岡部たかしがささやいた英語の愛の台詞、池脇千鶴演じる妻の意外な反応〈ばけばけ第106回〉

『ばけばけ』第106回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第106回(2026年3月2日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

裕福な奥様同士のお茶会

 トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)、呪われたかと心配したが、第22週「アタラシ、ノ、ジンセイ。」(演出:小林直毅)は何事もなかったようにヘブン(トミー・バストウ)から英語を習っている。

 呪いではなく、ふたりの人生の転機が描かれそうだ。

 今後のためにヘブンから英語のレッスンを受けているトキだが相変わらずなんだかおぼつかない。

 ヘブンは根気よく教え続ける。

「アメリカ 船で2週間かかりました」という英語をヘブンは「こういう英語を教えていこう。いつか使えるかもしれない」とひとり言。

 トキに「アメリカ行く したいですか」と聞くが、速攻「ノーです」。

「言葉もわからんし、訳もわからんし怖いですけん」

「でもあなた 怖い 好き」

「そげですが あげな怖さとそげな怖さは違いますけん」

 怪談の怖さと異国の怖さはトキにとっては違う。

 ヘブンは「ゴーストがいる。アメリカに幽霊がいる」とトキの気を引こうとする。トキは一瞬興味を持ったものの、すぐに眠気が襲ってきて大あくび。アメリカ行きの話は打ち切られる。

 主題歌明け、トキはラン(蓮佛美沙子)の家にいて、お菓子に舌鼓を打っている。

 ランは西洋人と結婚している友達として仲良くしようとトキにほほ笑む。

 お金持ち同士の友人関係。きれいな服(着物)を着て素敵なおうちで優雅にお茶しながらおしゃべり。これはトキには新鮮だろう。

 ランとロバート(ジョー・トレメイン)は東京のダンスパーティーで知り合った。

 トキとヘブンはそんな洒落(しゃれ)た感じではない。怪談がなれ初めのようなもの。

 トキが怪談好きと聞いて、ランは「私も――」と目を輝かせる。

ヘブン、フィリピン滞在記に思いをはせる

 ランもかいだん好きという。まさかかいだん好きがこんなところにいたとは。

「牡丹燈籠(ぼたんどうろう)ですか、四谷怪談ですか」

 と食いつくトキに、ランが答えたのは

「私は螺旋(らせん)階段」

 とんだ“かいだん”違いである。

 でも螺旋階段はぐるぐる渦を巻いて、ちょっと怪奇的な風情はある。例えば、伊藤潤二の漫画『うずまき』とか螺旋階段的ともいえる(当時はまだ存在していません)。

 ランは、螺旋階段は素敵(すてき)だから「もしどこかで見つけたら上がるか下がるかしてみて」「レッツトライ」とトキにおすすめする。なんなんだこの会話。階段好きとはあまりにもニッチだろう。この手の話をさらりと出してさらりと終わらせ、笑っていいのかよくわからないのが『ばけばけ』。

 話は変わって、トキはランに英語を書いて覚えたと教えてもらう。

 場面が変わって、ヘブン宅。トキは丈(杉田雷麟)と正木(日高由起刀)にも英語のレッスンを受けている。

 ヘブンは隣の部屋で書き物中。

 そこにまたイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)から手紙が到着。今度は『フィリピン滞在記』企画の提案だった。報酬のほかに渡航費と2年分の滞在費を出してくれるという高待遇で、フィリピンのエキゾチックな絵はがきが同封されていた。

 心引かれるヘブン。

 ひとりなら絶対に行く。でも……。

 学校でロバートに話すと、彼はフィリピン行きをお勧めする。

「すぐにでもそれは行くべきだよ。ただの英語教師の私ですら気づいている 日本にいても、もう書くものを見つけられない」「滞在記に書いてある日本はまるで奇跡だ」と。

 作山(橋本淳)も「この先、日本では古き良きものを見いだすのは困難であろう」と言う。なかなか意味深である。日本はどんどん西洋の影響を受けて近代化しているのだ。

「フィリピンへ行きなよ」

 ロバートに何度もそう言われ、影響されたヘブン。トキの英語の練習に「フィリピン」のワードを盛り込む。

「初めてフィリピンに来ました」「フィリピンは良いところです」

「I want to be with you」

「フィリピン」のサブリミナル。トキを洗脳しているようなものではないか。ヘブンってこんな卑怯(ひきょう)な人だったのか。

 でもトキは理解できないし、うまく言えない。

 ヘブンはちょっといらいらする。ヘブンは“いらち”だと思う。

 でもようやく「素晴らしい なめらか」と褒めることができた。

 トキは「I want to be with you」(あなたとずっと一緒にいたい)というフレーズはすらすら言えた。

 言葉の意味を知った司之介(岡部たかし)がフミ(池脇千鶴)にささやくと、フミはばっさり打ち捨てた。冷めた妻である。

 ヘブンはトキを外国に連れていきたい。トキはヘブンとずっと一緒にいたい。でも外国には行きたくない。トキとヘブン、ふたりの思いがすれ違う。

 トキは「I want to be with you」以外はうまく聞き取りも発音もできないので、ヘブンは今日のレッスンを終わりにし、「そしていつかフィリピンへ行きましょう」とまた小さくひとり言。

 ヘブンってこんな卑怯な人だったのか。ただ、異国の文化への思い入れだけは変わっていない。

 すっかりフィリピンに行く気になっている。未知なるフィリピンには作家としてのモチベーションがわくのだろう。

 何も知らないトキは無邪気に英語のレッスンをがんばっている。

「I want to be with you」とヘブンに唯一褒められた言葉をリフレインしているところが健気(けなげ)だ。

 この言葉どおりとしたら、トキがフィリピンでもどこでも一緒に行くべきなのか、それともヘブンに日本にいてと懇願するのか、どっちの希望が優先されるだろうか。

フォトギャラリー

主なシーンより

第22週(3月2日~3月6日)

「アタラシ、ノ、ジンセイ。」あらすじ

トキ(高石あかり)は熊本でラン(蓮佛美沙子)と出会い、交流を深める。ヘブン(トミー・バストウ)と同じく西洋人の夫ロバート(ジョー・トレメイン)をもつラン。英語もできるランをトキは慕っていく。そんなある日、ヘブンの元に一通の手紙がアメリカから届く。その差出人はイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)だった。日本を離れ、世界を巡って各地の滞在記を書いてほしいという依頼に、ヘブンは魅力を感じる。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / シャーロット・ケイト・フォックス 大西信満 夙川アトム ジョー・トレメイン 原ふき子 橋本淳 杉田雷麟 日高由起刀 夏目透羽 / 渡辺江里子 木村美穂 / 蓮佛美沙子 / 岡部たかし 池脇千鶴 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始