSIS(戦略国際問題研究所)で1年勤務しています。
いざ就職活動となったときに、日本では国際政治に関連した仕事が限られていることに直面しました。いろんな人に話を聞くなかでCSISの存在を教えてもらい、そこで1年仕事をすることになりました。契約を終えたあとは、政治に関わる仕事をということで、帰国して政治家の秘書を務めました。その後2020年にロンドン大学大学院(SOAS・UCL)で外交国際問題と公共経営の修士号を取得しました。
――大学院にいる間は、国連でインターンシップも経験しています。どのような活動をしましたか。
修士論文の執筆と並行してニューヨークの国連本部でインターンに参加しました。ここでは、平和活動局の政策を担当する部署に所属していました。インターンながら政策立案にも関わらせていただき、政策文書を作成する仕事も担当しました。とても興味深かったですね。

■戦争を語る=タブー?
――そうした実体験を経て、戦争や安全保障の問題に取り組むようになったんですね。
『22世紀の戦争論』を書く一つのきっかけになったのは、やはり2022年のロシアによるウクライナ侵攻です。19世紀の戦争のように大きな国が小さな国を侵略して、領土を奪おうとする。私のなかではかなりショッキングでした。この200年で人類の文明はすごく発展し、テクノロジーも進化したにもかかわらず、200年前と同じような戦争が起きてしまうのです。
ただ、人類の歴史を振り返ると、悲しいことですが戦争というのは何度も繰り返されてきたことでもあります。なぜ人は戦争を繰り返してしまうのだろうという問題意識を持ったことが、執筆のきっかけになりました。
――そうして書き上げた『22世紀の戦争論』ですが、<多くの方から「テーマは良いけど、売れないよ」と言われました>ともSNSに書いていましたね。
書いている途中にもよく言われました。友人は「いいじゃん」「面白そう」と肯定してくれるんです。でも、国際政治学者や元外交官など第一線で活躍されている方々からは、「テーマはいいけど、売れないと思うよ」と言われることが多かったですね。
理由はいくつかあると思いますが、日本では戦争について語ること自体が一種のタブーとなっていた側面がありますよね。平和に関する本や個別具体的な戦争に関する本は多く出ています。でも、戦争の本質的原因について記した本は少ないんです。語ることを避けてきたのかなと感じました。
第一線で活躍されている方々は、そうした現状を知っているからこそ、「売れないよ」というアドバイスをしてくださったんだと思います。でも、だからこそ書いたほうがいいと思って、4年かけて書き上げました。

――戦争について語ることを避けているのはなぜだと思いますか。
どう表現すべきか難しいのですが、日本にとって前回の戦争が極めて非合理で、大きなトラウマを残したことが大きいのではないでしょうか。それゆえ戦争そのものに正面から向き合うことを、どこかで避けてきた部分があるのではないかとも感じています。
ただ本当に戦争を忌避し、二度と繰り返したくないと考えるのであれば、むしろ戦争についてより深く理解しなければ、防ぐことはできないとも思うんです。だからこそ、あえて戦争を直視するための議論を本としてまとめることに意義があると考えました。
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「売れない」と言われながらも、『22世紀の戦争論』は書店のランキング上位に入り、発売後すぐに重版も決定した。6月2日配信の【インタビュー中編】では、「売れない」テーマがなぜ今求められているのか、外交官など実務現場の経験者が評価したポイントを解説する。
構成/福井しほ(AERA Books)
【AERA Books MEMO】
■朝日新書『22世紀の戦争論 なぜ人類は戦争を繰り返すのか』 (下村建太)
心理学・人類学・政治学・経済学などの知見を横断し、戦争の原因を「人」「社会」「国家」「国際社会」という四つのレベルから解き明かす。戦争を生み出す人類社会の構造に迫る。繰り返される戦争について、データに基づき理解したい人の必読書。
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