紗倉まな「産む気がないんですね」という問いへの答え 妊娠・出産をめぐる物語を執筆

 10代でデビューして以来、長く第一線を走り続けてきた紗倉まなさん(32)。AV女優として知られる一方、2016年には小説『最低。』で作家としての活動をスタートした。作家デビュー10周年の節目に届けた新作は、「妊娠・出産」をめぐる女性たちの物語。社会制度が整い、医療技術が進歩したからこそ悩むことが増えた昨今。紗倉さん自身が考える妊娠・出産への価値観と最新作で描きたかった思いを聞いた。

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ーーメイクアップアーティストの主人公・由良が親友の妊娠をきっかけに、これまで意識していなかった感情に直面する。AV女優で作家の紗倉まなさん(32)は、最新作『あの子のかわり』で、祝福でも羨望でもない、“産む性”である女性が持つ揺らぎを描いた。

 25歳を過ぎたころから、「結婚する気はあるのか」「子どもはどうするのか」とぶしつけに聞かれることが多くなりました。その度に漠然と考えてはいたものの、身近な課題としては捉えていませんでした。それから30代に入り、親しい友人や知り合いが出産したと聞くことが増えてきました。私のなかで、出産を消極的に考えていたわけではありません。ただ、妊娠可能年齢までのカウントダウンが始まったことで、「産む・産まない」を早めに選択しなければいけないと考えるようになりました。

ーー出産を自分事として捉えるようになり、新たな悩みが生まれた。この先、果たして自分は「出産」を選択するのだろうか。仮に産まない選択をしたならば、他の人が納得する説明をしなければいけないのではないか。思考をめぐらせた。

 小説として妊娠・出産を描くことで、私と重ねて読む方もいらっしゃるだろうなとは思います。特に主人公の由良は自分と年齢も近く、犬を迎え入れているところも同じ。その暮らしぶりから、「紗倉まなも産む気がないんですね」と解釈付けられるかもしれません。ただ、私としては、これまで良くも悪くも様々な感情で向き合ってきた妊娠・出産にまつわる蓄積を物語として消化できてほっとしています。

ーー2月20日、高市早苗首相が施政方針演説の中で「プレコンセプションケア(プレコン)」の推進を打ち出した。プレコンとは、性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、健康管理を行うよう促すことを指す。こうした社会の変化をどう受け止めているのか。

 周りにも、「いつか産みたくなるかもしれないから」と卵子凍結した女性がいます。一方で、様々な選択肢を提示されるほどに、自分がどうありたいのかがわかりにくくなっているとも感じています。「産まない」という選択をしたことで、将来絶対に後悔しないかと問われても、先のことはわからない。逆に出産して育てるとなれば、少なからず何かを犠牲にしなければいけない場面もあるだろうし、仕事との両立を現実的に考えると、ハードルの高さを感じる瞬間もあります。

 社会制度が整うことで救われる方もたくさんいると思いますが、その動きが盛んであるほどに、「自分はこの選択を取らなくていいのか」と悩む機会も増えたのではないでしょうか。

ーー紗倉さん自身も、これまでの人生で様々な選択をしてきた。

 振り返ると、私の場合は直感でひらめいた答えにたどりつくことばかりでした。だから、何かを選ぶときは最初の感情を大事にするようにしています。

 産む・産まない問題にしても、私はずっと「産む選択」を選ばないだろうなと思って生きてきました。小学生のころに友達が、「将来の夢はお母さん」と言っていることがずっと不思議だったんです。高校生になって、ギャルの女の子がそう言っているのを聞いたときも、その頃と変わらず不思議に思ってしまって。大人になったら自分もそう思うのだろうかと考えたこともありますが、変わりませんでした。

 最初の直感というのは、いろんな視点から何度考えても変わらない。自分の頑固さに気づき始めてからは、より直感を大事にするようになりました。

ーー30代という年齢は男女問わず、仕事に向けた情熱が下降したり、キャリアを振り返って立ち止まったりする時期でもある。

 私も一度、休業という形で2カ月ほどお休みしたことがあります。AV業界は入れ替わりも激しく、何より「若さが武器」の世界。新しい女の子たちが次々にデビューするなかで、思っていたより早く、自分のことを「オワコン」だと感じる時期がきました。

 でも、今振り返ると、その考えは歪んでいるのではないか、と疑問に思ったんです。自分も含め勝手に全盛期みたいなものを作り上げて、そこから離れていくことをそう思い込んでいただけというか。モチベーション高く、全部をパーフェクトに上げられる状態が永遠に続くわけではない。でも、一度その経験をしてしまうと、自分のなかで全盛期を設定してしまうんです。それ以降を停滞や下降だと感じ、苦しくなる。私の場合は2カ月休業したことで、長いスパンで物事を捉えられるようになりました。

 当時の自分は、「3年以内にはこういう本を書きたい」「AVではこれぐらいの売り上げを保っていたい」という想定をしていました。そのくらいの期間であれば、自分のなかでも展望を描けていたんです。

 でも、思い描いたように物事が進むとはもちろん限らないわけですし、そのことばかり考えていると「じゃあそれが終わったあとはどうするの?」と、逆に不安が大きくなっていきました。どこか現実的ではない計画を無理に立てようとしていたのかもしれません。

ーーそのスパイラルから抜け出すために、2カ月の休業を選択した。だが、「その休業で何か心持ちが変わったかというと、実はそうではないんです」と明かす。

 単純に休みとして消化したというか、「やっぱり働かないといけないじゃん」と思ったんです。休業は、仕事から離れるという実験でもありました。でも、休んでいる時間が自分にとって退屈なんですよね。

 離島に行ったり、スマホを見ないで過ごすデジタルデトックスをしたりと環境を変えてもみました。そこで気づいたのは、自分がスローライフのような生活を求めていないということ。働きたい気持ちはあって、でもうまく働けなくて苦しんでいただけだと気づいたんです。じゃあ、どうすればモチベーションを高めながら仕事を続けられるのか。「仕事の寿命」を考えるようになりました。

ーー考えに考えてたどりついたのは、「なるようにしかならん!」という答えだった。

 今の時代って、誰かの悪意や恣意的なもので、いかようにもラベリングされ、消費されるじゃないですか。自分の価値なんて、ある意味フリー素材みたいなものとして扱われているような感覚になるんです。「こういうふうに見てほしい」とイメージ像をつくったところで、それを覆す荒くれ者がいる。

 自分がいくら理想を掲げても、それをぶち壊される日もくるし、そもそも理想通りにはなれないかもしれない。自分のイメージなんて絶対コントロールできないことに気づいてからは、好き放題言いたいことを言って、後悔しないように過ごしています。

 高望みをしなくなったというか、30代に入ると、ある程度自分の限界がわかってくるじゃないですか。「この能力においては、ここまでしかできない」と気づいて諦めることも増えてくる。でもそれは、余計なことで悩まなくなるということでもあります。目を背けずに頑張ることと、伸びしろがないから諦めようと切り替えられることの「区分」ができるようになって、生きやすくなりました。

ーーテレビ番組でのコメンテーターなど、幅広く活動してきた。うまくいかず、失敗したことも少なくない。それを繰り返すなかで、自分の言葉を最も自由に届けられる場所の一つが「小説」だと気づいた。

 言葉は一度発してしまうと取り返しがつきません。間違ってしまったり、自分が思ってもいないことを口にしてしまったりすることってありますよね。でも、小説は自分自身の内面を深掘りして、何回も書き直していく。その作業が向いているなと感じています。

『あの子のかわり』はどちらかといえば、ノリノリで書くことができました。ただ、男性を排他的に扱うような作品にはしたくないなとずっと思っていました。妊娠・出産がテーマの女性の物語ではありますが、男性を排除したり、とがめたりはしたくないんです。読んだ方がどう感じるのか、今までで一番緊張しているかもしれません。

ーー物語には、由良の夫も登場する。仕事にまい進する由良を支え、家事をこなす姿は社会が規定する「男性像」から解き放たれた存在にも見える。

 確かに、そうなんですよね。従来であれば「逆の立場」として過ごしていたはずの夫が、家のことを担ってくれている。そのおかげで、由良は働きやすさを得ている部分が大いにあります。その働き方は、夫が一度ジェンダーモデルから外れてくれたからこそ成立していると思います。

「男らしさ」「女らしさ」という言葉が呪いの言葉として語られるようになってきたからこそ、固定化された性別役割から脱却できたと感じています。「やりたいほうが、やりたいことをやればいい」と常々思っていますし、こういう夫婦の形は、きっと世の中にたくさんある。多様な「家族の形」が存在するんだということも、本書の大きなテーマの一つです。

 作品では、その形を「群れ」という言葉に落とし込みました。犬を子どもとして育てる家庭もあれば、夫が旧来の「妻の役割」を担う家もあり、逆に妻が「夫の役割」を背負う家庭もあります。こうした多様なあり方が一つの群れとして認められる社会になれば、もっと生きやすくなる人が増えるはずだと感じています。

(構成/AERA編集部・福井しほ)

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