小学校「朝7時開門」群馬県高崎市の方針に教職員が「猛反対」…子どもの安全や、教育現場の負担を軽視して
群馬県高崎市が4月から、すべての小学校の開門時間を、現在より最大で50分早い午前7時とする方針を決めたことに対し、市内の多くの教職員が「反対」している。保護者の仕事と子育ての両立が難しくなる「小1の壁」対策として、学校の始業前に児童が過ごす「朝の居場所」づくりは各自治体に広がりつつあるが、今回の問題で忘れてはいけない視点が見えてきた。他の方策もないだろうか。(山田雄之)
◆市内の教職員対象アンケートでは99%が「反対」
「朝早く登校しなくてはならない子どもとその家庭のために、今より少し早く開放し、校舎内に入れてあげるだけのこと」

高崎市の小学校での午前7時開門事業の問題点を話す田中光則執行委員長=群馬県前橋市の全群馬教職員組合で
3月4日、高崎市議会本会議の一般質問。新年度から全58の市立小学校で開門を午前7時に早める事業を巡り、市教育委員会はこう繰り返しながら答弁した。
子育てしながら働く親の支援策として、市が昨年7月に発表した「7時開門」。現在の始業は午前8時15分で、開門は午前7時半〜50分の学校が多く、出勤時間が早い家庭から「子どもを自宅に置いておけない」との要望が多く寄せられたためだという。
だが市議会を傍聴した全群馬教職員組合(全群教)の田中光則執行委員長は「子どもの人権も、教職員の人権もないがしろにされている」と憤る。全群教と高崎市教職員組合は今年2月までに4度にわたり、事業の撤回を求める要求書を市教委に提出。
1月に市内の小中学校と特別支援学校の教職員を対象に実施したアンケートでも「再検討すべき」が1236件、「このまま実施すべき」は11件(2月6日時点)で、回答の99%が「反対」した。
◆市教委側は「開門を30分早める立て付けだ」
教職員側が7時開門で最も問題視するのは、児童の安全管理だ。

すべての小学校の開門を新年度から午前7時に早める群馬県高崎市の市役所庁舎=群馬県高崎市で
市教委は、各校で早番の校務員1人が従来より早く出勤して開門作業を担うと決めたが、児童の登校後の過ごし方は「各校が実情に応じて取り組む」と学校任せだ。見守る人員も配置せず、管理職や教員にも早朝出勤は求めないという。
見守り員を置かない理由について、「午前7時半に開いている学校では、現在も問題なく過ごせている。開門を30分早める立て付けだ」と説明し、「預かり事業」ではなく「開門事業」と強調する。
◆「制度設計のない無責任な仕組みでは安心は守れない」
これに対し、全群教の田中氏は「問題がないのは、勤務時間より早く出勤した教員が対応しているからだ。けんかやけがは日常的に起きている」。市内の小学校で働く40代の男性教員も「校務員は不審者警戒で校門を見ておく必要がある。誰が児童のケアをするのか。子どもは置き配の荷物じゃない」と反発する。

児童の安全対策が不十分だとして、「7時開門」の方針撤回を求める教職員ら=2月、群馬県高崎市のJR高崎駅前で
では実際にトラブルが起きたらどうするのか。市教委に尋ねると「校務員が管理職に連絡し、指示を仰いで対応する。開門事業に関係なく、早く来る管理職もいる。教員も出勤していれば、児童が目の前で困っていて見過ごすことはないと思う」などと応じた。
高崎市議会は今月18日、開門事業に伴う校務員の時間外勤務手当として1900万円を計上した2026年度一般会計当初予算案を可決した。
田中氏は教員らの負担増を危惧する。「制度設計のない無責任な仕組みでは、子どもの安全や保護者の安心は守れない。多くの先生が空気を読み、出勤時間を早めていくだろう。教育現場の疲弊はさらに進む」
◆三鷹市ではシルバー人材センターの職員2人が見守り
子どもの「朝の居場所」づくりは近年、都心近くで広がりつつある。保育園に預けていた時に比べ、小学校は開門時間が遅くなるため、共働き世帯などが出勤時間と子どもの過ごさせ方で悩む「朝の小1の壁」対策として注目される。

始業前、教室が開くのを校庭や玄関口で待つ児童=東京都三鷹市の南浦小学校で
東京都三鷹市では2023年秋から、市立小全15校で開門を午前7時半に早め、校庭で児童を受け入れている。市教委によると、教職員から不満の声は届いていないという。どう実施しているのか。「こちら特報部」は3月10日の朝、同市の南浦小学校を訪ねた。
「おはようございます」。校門を真っ先に入った2年の男児があいさつしたのは、見守りを担うシルバー人材センターの職員だ。各校に職員5人のチームがあり、ローテーションで毎日2人体制で教室が開くまでの約45分間、不審者侵入の警戒や児童の安全に気を配る。目が届く範囲として、児童の居場所は校庭と玄関口に限る。けがの応急処置も担い、大けがの場合は市教委に緊急連絡するのが原則だ。
◆未実施の自治体7割…「人材の確保が難しい」
この日は午前8時までに約60人が登校。雪が降り、多くの子は玄関口で手遊びや会話を楽しんだが、外を走り回る姿もあった。そんな最中に教員らが出勤し、職員室で授業の準備などをしていた。小坂和弘校長は「晴れた日は、異学年でドッジボールなどを楽しんでいる。子どもの運動不足が心配されている中で有意義な時間だが、教職員だけではとてもできない。シルバー人材センターのおかげで成り立っている」と語る。
市教委は「保護者への緊急連絡は個人情報を扱う学校に頼らざるを得ないが、他はシルバー人材センターへの委託事業の中で対応する。開門を早める際、児童の安全管理体制、教職員に負担を極力かけない仕組みの2点を最も重視して考えた」と振り返り、「他の自治体から問い合わせも来るが、多くの場合は見守り人材の確保が難しいようだ」と明かす。

こども家庭庁の看板(資料写真)
こども家庭庁が2024年9月〜昨年3月に全国の自治体に行ったアンケートでは、朝の居場所づくりを実施したり、検討したりしているのは3%だった。実施中の自治体での運営主体は、学童保育の運営事業者が26%、シルバーが23%、地域住民・団体が16%と続いた。実施していない自治体の70%が「居場所運営に従事する人材の確保が難しい」との課題を挙げた。
◆「人材を確保できないならば、実施するべきではない」
新潟県立大の植木信一教授(児童福祉)は朝の居場所づくりについて、スウェーデンでは早朝から学童保育で預かる仕組みが整備されていると紹介し、「日本は放課後を中心に施策が進められ、朝は盲点だった。子育て支援として今後さらに広がる」と予測する。
ただ植木氏が懸念するのは、「子ども支援」の視点の欠落だ。「自治体が保護者ニーズばかりに気を取られ、子どもの安全や健全育成の観点での検討を怠れば本末転倒だ。専門性を持つ学童などのスタッフによる対応が理想的だが、最低限として見守り人材は必要不可欠だ」と指摘。その上で「教育機関の役割を超えた業務なので、教員に負担をかけないのは言うまでもない。人材を確保できないならば、実施するべきではない」とくぎを刺す。
日本女子大の大沢真知子名誉教授(労働経済学)は「『朝の小1の壁』は母親が仕事を辞めたり、労働時間を短くしたりして家庭で解決していた。少子化につながる問題で、自治体の取り組みは有効だ」と評価しながらも、こう提言する。
「見守り人材の人件費といった財源を確保できる自治体は多くない。利用が低迷すれば費用対効果の問題も出てくるだろう。親を雇用する企業側が、問題意識を持つべきだ。国が主導し、出勤を遅らせるなど企業に労働時間を柔軟化させることで、解決を図るべきではないか」
◆デスクメモ
「小1の壁」対策として、学校の開門時間を早めて子どもたちを受け入れる「朝の居場所」づくり。文部科学省の調査で、深刻な公立学校の教員不足が明らかになる中、自治体が導入を決め、運用は学校の裁量に任せるだけでは対策にはならない。社会全体で知恵を絞るべきテーマだ。(ぶ)
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