絢爛豪華なペルシアの香り漂うイランの家庭料理 紳士に教わる「ザクロとクルミの煮込み」

イラスト・織田博子
マンガ家の織田博子です。25カ国を巡り、現地の家庭で料理を作って食べてきた体験をもとに、世界の料理と文化・人を紹介します。今回は、中東・イランの豪華な煮込みのお話です。
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クルミとザクロが料理に?

丁寧な手つきでフェセンジャンを作るアザルヌーシュさん
古くはペルシア帝国の中心だったイラン。シルクロードの交易で栄えた街があり、奈良の正倉院にもペルシア産のガラスなどが伝わる。栄華を極めたペルシア帝国の宮廷料理は、シルクロードを通じてさまざまな国に影響を与えている。

サフランライスと一緒に盛り付けたフェセンジャン。ライスの「おこげ」もごちそう
アザルヌーシュさんは、エレガントな雰囲気のあるおしゃれな男性。出会ったのはウズベキスタン大使館で、多言語を操り、コーカサス地方のダンスも踊る。そして日本でモデルもしている。いろんな顔があり、どの国の人か知らずにいた。料理も好きだというので、家庭料理を教えてもらうことになって初めてイラン出身だと聞いた。
モダンな家具と伝統的なペルシア絨毯(じゅうたん)が印象的なご自宅のキッチンで、「フェセンジャン」(ザクロとクルミの煮込み)を教わる。
イランのことを全く知らないし、味の想像もつかない。「イランのザクロの味は有名。おやつに食べるけど、料理にも使う」とアザルヌーシュさん。鶏肉は前の晩からザクロソースにつけてあった。サフランはお湯につけ香りを引き出す。「この香りがイラン料理ではとても大事」。材料にはクルミもある。クルミとザクロが入る料理? ますます味が想像できない。

干しブドウを炒めて具材に
タマネギと鶏肉を丁寧に炒め、サフランやクルミを入れて1時間ほどじっくりと煮込む。するとクルミからとろみが出てくるという。クルミの意外な使い方に驚く。その間、丁寧に混ぜたり、火加減を調整したり、細やかに料理をしていくアザルヌーシュさん。「料理は赤ちゃんと同じ、とお母さんが言っていました。目を離してはいけないと」
イランでは料理は女性の仕事とみなされているけれど、料理好きなアザルヌーシュさんは、よくお母さんを手伝っていたのだそう。
サフランライスの準備で干しブドウをオリーブオイルで炒める。クルミもザクロも干しブドウも、初めて見る調理方法だらけで、改めてイラン料理の奥深さを感じる。香りのよいジャスミンライス(長粒米)の炊き方も想像したのとは違って、たっぷりのお湯に生米を投入してゆでる。パスタのように。
米が浮いてきたら、一粒つまんでゆで具合を確認。中心部に髪一本分ほど乳白色が残るニーム・パズ(ペルシア語で、半分調理されている状態)だったら、炊きあがり。
お湯に浮かんだ米をざるに上げるとき、少し米がこぼれた。アザルヌーシュさんはそれをさっと拾ってざるに入れた。
実家は山岳地帯、羊とともにある暮らし
アザルヌーシュさんの実家はイラン北部の山岳地帯で羊飼いをしている。文化的にコーカサス地方と近いという。母語はペルシア語ではなく、テュルク語族のアゼリ語だという。アザルヌーシュさんがどこの国の人なのか分からなかった理由がここにある。イランという国と同じく、アザルヌーシュさんも多様な文化的な要素を持つ人だったのだ。日本でモデルもしているのは、「お父さんの影響。ファッションに関して美学を持っていた。いつもジャケットと帽子姿で、エレガントだった」から。
フェセンジャンは、炊き上がったサフランライスと一緒に、美しいペルシアの器に盛ってできあがり。さっそくいただく。
サフランの香りが最初に鼻孔をくすぐり、ザクロの酸味と肉のうまみの調和がとれた味わいに驚く。サフランで黄色く染まったジャスミンライスは香り高い。イラン料理を全く知らなかった私は、その完成度、芸術的なまでに香りがよくおいしいことに衝撃をうけた。ちなみに日本であめ色と表現する炒めたタマネギの色は、イランでは赤(ソルフ)と呼ぶそうだ。
食事する間、アザルヌーシュさんはちょっと恥ずかしそうに「さっき、お米がこぼれたときに、何も言わないでくれてありがとう。私はちょっと雑なんです」と笑った。丁寧で繊細な味わいは、ペルシア文化の珠玉。それでも、料理にどこか人間臭いところが出る。このフェセンジャンも、アザルヌーシュさんの人としての味わいがあるのだ。
フェセンジャン(ザクロとクルミの煮込み)のレシピ
材料(4人分)
鶏もも肉・・・400グラム
タマネギ・・・2個
クルミ・・・300グラム
りんごジュース・・・1½カップ
オリーブオイル・・・大さじ3
サフラン・・・小さじ1
ザクロペースト・・・大さじ6(主に通信販売で手に入ります)
◆トマトペースト・・・大さじ1
◆ターメリック・・・小さじ1
◆塩・・・小さじ1
◆コショウ・・・少々
作り方
1.(前日の下ごしらえ)鶏もも肉を一口大に切りザクロペースト大さじ2に一晩つけておく。
2.サフランをぬるま湯1カップにつけ、サフラン水を作る。
3.みじん切りにしたタマネギをオリーブオイルであめ色になるまで鍋で炒める。
4.③に砕いたクルミを加えて、5分間炒め、◆とザクロペースト大さじ2を加えて2分炒める。具がひたひたにつかるくらいの水を鍋に入れる。
5.別の鍋に油をひき、①の肉を炒める。
6.④の鍋にザクロペースト大さじ2、りんごジュース、⑤の肉、②のサフラン水大さじ2を入れ、時々混ぜながら1時間くらい弱火で煮込む。
サフランライス
材料(6人分)
イランのハーブセット・・・½カップ分
リーキ(西洋ネギ)、パセリ、ホウレンソウ、コリアンダー(葉)を、6:5:5:4の割合で合わせて束にする
ジャスミンライス・・・900グラム
干しブドウ・・・大さじ2
トルティーヤ(もしくは薄切りジャガイモ)・・・適量
ココナツオイル・・・大さじ2
オリーブオイル・・・適量
塩・・・小さじ1
ターメリック・・・小さじ3
クミン・・・小さじ1
コショウ・・・少々
サフラン水・・・フェセンジャンで使用した残りの分量
作り方
1.イランのハーブセットをぬるま湯に10分つけ、ざるに上げる。
2.干しブドウをオリーブオイルで炒める。
3.ジャスミンライスを鍋に入れ、かぶるくらいの水、塩、ターメリック、クミンを入れて30分ほどおいておく。
4.③を中火でゆでる。米が全て浮いたら炊き上がり。ざるに上げて、ハーブの2/3量を上にのせておく。
※米は、芯が髪一本分残るニーム・パズ状態でゆで上がり。
5.別の鍋にオリーブオイル、トルティーヤか薄切りジャガイモを敷く(おこげをつくるため)。④の米、②の干しブドウ、サフラン水、ココナツオイル、コショウを入れ、ふたをして30分弱火にかける。
7.鍋に皿をあて、ひっくり返して中身を皿に盛り付ける。(お好みで)取りおいておいたハーブを添える。
織田博子(おだ・ひろこ)
食を旅するイラストレーター、マンガ家。料理教室「世界家庭料理の旅」を主宰、3児の母。「世界の子育てくらべてみたら、心がふわっとラクになった」(WAVE出版)など著書多数。