【ウクライナ戦争5年目突入へ】トランプ氏「6月停戦」猛進の裏側、プーチン政権はインドの“ロシア離れ”で青息吐息

ロシア軍に破壊され廃墟となったウクライナ・ドネツク州の住宅跡(2026年2月撮影、写真:ロイター/アフロ)
5年目に突入する消耗戦、水面下で進む「3カ国実務者協議」の限界
2022年に勃発したウクライナ戦争は、今年2月24日で丸4年を迎え、ついに5年目に突入する。
アメリカのトランプ大統領は、停戦・和平交渉に積極的に関与し、ウクライナ、ロシア両国に硬軟織り交ぜ一刻も早く停戦合意するように迫る。果たして長期戦・消耗戦に陥り、拗(こじ)れに拗れたこの戦争を、トランプ氏の思惑どおり終わらせることができるのだろうか。
和平交渉を巡る動きは昨年半ばごろから活発化し、今年に入ると1月と2月初めの二度にわたり、ウクライナ、ロシア、アメリカ3カ国の実務者協議が、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビで開かれた。
だが、結果は期待外れで、捕虜交換以外これといった進展はなかった。
米CNNによれば、2月6日にウクライナ大統領府は、「彼ら(アメリカ)は今年6月までに(戦争を)全て終わらせたいと述べた」というゼレンスキー大統領のコメントを公表した。そして、アメリカは明確な行動計画を求め、戦争終結のためにあらゆる策を講じるつもりだと付け加えた。
一方、2月半ばにドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議(MSC)は、ウクライナ戦争の和平交渉の話題で持ち切りとなった。
ゼレンスキー氏も参加して講演に臨むと、トランプ氏に辟易した様子で、
「(アメリカとは)立場が全く異なると感じることがある」
「どのような戦争終結の合意よりも前に、(ウクライナの)安全の保証が必要」
「(アメリカは)ウクライナばかりに譲歩を求める」
と、恨み節を披露し、宿敵・ロシアのプーチン大統領についても、「戦争の奴隷」と切り捨てた。

2026年2月14日、ミュンヘン安全保障会議で演説するウクライナのゼレンスキー大統領(写真:ゲッティ=共同通信社)
「ドンバス譲渡」「NATO永久非加盟」──和平案の中身が示す“ウクライナ切り捨て”
トランプ氏はロシア寄りの和平案を受諾するようにと、執拗にゼレンスキー氏を口説いているようだ。英BBCなどの報道によれば、昨年11月20日に提示した和平案は、ロシアとの共同作業でまとめたものらしく、トランプ氏のロシアびいきが際立つ内容だったようである。
詳細は公開されていないが、全28項目で「東部ドンバス(ルハンスク、ドネツク両州)地方全土のロシアへの譲渡」「ウクライナ軍の大幅縮小」「兵器の大半の放棄」「NATO(北大西洋条約機構)への永久非加盟」などが列挙されていたという。
対するロシアへの優遇措置は手厚く、和平協定締結後は、欧米が課す制裁を解除し、主要7カ国(G7)に加え、「G8」を復活させる(ロシアは2014年、クリミア半島侵攻を理由に除名)と大盤振る舞いの内容だったらしい。もちろんゼレンスキー氏は拒否し、その後何度も修正が加えられるが、いまだ受諾にはほど遠い。

2025年8月15日、アラスカ州アンカレッジで行われたトランプ米大統領(右)とロシアのプーチン大統領の会談(ⒸPresident of Russia Office apai/APA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
そして、3回目となる3カ国高官協議が、今年2月17~18日にスイス・ジュネーブで開催された。米ホワイトハウス報道官は「有意義な進展があった」と強調したが、結局ウクライナ、ロシア両者は一歩も譲らず、物別れに終わった模様である。

2026年2月16、17日にスイス・ジュネーブで行われた米国・ロシア・ウクライナによる三国協議(ⒸYekaterina Chesnokova/TASS via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
勝ち戦のロシアが譲歩することはなさそうで、特に「ドンバス地方の支配権獲得」「米軍やNATO軍のウクライナ駐留拒否」の2点は、絶対に譲れないだろう。
一方のウクライナもこの2条件は絶対にのむことのできない核心的部分だ。ゼレンスキー氏にとっては、まだロシア軍に制圧されず、自国の将兵が死守する地域も手放し、ドンバス地方をロシアに差し出せとの要求は、「盗人に追い銭」の何ものでもなく到底受け入れられないだろう。
このままの条件では、結局両者は平行線をたどるしかない。
「安全の保証」に関して、アメリカ側は「15年」を提示した、とも伝えられる。
時事通信によれば、ミュンヘン会議でゼレンスキー氏は記者団に対し、「(安全の保証期間は)20年以上で、30年、50年を望む」とし、さらに「投資家や企業は、5年、10年よりも長い保証をほしがっている」と、ビジネス優先のトランプ氏をけん制する。

欧州駐留の米陸軍部隊。ウクライナが求める「安全の保証」に関し、トランプ氏は米軍駐留には否定的(写真:アメリカ欧州軍ウェブサイトより)
トランプ氏が「6月停戦」と期限を設けたのには、今年11月のアメリカ中間選挙をにらんだスケジュール的な理由が見え隠れする。有権者に対してインパクトのある話題でアピールしたいとの思惑である。
欧米の政財官界・芸能界を巻き込む性虐待事件、いわゆる「エプスタイン問題」対策も関係しているのではないかとの見方も一部にある。トランプ氏も関係していたとする疑惑は根強く、中間選挙を前にイメージダウンを避けるため、世間やマスコミの目をそらそうと、次から次へとセンセーショナルな話題を発信する作戦と見られているのだ。
そして、相変わらずの「ノーベル平和賞」受賞願望も無関係ではないだろう。仮に6月のタイミングで和平にこぎ着ければ、2026年の受賞者が発表される10月に十分間に合う。
守られなかった「核放棄の見返り」、ブダペスト覚書が露呈させた国際合意の脆さ
「安全の保証」に関しては、そもそも「ブダペスト覚書*注」に基づき、ウクライナの安全を保証しなければならないのはロシアである。“保護者”自らがウクライナを蹂躙(じゅうりん)する現状は、もはやだまし討ちでしかない。
*注:ブダペスト覚書(1994年12月)/1991年のソ連崩壊で独立国となったロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの4カ国は、旧ソ連が保有する核兵器も分割保有した。だが核拡散を懸念する米英ロは、ロシア以外の3カ国に核を完全放棄させ(ロシアに譲渡)、見返りに米英ロが3カ国の主権と国境線を尊重・保障する政治的合意を行った。しかし、ロシアによる2014年のクリミア併合や2022年からの侵攻でこの覚書は破綻し、実効性や法的拘束力が問題視されている。
国際的取り決めをあっさりと反故にするプーチン氏の非道さもさることながら、結果的にウクライナの安全を保証しない米英も重罪だろう。米政府は、ブダペスト覚書は米英ロが“安全の保証”を与えた政治的合意ではあるが、「軍事介入の義務まで明記した条約ではない」との見解を崩さない。
「核兵器を手放さなければよかった」と、ゼレンスキー氏が悔やんだとしても不思議ではない。くしくも覚書が全くの画餅であることが証明され、欧米の口約束や紙の文書ではなく、文字どおり「ブーツ・オン・ザ・グラウンド:軍靴で地面を踏め=地上部隊派遣」以外、信用できない心持ちのようである。

「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」ゼレンスキー氏は安全の保証として米軍部隊の駐留を強く求めている(写真:アメリカ欧州軍ウェブサイトより)
いずれにしても、ゼレンスキー、プーチン、トランプ3者の思惑は、全く折り合いがつかないというのが実情だ。仮に和平協定が締結したとしても、ガザ紛争のように、「和平」とは名ばかりで数日後に戦闘再開、という状況に陥る可能性が高い。

全く折り合いがつかない3者の思惑(左からロシアのプーチン大統領、トランプ米大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領(写真:ゲッティ=共同通信社)
財政赤字は目標の5倍、GDP比2.6%にまで悪化したロシアの台所事情
和平交渉の駆け引きで終始強気なそぶりのプーチン氏だが、国内の台所事情は火の車で青息吐息、というのが欧米の主要メディアや多くのシンクタンクの推測だ。
実際、ロシアは経済成長に急ブレーキがかかり始めている。
1月にIMF(国際通貨基金)が発表した経済見通しによれば、2025年のロシアの実質GDP(国内総生産。推計)は約145兆ルーブル(約1.9兆ドル)で、対前年成長率は0.8%にとどまるという。
経済成長率を見ると、ウクライナへの全面侵略を始めた2022年は、欧米の経済制裁の影響でマイナス1.4%だったが、プーチン氏の主導で素早く戦時経済へと移行し、軍需と政府投資を推進した結果、2023年、2024年と4%成長を叩き出していた。
だが、インフレや人件費高騰抑制のため、政策金利引き上げなど金融引き締め策が強化され、個人消費や民間企業の活動が落ち込んだことや、輸出の稼ぎ頭である原油・天然ガスが、欧米の経済制裁や原油価格低下の直撃を受けたことが響いたらしい。
政府主導の軍需もさすがに息切れ気味で、武器・弾薬をいくら製造しても戦場で消費されるだけで、国内産業や消費者、交通の利便性・効率化向上など、再生産にはほとんど寄与しない。今後の成長率予測も、2026年0.8%、2027年1.0%と低調だ。
ロシア政府の懐事情も厳しくなってきている。
ロシア財務省発表の2025年財政赤字は5.6兆ルーブル(約721億ドル)、GDP比は2.6%(英ロイター報道)。GDP比の財政赤字は2020年以来、金額ベースでは2006年以来の高水準で、当初目標の「財政赤字1.2兆ルーブル、GDP比0.5%に抑制」を大きく超え、金額ベースで5倍近くも赤字が膨らんだ。
歳入(約37.3兆ルーブル)が当初目標よりも約8%も少なく、逆に歳出(約42.9兆ルーブル)が同3.5%(前年比7%弱)も増えたことが要因だという。
ロイターは2026年もロシアの財政赤字額の圧縮は厳しいとも報じており、当初目標のGDP比1.6%から3.5~4.4%へと最大3倍に達すると試算する。
輸出収入24%減の激震、国家財政の4分の1を支える「資源依存」の脆弱性
ロシア財政の悪化の背景には、前出のように歳入の3割を占める原油・天然ガス収入の縮小が挙げられる。
特にロシアの原油輸出先は、中国とインドの2カ国で9割近くを占めるが、全体の3~4割に達するインドが、欧米からの執拗な要請に屈し、2025年後半から輸入量を徐々に減らしているのが、ボディーブローのように効いている。
米CNNによれば、2月2日にトランプ氏がインドのモディ首相と会談し、インドがロシア産原油の購入停止と引き換えに、アメリカがインド製品に課す50%の関税を18%に即時に引き下げることで合意したという。

2025年2月、トランプ米大統領(右)と会談するインドのモディ首相(写真:ロイター=共同通信社)
インドの購入量がすぐさまゼロになるわけではないが、国家財政を原油に依存する一大産油国・ロシアにとって、“激震クラス”の衝撃だったことは間違いない。
2026年2月5日付の米フォーブス誌によれば、ロシア財務省は2025年の原油・天然ガスの輸出収入は、約8.5兆ルーブル(約1102億ドル)で、2024年の約11.1兆ルーブル(約1447億ドル)と比べて約24%減少したと公表した。
ロシアは国家財政の4分の1を原油・天然ガスからの税収で賄うだけに、この落ち込みは非常事態に値するはずだ。
『データブック・オブ・ザ・ワールド2026』(山川出版社)によれば、2024年のロシアの輸出額約4172億ドルのうち、原油は22.5%、天然ガス11.3%で合計33.8%、約1410億ドルで、これは「大本営発表」的なロシア財務省の数字とほぼ一致する。
ガソリンや軽油、重油など、原油由来の石油製品の輸出規模14.2%も加えれば、全輸出額に占める石油・天然ガスの割合は48%に跳ね上がる。
輸出で外貨を稼ぐ半分が原油/石油製品・天然ガスだけに、欧米の締め付けが今後プーチン政権を真綿で首を絞めるように苦しめる可能性が高い。

ロシア・ノボロシスク商業港の原油積み込みターミナル(ⒸIgor Onuchin/TASS via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
戦死傷者120万人の衝撃、高額な契約金で買い叩かれる「少数民族」の兵士たち
ウクライナ戦争で急増する戦死傷者もロシアの国力に暗い影を落としている。
1月27日にCSIS(米戦略国際問題研究所)が公表したデータによると、開戦(2022年2月)~2025年末のウクライナ戦争での死傷者数(行方不明者も含む)は約120万人で、うち戦死者は27.5~32.5万人と推計する。
プーチン氏は2024年に総兵力150万人体制の大統領令を発令したが、強制動員は極力避け、あくまでも高額な契約額で、国内や海外から年間40万人規模で補充兵を確保している模様だ。
だが主軸は国内のロシア民族(白人)以外の少数民族で、高額な契約金を“餌”に徴募しているのが実情だという。
英シンクタンクのIISS(国際戦略研究所)発行の『ミリタリーバランス(2025年版)によれば、ロシア正規軍の総兵力は113万4000人で、国家親衛隊33万5000人を含む準軍隊56万9000人と正規軍予備役150万人も控える。
ウクライナ戦争に投入する兵力は推定71万人で、一概には言えないが正規軍の6割の規模に相当する。
ロシアの一般市民のほかに、囚人や外国人傭兵なども相当数含まれるが、通常ならば経済活動に従事し、GDPアップに貢献するはずの健常な多数の人材が、前線に送られ消耗戦で死傷しているわけで、ロシアが被る損失は想像以上だろう。
加えて、侵略戦争を嫌ったり、徴兵を心配したりして国外に逃亡したロシア国民は数十万人~100万人に上ると見られる。しかもIT関連の技術者やエンジニアなど高学歴の割合が高いようで、ロシアの“頭脳流出”は国力を確実に低下させるだろう。
ちなみにロシアは「大国」のイメージが強いが、国連統計によれば2023年の総人口は約1億4500万人で、日本の約1億2100万人と大差ない。戦争がこのまま長期化すれば、近い将来、徴兵による強制動員を行わない限り、兵員不足に陥ることは想像に難くない。
統計には表れにくいが、帰還兵の社会復帰に関わるコストも深刻だ。少子高齢化(合計特殊出生率1.41)が叫ばれ、労働者不足が深刻な点は日本と同じで、貴重な労働力が非生産的な戦場に送られるだけでも国家的マイナスだが、より深刻なのは膨大な帰還兵のケアである。
身体的障害や、砲爆撃による戦場恐怖症(シェルショック)を含むPTSD(心的外傷後ストレス障害)など、精神的障害を被った数十万人規模の元将兵の治療やリハビリ、社会復帰に費やす人的・経済的コストは国家財政を確実に圧迫する。
このように、大国・ロシアは想定外の長期戦・消耗戦で国力を徐々に落としている。頼みの綱の原油・天然ガスの収入は、原油価格の下落と欧米の制裁で萎む一方で、経済成長も落ち込み、国家財政を圧迫している。

ドローン戦が激しさを増す。準軍隊のウクライナ郷土防衛隊は電波妨害装置でロシア軍の中国製ドローンを無力化して捕獲(写真:ウクライナ国防省ウェブサイトより)
ウクライナを勢力圏に組み入れ、偉大な「ロシア帝国」の再興を夢見ていると言われるプーチン氏だが、このまま不毛な戦争を続ければ、国力を消耗して衰退していくのは明らかで、本末転倒だ。
しかも最近は、ロシア侵攻部隊の死傷者数が増加しているにもかかわらず、進撃速度が目に見えて落ちていると分析されている。英エコノミスト誌は、現在の進撃速度では、ウクライナ全土の占領に100年以上かかると試算する。
果たしてこの危機を青息吐息のプーチン氏はどう切り抜けようとしているのか。

塹壕に身を隠しドローンを警戒しながら徹底抗戦の構えのウクライナ軍(写真:ウクライナ国防省ウェブサイトより)
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