放置竹林問題に一手「国産メンマ」の逆転戦略

竹は生活に身近な存在, 純国産メンマプロジェクトが始動, 広がっていくメンマづくりの輪, ノウハウを伝授し地域の課題解決にも, 業界のリーディングカンパニーも動く, メンマが脚光を浴びる未来へ

伐採した幼竹を並べているところ。ここから節などを切り取り、食べられるところだけを茹でる(写真:ハマチクラボ提供)

獣害や景観、防災の観点から問題視されているのが放置された「竹林」だ。対策が急がれるが、竹は生命力が強く、手入れには人手と継続が要る。そこで注目されているのが、ラーメンの名脇役・メンマ。メンマの原料は竹。竹を食材に変えることで、竹林整備を“負担”から“価値”へ転換しようという動きが、各地で広がり始めている。中川寛子さんがその取り組みを取材した。

ラーメンの具材といえば地味ながら忘れてはならないのがメンマである。

【写真】おつまみに!横浜で作られたクラフトメンマは「ハマのメンマ」

もともとは台湾で生産されていた保存食「タケノコ干(スンガン)」が明治時代に日本に到来。煮込んで食べる本国とは違う、ラーメンに載せるという食べ方で日本に定着したもので、現在も国内で消費されるメンマの99%は輸入品とされる。

ところがここ10年ほどで国産品が登場。全国各地で作られるようになった。しかも、国産メンマは日本の社会問題の解決のために生み出されたという。

竹は生活に身近な存在

奈良時代の竹製品が正倉院にあることから分かるように日本では古くから竹を身近な資源としてカゴやすだれ、そのほかの日用品、建材、造園用資材や茶道具、竹刀、釣り竿などとして使ってきた。江戸時代に中国から孟宗竹が伝来すると食用、園芸用として広まった。

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かつては住宅の壁を作る時にも地域によっては竹が使われていた。竹小舞と呼ばれ、この上に壁土を塗っていく(写真:筆者撮影)

だが、昭和40年代に日本各地で真竹が一斉開花、枯死するという現象が発生。竹は120年(!)に一度花をつけ、その後に枯れるとされており、それが実際に出現したのである。

時期はおりしも高度経済成長期真っただ中。竹の大量枯死でそもそも増え始めていたプラスチック製品の需要が一気に伸長。結果的には竹製品の多くがプラスチックなど他素材に代替されることになった。竹材の需要が霧散したのである。

加えてタケノコも昭和30年代半ばにはほとんどなかった輸入品が徐々に増加、平成20年代には国産は2割以下になっている。

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タケノコの生産量と輸入量の推移(画像:「竹の利活用促進に向けて」林野庁、平成30年10月より)

掘った経験のある方ならご存じだろうが、タケノコは旬の時期には毎日のように出てきて、あっという間に成長する。おいしい時期に掘るにはタイミングが難しい。

傾斜地で早朝から傷つけないように掘り出し、運ぶのは重労働。しかも、タケノコの季節は農作業の繁忙期とも重なる。高齢化が進む農山村でタケノコが掘られなくなり、竹林が放置されるのは仕方ないところもある。

だが、放置された竹林は猪などの害獣のエサ場や隠れ場所となり、近隣の農作物被害に繋がる可能性があるうえ、土砂災害を引き起こす危険性もある。獣害、土砂災害とも近年、頻発・激甚化していて、それを考えると放置竹林対策の必要性は年々増しているのである。

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放置された竹林内では枯れた竹が倒壊するなどで徐々に人が入れなくなってしまい、整備を妨げることに(写真:ハマチクラボ提供)

純国産メンマプロジェクトが始動

そこで行政を含め、全国各地で放置竹林に立ち向かう活動が続いているのだが、そのひとつに「おいしく食べて竹林整備」を掲げる「純国産メンマプロジェクト」(以下プロジェクト)がある。

メンマはラーメンに欠かせない具材のひとつだが、本場台湾でメンマに使うのは麻竹で、日本の孟宗竹、真竹などとは異なる種類。そのため、長らく日本の竹ではメンマは作れないとされてきたのだが、製法を少し変えることで独特の歯ごたえのある、メンマ以外にも使える食材を生み出した人がいる。

「竹は生命力が強く、伐採しても次々生えてきて、やってもやってもきりがない。その無力感を克服し、放置竹林問題を解決しようと福岡県糸島市の日高榮治さんが孟宗竹からメンマを作ることに成功。

2017年にプロジェクトが始まり、活動は徐々に全国に広まって2026年時点では41都道府県、個人も含め196団体が活動に参加。昨年は全国で76トンのメンマを製造しました」と一般社団法人横浜竹林研究所(以下ハマチクラボ)の小林隆志さん。

小林さんはコロナ時に食品メーカーに勤めながら、シェアカフェを週1回営業し始めたのだが、そのメニューの中に「メンマまぜそば」がある。母がかつて経営し、20年以上前に閉店した総菜店の看板メニューに自家製メンマがあり、小林さんはその味を自分の店で再現し、人気メニューとなっていたのだ。

広がっていくメンマづくりの輪

そんな中で小林さんはプロジェクトの存在を知り、2021年に静岡県裾野市で行われたプロジェクト主催の「純国産メンマサミット」に参加。知り合った仲間から購入した国産メンマの塩漬けからメンマを作ったところ、それが非常においしかった。

素材としての可能性を感じていたところに現在一緒にハマチクラボで活動している山本ルリさんの来訪を受けた。

山本さんは横浜で不動産活用の仕事をしており、付き合いのある地主さんたちから竹林問題の相談を受けていた。タケノコを掘っても掘っても追い付かず、敷地内で竹林がどんどん広がっていく。どうしたらいいのかというのである。

相談を受けた山本さんは2023年2月に日高さんを訪ね、国産メンマの作り方を教えてもらった。日高さんは製造プロセスを公開、惜しみなくノウハウを教えているのだ。

「作り方は分かったものの、問題は味付け。誰か、そこを手伝ってくれる人をと探したところ、シェアキッチンでメンマまぜそばを作っている人がいると聞き、小林さんを訪ねました。

するとすでにプロジェクトのメンバーだという。では一緒に活動しましょう、とハマチクラボを立ち上げ、2023年12月に法人を設立。もう一人、横浜でエリアリノベーションをしている建築家の若林拓哉さんと3人で活動を始めました」と山本さん。

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ハマチクラボの3人。左から山本さん、小林さん、若林さん(写真:筆者撮影)

あっという間の進展だが、それができるところにプロジェクトの真髄がある。道具や資金、経験が少なくて済み、誰でも始められるのだ。

プロジェクトで使う竹はタケノコ以上青竹未満、2mくらいまでのまだ皮がついた状態の幼竹。タケノコが2週間ほどで一気に出てくるのに対し、竹が育ちきるまでの1カ月ほどで伐採できれば加工できる。

タケノコのように腰をかがめ、傷つけないように気を使って掘る必要はなく、竹のように固くないのでばっさばっさと切れる。

加工時も丁寧に切る必要はないので、刃物の扱いに注意すれば子どもでも参加できる。加工も茹で、塩漬けにするだけなので、大きな鍋はいるが、必要なのはその程度。

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伐採した幼竹を加工する。この状態までの竹は柔らかく、まるで洋梨のようにサクサク切れて楽しいそうだ(写真:ハマチクラボ提供)

塩漬けしておけば2年ほどは保存できる。タケノコを掘るよりも、成長した竹を伐採するよりも簡単かつ効率的に竹林整備が行え、そのうえおいしいメンマに生まれ変わるのである。

ノウハウを伝授し地域の課題解決にも

ハマチクラボでは個人から始まり、自治会、まちづくり団体、公園の管理者、神奈川県の土木部署などから相談を受け、伐採からメンマ作成、場合によっては竹炭に加工するなど竹活用のノウハウを伝授している。

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竹炭づくり(写真:ハマチクラボ提供)

だが、単に作り方を教えているだけではないのがポイント。

「たとえば公園愛護会ではボランティアの高齢化、今後の担い手不足という問題を抱えていました。そこで自治会や地域の人を巻き込んでメンマを作り、夏祭りで販売して祭りに集まった人にアピール。

後日竹林整備サポーターを募集、イベントなどで一緒にやりましょうと呼びかけることでご近所の人たちが公園に関わりやすい流れを作りました。メンマという身近な食べ物を入口にすることで竹林だけでなく、地元の課題解決にもアプローチできる。やり方は地域ごと、課題の内容ごとに変えて取り組んでいます」と小林さん。

メンマ作りは放置竹林問題の解決策だが、活動の目的ではなく、それ以上に手段。建築家の若林さんが参画しているのも、コミュニティ作りや活動を伝えるためのデザインを担当するため。

今ではハマチクラボのやり方が広まり、神奈川県内だけでなく、首都圏のあちこちの自治体などからも放置竹林+αの相談、依頼があるという。 

せっかく作るならそれを地域の名産にしようと「ハマのメンマ」というネーミングでクラフトメンマ作りも行っている。

横浜市18区でオリジナルを作ろうと、現在は当初から作っているオリジナルに加え、金沢区の八味辣油味、都筑区の椎茸トマト味が誕生。椎茸トマト味はワインに合うメンマとか。現在は穂先メンマの試作を続けている。

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手前から「ハマのメンマ オリジナル」、ブラックペッパーを効かせたフラッグシップ商品。隣が「ハマのメンマ 八味辣油味」。横浜18区メンマ第一弾で金沢区の地産地消商品「金澤八味唐辛子」とのコラボ。一番奥の「ハマのメンマ 穂先」は現在開発中の穂先メンマを使ったもの。酒のつまみにしたらついつい手を出してしまいそうな品だった(写真:筆者撮影)

「国産メンマはラーメン以外でも使え、前回サミットでレシピを募集したところ、47種類が集まり、中にはスイーツも。

プロジェクトでは『竹菜』として商標登録を行い、今後はラーメン以外の食べ方を広げていこうと考えています。厄介者を所有する竹林所有者の罪悪感を軽減、価値の提供者に変え、竹林を農場にしていければと思います」(小林さん)

地域だけでなく、今後は百貨店や外食企業などとも連携、2027年には横浜市で純国産メンマサミットを誘致する予定もある。

業界のリーディングカンパニーも動く

ハマチクラボ以外にも国産メンマ作りに取り組む活動は全国に多数あり、ここではもうひとつ、メンマの名付け親で、業界のリーディングカンパニーである丸松物産の例を紹介しておこう。

日本に到来した初期、メンマは中国から来た竹という意味でシナチクと呼ばれていたが、戦後になり、その言い方は侮蔑的という声があがった。そこで同社の松村秋水さんが麺の上に載せる麻竹だからとメンマと名付けたという。

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丸松物産で販売している国産メンマ2種類。これ以外に料理の素材として使えるように水煮した商品もある(写真:筆者撮影)

同社では年間4万~5万トンのメンマ消費量の3分の1ほどを扱っており、台湾、中国、ベトナムで収穫からボイル、発酵、乾燥などの工程を行い、日本で製品化、販売している。

その一方でプロジェクトにも関心を持ち、プロジェクト発足の1年後くらいから自分たちでも作り始めた、と同社の代表取締役社長の松村大輔さん。

「放置竹林という課題を食べて解決という心意気に感銘を受けて作り始めました。最初は台湾同様に蒸し煮して発酵、乾燥させるという工程にこだわったのですが、日本でそのやり方で作ると輸入品の5~6倍の価格になってしまう。

この活動はまず知っていただくことが大事なのに、手の出ない価格になっては意味がない。プロとしてのこだわりを捨てるまでに時間がかかりましたが、それを越え、22年からは製品化、販売しています」

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丸松物産の松村さん。台湾のメンマは茹でてから発酵させることで独特の風味を持つようになる(写真:筆者撮影)

それでも価格は輸入品の3倍ほど。利益を生んでいるわけではない。だが、各地域、個人で作るのもいいが、より幅広い人たちに国産メンマの存在を知ってもらいたい。それが同社が国産メンマを作り続けている理由だ。

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丸松物産の国産メンマの袋の裏側には国産メンマプロジェクトの説明が書かれている(写真:筆者撮影)

「加えて乳酸発酵しているメンマと違い、国産メンマは独特の香りがなく、タケノコに近いしゃきしゃきした食感があって食べやすく、他の料理にも展開しやすい。食育の一環として小学校などに呼ばれることもあり、背景も含めて選んでいただければと考えています」(松村さん)

メンマが脚光を浴びる未来へ

ところで日本の年間メンマ消費量は4万~5万トンというが、1杯のラーメンに載っているのは3~4本、10グラムくらい。となると日本人はどれだけラーメンを食べているのだろう。

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昭和2年創業の秩父市・パリー食堂のラーメン。同店の開業時にはメンマではなく、シナチクと呼ばれていたはずだ(写真:筆者撮影)

しかも丸松物産ではナショナルブランドで50種類、プライベートブランドで150種類、合計約200種類(!)ものメンマを製造している。

わざわざ自店のラーメンのためにメンマを作ってもらっているわけだから、どの店もメンマにこだわりがあると思われるが、その割にはラーメンの評でメンマが取り上げられていることは少ない。

だが、今後、あちこちの地域産のメンマが台頭。ラーメン店店頭で「今日のメンマは横浜産です」などと書かれるようになったらメンマの消費量も増えそうな気がするが、どうだろう。メンマで選ぶ、メンマが選べる本日の一杯なんて面白そうではないか。

参考資料 林野庁「竹の利活用推進に向けて 」(平成30年)https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take-riyou/attach/pdf/index-3.pdf