冬季五輪で賛否「フィギュア偏重」なぜ起こる?

2月24日に行われた日本選手団の帰国記者会見で笑顔を見せる、フィギュアスケートペア・三浦璃来選手(手前左)と木原龍一選手(同右)の2人。間違いなく今大会の“主役”だったが……(写真:時事)
ミラノ・コルティナ冬季五輪の閉幕からまもなく1週間。2月24日には選手団が帰国してメダリストたちが会見を開き、現在までメディア出演が続いています。
【写真】「距離感が近すぎる」「ほっこりする」と話題…《りくりゅうペア》の“寝起き突撃”ショット
ただ、テレビもネットもその大半はフィギュアスケートの選手たち。主にペアで金メダルを獲得した三浦璃来・木原龍一組(以下、りくりゅうペア)、女子シングルで銅メダルを獲得した中井亜美選手の出演番組や記事が続出しています。
24日の帰国会見でも、最も多くのメダルを獲得したスノーボード選手には質問がなく、フィギュアスケート選手に集中したことが「失礼すぎる」「記者失格」などと批判を集めてしまいました。
なぜ、りくりゅうペアや中井選手などのフィギュアスケート選手ばかりフィーチャーされるのか。他競技のメダリストたちとどんな違いがあるのか。
これは高橋大輔さん、羽生結弦さん、浅田真央さんらの時代から続く現象だけに、テレビマン、ネットメディア編集者、スポーツ紙記者から聞いた声も含めて、その背景や実情を掘り下げていきます。
「ペア」にしかわからない“距離感”
ネットの検索窓に「りくりゅう」と入力すると予測変換ワードの上位3つは「付き合ってる」「オリンピック」「結婚」でした。
これで思い起こされるのは25日に行われた日本記者クラブでの会見。司会者から関係性を聞かれた三浦選手は「(兄妹や友人などを)超えているよね。一緒にいて当たり前。家族みたいな」、木原選手は「ケンカもしますし、あとはご想像におまかせします」と笑顔でコメントしました。
2人が最優先してきたのはフィギュアスケートのペアとしての関係性であって、見てほしいのはプライベートではなくそちらであることは明らかでしょう。ただ、フィギュアスケートの熱心なファン以外は「何であんなに息ピッタリなんだろう」「あんなに相手を信頼できるなんて凄い」などと感じるのも無理はありません。
テニス、バドミントン、卓球などのダブルスとはどこか違う……そんなフィギュアスケートのペアにしかわからないような距離感とその神秘性がりくりゅうペアへの関心につながっている感があります。

金メダル獲得後の取材の合間に仮眠をとっていた木原選手を起こしに行った三浦選手。「ほっこりする」「良い関係性」とのコメントが相次いだ(画像:三浦璃来公式Instagram @riku9111より)
この点をテレビ局のスポーツ部関係者に話を聞くと、「フィギュアスケートには独特の世界観がある」「選手もファンも他のスポーツとはちょっと違う」という言葉が返ってきました。それは何となく感じていたけど……という人もいるのではないでしょうか。
さらにそのテレビマンは「採点競技はたくさんあるけど、フィギュアスケートほど芸術性にスポットが当たるものはない」とも言っていました。
まずスリムなスタイルときらびやかな衣装という外見の華やかさだけをとっても他のスポーツにはないものであり、なめらかなスケーティングや豊かな表現力は「氷上のプリンス・プリンセス」などにたとえられます。
実際、競技会やアイスショーを観に行けば、まるでバレエ、オペラ、現代舞踊などの舞台芸術を彷彿させる世界観に魅了されて「ハマった」という人も少なくありません。特にアイスショーは生演奏を採り入れるなど芸術性をさらに一歩進めたものも多く、他のスポーツとは異なるムードを感じさせられます。
フィギュアは「感情移入のレベルが違う」理由
そんな他のスポーツにはない芸術性の高さや独特な世界観に魅了されたフィギュアスケートのファンは、スポーツ部やスポーツ紙の関係者に言わせれば「感情移入のレベルが違う」。
筆者自身も競技会場で泣いている観客を何度か見たことがありますし、制限や賛否こそあるものの、演技終了後にプレゼントや花束を投げ入れる姿は本気そのものでした。そんなファンもまたフィギュアスケートの独特な世界観を構成する要素の1つなのでしょう。
「感情移入のレベルが違う」のは、もちろん芸術性の高さだけが理由ではありません。まずフィギュアスケートをはじめるのも続けるのも多くの時間や金銭、覚悟やストイックさが必要であること。多くのスポーツのように誰でも気軽に楽しめるものではなく、選ばれた人や強い意思で続ける人のみが追求できるものと感じているファンは少なくありません。
あるテレビマンは「フィギュアスケートのファンはいい意味で、選手の成長や奮闘を見守るパトロンのような存在」と語っていました。

今大会で銅メダルを獲得した17歳の中井亜美選手。可愛らしい演技で観客を魅了した(写真:Jamie Squire/Getty Images)
採点競技ならではの「不条理さ」
筆者も以前フィギュアスケートの熱心なファングループに取材したことがありますが、驚かされたのは「日本にも海外にも、若手にもベテランにも推しの選手がいて、バックボーンや精神面の課題なども含めて追いかけている」という人の多さ。
“推し”の幅と人生そのものにも注目するという点は、これも他のスポーツにはあまり見られないものと感じたのです。
選手の演技にはそこに向かうまでの過程、人柄、生き様がにじみ出るほか、演技終了後に採点結果を待つキスアンドクライでの明暗も含め、物語性の高さは特筆もの。「各選手にストーリーがあるうえに、これほど笑顔や涙が見られるスポーツはない」と言っていいのかもしれません。
事実、ミラノ・コルティナ五輪でも、中井選手や坂本花織選手の涙や笑顔が感動を誘っていました。
もう1つ独特な世界観の理由としてあげられるのが、採点競技ならではのあいまいさが作用していること。
フィギュアスケートは誰の目にもわかる勝敗ではなく、そもそも1対1の対決ではない。演技内容を見ても選手によって追求するものが違うし、重要なのは誰かと戦うことよりも自分のベストを尽くすこと。
さらにそれを他者が採点し、選手は受け入れ、不服でも耐えるしかないという、ある意味での不条理さも、見る人々の感情移入を誘っています。
また、「ファンがそんな不条理さをフォローする」という構図もフィギュアスケートらしさの1つでしょう。
実際、今回のオリンピックでも、判断や採点に関するフォローの声がネット上に多数書き込まれていましたし、なかには不満や怒りをあらわにする人もいました。
まだまだ「シーズン」は続く
時に「スケオタ(スケートオタク)は怖い」などと言われがちですが、熱くなってコメントが長くなりやすく、しばしば言い争いが見られることも、フィギュアスケートを取り巻く現象の1つでしょう。
これはフィギュアスケートに限らず冬季五輪競技の多くに当てはまることですが、「選手は寡黙でストイックである一方、ファンは語り出したら止まらないほど熱い」という傾向が見られます。
なかでもフィギュアスケートは屋内競技でありながらシーズンスポーツでもあるなどの独特な立ち位置であり、オリンピックという大舞台で存在感が際立つのは当然なのかもしれません。
りくりゅうペアは連日テレビの情報番組に引っ張りだこのほか、早くも雑誌で特集が組まれ、表紙を飾っています。中井選手や坂本選手を追いかけるメディアも多く、競技以外の面でピックアップされるシーンが少なくありません。
今後も「フィギュアスケートの普及」はもちろん、りくりゅうペアにとっては「ペアの魅力を伝える」という大義もあるだけに、メディア出演は積極的に受けていくのでしょう。
ただ、現在はシーズンの真っ最中。大きな舞台としては3月24日からチェコで「ISU世界フィギュアスケート選手権大会2026」が控えています。
現状の出場予定は、女子シングルは坂本花織選手、中井亜美選手、千葉百音選手、男子シングルは鍵山優真選手、佐藤駿選手、三浦佳生選手、ペアは三浦璃来選手・木原龍一選手、長岡柚奈選手・森口澄士選手、アイスダンスは吉田唄菜選手・森田真沙也選手。
いずれもミラノ・コルティナ冬季五輪に出場した選手たちであり、4年に1度の大舞台が終了して緊張状態から解放された今、どんなパフォーマンスを見せるのか注目されるでしょう。
競技以外も注目されること必至
さらに4月には大阪と東京で国内外のメダリストなどが集うアイスショー「スターズ・オン・アイス2026」も予定されています。そのたびに彼らの演技だけでなく、表情や振る舞い、発言や服装、プライベートまでフィーチャーされるのではないでしょうか。
だからこそメディアにはアイドルのような扱いではなく、競技に最優先した報道を望みたいところ。同時にそれを見る私たちは瞬間的な関心ではなく、競技会の結果だけでなく、長い目でフィギュアスケートと選手たちを見ていきたいものです。