「本当にメチャクチャになりました」教育現場を破壊する「愛着障害」からどうすれば子どもを救えるか
「奇声を発する」「親・先生から逃げる」「知らない人の家についていく」「要求を聞いてやるとエスカレートする」……そんな行動に及ぶ「愛着障害」の子が増えている。なぜ、不可解な行動に走るのか。その原因となる「気持ち」と解決策を余すところなく書いた新刊『愛着障害スペクトラム こどもの気持ち&支援スキル大全』の著者、米澤好史氏が、愛着障害についてわかりやすく語ってくれた。2026年1月に急逝した第一人者の、おそらくは生前最後のインタビューを4回にわけてお届けする(第1回)。
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「どんな気持ち?」と聞いてはいけない
【原】今回のインタビューに向けて書籍『愛着障害スペクトラム』の校正刷りを拝見しましたが、もう「現場のあるある」が満載で、首がもげるんじゃないかというくらい、うなずきながら読みました。
本書は副題が『こどもの気持ち&支援スキル大全』となっています。この副題の通り、愛着障害や愛着の問題を抱える子どもの「気持ち」「内面」に多くのページが割かれていて、それが過去のどの著作にも見られない特徴になっていると思いました。
なぜこのようなかたちで「気持ち」に焦点を当てたかを教えてください。やっぱり、気持ちを理解するところから支援を始めないと、うまくいかないからでしょうか?

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【米澤】そうなんです。本の中でも書きましたが、愛着障害とは「感情発達の障害」なんです。お子さん自身も実は、自分の気持ちに気がついていない。そういうことが、いっぱいあるんですね。
そこで、お子さんに「どんな気持ちやった?」と聞いてしまわれる人がいるんですが、愛着障害では、これはタブーなんです。本人にもよくわかっていないことを、他人から尋ねられる。すると、嫌な気持ちがいっぱい出てきてしまいますよね。そのせいで子どもが暴れちゃった、なんてことが現場ではよく起こるんです。
気持ちがわからなければ対応できない
【米澤】愛着障害の子どもの支援では、「それをしちゃだめ」と止めるのもタブーです。止めようとすると、火に油を注いだように大暴れするケースがたくさんあるんです。
確かに、止めることで一時的にその行動をなくせる場合はあります。しかし、そのままでは「なぜ問題となった行動が起こっているのか」「どんな気持ちでその行動をやってしまったのか」ということはわかりません。
行動の原因である「子どもの気持ち」はわからない。でも止めることができた。そういう状態で次回以降も同じように止めて、子どもがその行動をしなくなるかというと、そんなことは絶対にありません。

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「この子は、なんでこんなことをしたんだろう」「どういう気持ちになってたから、こんなんしたんかな」そのことを、きちっとわかっている先生ほど、ご相談をいただいて話を聞いてみると、
「こんなことをやってみたら、これがうまくいきました」
「これはうまくいかなかったけど、こうやってみました」
と、具体的な実践の報告が必ず出てきます。
なぜそうなるかというと、その子の気持ちを把握し、原因をきちっと理解しようとする姿勢を持ってくださったから、なんですよね。
すべての障害・問題にかかわる法則
【米澤】ある意味では、子どもにかかわるすべての障害や問題がそうだといえますが、とくに愛着障害の場合は、気持ちがわからないと対応が見えてきません。しかし、先ほども申し上げた通り、子どもに気持ちを聞くのはタブーです。しかも聞いても出てきません。
ではどうすればいいか。「見える化」しておくと、支援の現場にいらっしゃる皆さんにはいいですよね。そこで漫画家の先生にお願いして、今回の企画を進めていただいたというわけです。
たとえば、「もしかして○○くんは、こういう気持ちであの行動をすることがあるんかな……」と考えながら今回の本を見ていただく。そうすると、描かれていたその気持ちが、「やっぱりあったわ」と感じるかもしれません。
あるいは、「あれ⁉ 待てよ。その気持ちもあるけど、こんな違う気持ちがあったんちゃうか?」って気づきやすくなりますよね。「あ、そういうことやったんや」というふうに、わかってくることもあるでしょう。すると関わり方にも工夫が出てきます。そういう効果を狙ってつくったのがこの本です。

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愛着障害の支援をするなかでは、うまくいかないこともたくさん起こりますが、子どもの気持ちに「気づく」きっかけにしていただいて、その子をいっそう理解し、その子に合った支援をする入口にしていただきたい。それがこの本の、一番のポイントかなあというふうに思っています。
付け加えておきますと、支援の方法なんかも漫画で表現してくださっているんで、さらにわかりやすくなってると思います。
【原】早くいろんな方に読んでいただきたいですね。私はベストセラー『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全』などの著書がある小嶋悠紀先生の弟子でして、小嶋先生と発達障害のお子さんの支援はいろいろやってきました。
なかには、発達障害の支援ではうまくいかない、というお子さんもいました。現場が本当にメチャクチャになる事態も経験しています。従来の支援ではうまくいかないケースが、最近は増えてきているのでしょうか。
キーパーソンから支援を「つなぐ」
【米澤】そうですね。私自身、長年支援をしてきて、うまくいかなかった事例は、以前はもうたくさん経験してきました。そこをふまえて、あらためて愛着障害の支援がうまくいってるケースを振り返ってみると、うまくいく理由の1つはキーパーソンにあることがわかります。
愛着障害では「感情の発達支援」をしなければいけません。しかし感情の発達支援をするときに、「みんなで」していくやり方は、まずうまくいきません。キーパーソンとの間で、その関係性を軸にして、あるいは土台にして、感情を育んでいく。これが愛着障害における支援の鉄則です。そのことはどのケースでも確認してきたところです。

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難しいのは、キーパーソンがしっかり支援をやってくださって、関係性をつくっても、その人がたとえば転勤していなくなってしまうことがあるんです。その後、新しい先生が子どもと関わろうとしていろいろやってみると、最初の「問題だらけ」の頃に戻ってしまう。あるいは、もっと悪くなる。そんな事情から、一度ご相談を受けた後、改めて相談をいただいたケースもたくさん経験しました。
ですので私は、「現場ではキーパーソンをきちんと受け渡して、支援を繋いでいかなければいけません」といつもお願いしています。そうやって確実に繋ぎながら続けられると、その子の予後、あるいは将来は、まさに明るいものとなります。これもまた、どのケースでも確認してきたところです。
1年担任するだけで回復させられる
【米澤】ここでひとつ例を挙げましょう。ある小学校4年生のお子さん(Aくんとします)でしたけれども、その担任の先生は本当に優秀で、教科教育ではまさにプロ、本もたくさん書いている方でした。
ところがその方が、Aくんと向き合ってとても苦労されていた。そしてあるとき、「どういう対応をしたらいいんですか」と、私のところに直接出向いてご相談いただいたというケースがありました。
私自身もその子と関わりまして、そのうえで先生にはこうお伝えしました。
「先生、この子は生まれてから小学4年生になるまで9年以上、嫌な経験をいっぱいしてきたかもしれません。でも、その9年をとり戻すのには、9年もかかりませんよ。先生が1年間担任していただくだけで、十分取り戻すことができます」
教科指導をきちっとやってくださる先生は、さまざまなかたちで子どもに寄り添って、いい支援をしてくださるケースが多いんです。この先生もそうでした。キーパーソンとしていろいろやってくださって、そしてAくんが5年生にあがるときには、5年生の先生と一緒にまた相談に来てくださって。そして私自身がそこで、今回の本にも詳しく載っている「受け渡しの儀式」という支援をやったんです。

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その儀式をすることで、「キーパーソンが変わっても同じだよ」ということが子どもにもわかると、Aくんのような子も、愛着障害でよくあるような「試し行動」なんか全然しなくなります。
“イチからスタート”じゃなくて、前任の先生が積み上げてくださったものを引き継いでいく。そのことを意識できたAくんの小学5年時点での先生は、早くも1学期からきちっと関わることができていました。これはひとつ、わかりやすい予後ですね。
すなわち、キーパーソンからキーパーソンへ、上手に繋ぐことができたら、支援はうまくいくわけです。中学校から高校へ、高校から社会へ、あるいは大学へ。そんなふうに「つなげていく」ことを、私は大事にしてきたました。予後をよくするための一番大事なポイントかな、と思います。
*この記事は米澤氏の生前、2025年12月に収録したインタビューを編集部がまとめました。
後編記事『なぜ子どもと「お出かけ」すると愛着障害が悪化するのか…第一人者が解明した親の「埋め合わせ」に潜む意外なリスク』へ続く。
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