トークンだけじゃない高市首相の「致命的な死角」

衆院予算委員会で挙手する高市早苗首相。その笑顔はいつまで持続できるか(写真:時事)

2月8日に投開票された衆議院選挙で自民党が316議席を獲得したのは、「サナエ効果」の賜物だろう。首相に就任して5カ月を超え、「ハネムーン期間」も終わったというのに、高市早苗首相の人気は衰える様子を見せない。

【写真あり】現在は削除済み、高市事務所の後援会アカウントが「SANAE TOKEN」に対してリポストした内容とは?

例えば2月18日と19日に行われた読売新聞の調査では内閣支持率は73%と、衆院選直後の調査より6ポイントも上昇した。それにつられたのか、自民党の政党支持率も43%と、派閥の政治資金裏金問題が発覚する以前の水準に戻っている。

SNSで議論が盛り上がった「SANAE TOKEN」

一方で、危なっかしさも散見される。

高市人気にあやかろうとしたのか、2月25日に「SANAE TOKEN(サナエトークン)」という名の暗号資産(仮想通貨)が発行された。高市事務所の後援会アカウント「【公認】チームサナエが日本を変える」は同日、X(旧ツイッター)で「この取り組みに共感し、(中略)共に日本の明るい未来を紡いでいきたい」と投稿したが、高市首相は3月2日に自身のXで「本件について我々が何らかの承認を与えさせて頂いたこともございません」と説明。後援会アカウントも3日になって投稿を削除する事態となった。

現在は削除された「SANAE TOKEN」に対する後援会アカウントのリポスト(写真:「【公認】チームサナエが日本を変える」のXより)

「サナエトークン」をめぐる一連の動きはSNSを中心にネット上で盛んに議論されており、目にした人も少なくないだろう。だが一方で、同時並行的に別の危うさを露呈させていた。

高市首相は2月28日、石川県知事選の応援のために午後4時53分羽田発の日本航空189便に乗り込んだ。ロイターはすでに午後4時に「米・イスラエルがイランに大規模攻撃、体制転換視野に最高指導者も標的」と報じていた。

高市首相は金沢市内の講演で、「イランで大変なことが起こっている。それで飛行機に乗ろうかどうか、だいぶ迷った」と発言。その判断に野党側から「首相の責任より政治活動を優先した」と批判された。

もっとも、高市首相は金沢市内の演説会場で「かなり前からさまざまな動きを、情報を見ながら、イランにお住まいの邦人の皆様に早めに国外に退避していただく対応を続けていた。この後、危機管理、万全の体制を整えていく」と説明。国家安全保障会議は高市首相の帰京を待って、同日午後10時45分に開催された。

イランには約200人、イスラエルには1000人の邦人が滞在しているが、現在のところ負傷者が出たとの情報はない。しかし、2月23日にはNHKのテヘラン支局長が拘束され、政治犯らを対象とするエビン刑務所に収監されたとの報道がある。イラン攻撃は日本にとって対岸の火事ではなく、まさに国民の生存権の問題となっている。

森元首相を追い詰めた「危機管理事案」

同様の事態で想起されるのが森喜朗元首相だ。森元首相は2000年5月15日の神道政治連盟国会議員懇話会で行った「神の国発言」で、支持率を急落させた。そして同年6月の衆院選では「無党派層は寝ていてほしい」と述べ、自民党は38議席も減らすことになった。

森政権に致命傷を与えたのは、01年2月10日に発生した「えひめ丸事故」だった。ハワイのオアフ沖で愛媛県宇和島水産高校の漁業練習船「えひめ丸」に、急浮上してきたアメリカの潜水艦が激突。生徒ら9人が死亡した。

「えひめ丸」と原子力潜水艦「グリーンビル」の衝突事故で、対策を協議する(左から)福田康夫官房長官、森喜朗首相、河野洋平外相ら。右端は当時の安倍晋三官房副長官(写真:時事)

このとき、森首相(当時)は休暇をとってゴルフをしていた。事故の第一報を聞いたが、そのままゴルフを続けたことが危機管理意識の欠如とされ、首相辞任を余儀なくされた。後に森元首相は「秘書官から様子を見るから、そちらにいてくれと言われた」と明かしたが、判断するのは首相本人だ。

高市首相のこれまでを振り返ると、危うさと隣り合わせの状況がよくわかる。経済安全保障担当相時代の23年3月15日の参院予算委員会では、野党から放送法をめぐる質問に対して、高市首相は「私の答弁を信用できないのなら、もう質問しないでください」と発言。20日には末松信介参院予算委員長(当時・自民党)からの注意を受け、発言を撤回した。しかし、首相となると、ちょっとした発言でも足元をすくわれかねない。

昨年11月7日の衆院予算委員会では、立憲民主党の岡田克也議員から存立危機事態についての質問に対し、高市首相は「戦艦を使って、それも武力の行使を含むものであれば、どう考えても存立危機事態になる」と、本来は抑止的だった従来の政府見解を踏み越えた。これにより日中関係は悪化し、中国政府は11月14日に日本への渡航自粛を要請。今年1月6日には、軍民両用(デュアルユース)製品の輸出管理強化を発表した。

高市首相はこの日の午前3時に宿舎を出発し、公邸に入った。6時間後に始まる衆院予算委員会に備え、万全の準備をするためだった。総裁選で勝利した直後に述べた「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」をアピールするチャンスでもあった。

そして日本のために身を粉にして国政に邁進する女性首相と、その足を引っ張ろうとする野党の大物議員という「構図」が作られ、岡田氏は2月の衆院選で落選。現行の小選挙区比例代表並立制が導入された1996年以降、守り続けた衆院三重3区で初めて得票数が10万票を割った。

選挙戦の2月1日には、各党党首がそろったNHK「日曜討論」をドタキャンしたことも話題となった。遊説中に腕を傷め、医務官から治療を受けていたのがその理由だったが、高市首相はその日の午後に愛知県と岐阜県での自民党候補の応援に駆けつけている。

前日には川崎市での応援で高市首相から「円安でホクホク状態」発言が飛び出し、波紋が広がっていた。また、れいわ新選組の大石晃子氏から、日曜討論で旧統一教会との関係を追及されるのを逃げたのではないかとも言われた。

全大臣出席でがっちりディフェンス

3月2日まで行われた衆院予算委員会の基本的質疑には全大臣が出席し、高市首相に質問が集中することを防ぐフォーメーションを敷いた(写真:時事)

選挙戦ではこれらは大きなミスにはならず、かえって高市人気を高める話題となったが、自民党は高市首相を守るフォーメーションを組みつつある。その一例が、2月28日から3月2日まで3日間にわたって行われた衆院予算委員会の基本的質疑だ。

基本的質疑はこれまで全大臣が出席してきたが、昨年6月に与党側からの要望で、首相と財務相以外の出席は「要求大臣」のみとされた。ところが今国会では、全大臣が参加。その理由は「高市首相に質問が集中することを防ぐため」だという。

神は細部に宿るというが、危機管理は結果オーライで果たせるものではなく、万全の体制を築くことが必要だ。高市首相に対するそうした期待が、高い内閣支持率として表れている。

北条早雲の嫡男で関東で勢力圏を広げ、北条氏の基礎を盤石にした氏綱は「勝って兜の緒を締めよ」の遺訓で知られる。衆院選で大勝した今こそ、高市首相は多数の当選者を出したことにおごることなく、しっかりとした政権の地盤を固めるための正しい選択眼を首相周辺も含めて持つことが必要ではないか。