高齢者の不安、どうする 体の衰え、孤独、認知機能の低下…ほかの疾患にも気をつけて

イラスト・筑紫直弘
高齢になっても不安が消えるわけではない。むしろ死が近づくことへの不安、健康や孤独への心配、認知機能の低下によるストレスなど、高齢者ならではの不安に苛まれることも多い。状態が過度になると不安障害とされるが、状況が悪化してもなかなか訴えない人が少なくない。専門家は「生活に支障をきたすようなら受診を」と呼びかける。
「年のせい」と受け止められがちだが…

「不安で眠れない」「食事がとれない」「落ち着かず、動悸がする」。千葉県柏市の東京慈恵会医科大附属柏病院精神神経科の忽滑谷(ぬかりや)和孝医師は、このように訴える高齢患者を診察してきた。
不安障害には全般性不安障害や社交恐怖障害、パニック障害などがある。令和5年に東京慈恵医大の4病院の精神神経科外来を受診した初診患者で、不安障害を含む神経症と診断された患者のうち60歳以上が3分の1を占め、女性の割合が高かった。
高齢者には身体機能の低下による健康面の不安、収入が減ることによる経済面の不安、周囲とのつながりが薄れることによる孤独感など、不安を感じる要因が重なりやすい。忽滑谷医師は「認知機能の低下も大きい。物事にうまく対応できず、混乱することで不安が強まる」と話す。神経伝達物質のバランスが崩れるなど、生物学的な要因も関係している。

「不安は決して恥ずかしいものではない」と話す忽滑谷和孝医師=千葉県柏市の東京慈恵医大附属柏病院(小川記代子撮影)
高齢者は「あらゆることが不安で眠れない」といった全般性不安障害が多いとされる。しかし、「年のせい」と受け止められがちな上、自ら心の不調を訴えない傾向が強く、治療につながらないケースも少なくない。厚生労働省の委託調査では、ストレスや不安感に対処している人の割合は、年代が上がるにつれて減少している。
不安障害のサインには、食欲低下や頭痛、不眠といった身体症状のほか、飲酒量や喫煙量の増加など行動面の変化、感情の不安定さなどがある。身体症状を主に訴え、他科を受診しても異常が見つからず、最終的に精神神経科で不安障害と診断されるケースもある。
まずは「話をよく聴く」
診察で最も重視されるのは、「まず話をよく聴くことだ」という。既往歴や生活環境を把握するだけでなく、本人の理解を深める目的がある。「本人が心の病気だと認めないことも多い。話を聴いていく過程で感情を安定させ、病気への理解や洞察を深めることが治療の第一歩になる」と説明する。
健康面や経済面、孤独など不安の原因と考えられるものが分かれば、解決に向けたアプローチを検討する。「自身の存在意義への不安には、良かった想い出を雑談できる場を提供することも必要だ。そのことを通して、本人が本来持っている回復力を高めていく」と話す。症状によっては薬物療法を行うこともある。
注意すべきなのは、ほかの病気との関係だ。鬱病と不安障害を併発することは珍しくなく、認知症への移行段階や一部の認知症と区別が難しい場合もある。心疾患や糖尿病などの身体疾患との関連も深い。忽滑谷医師は「不安障害と体の病気は切り離せない。どちらの治療も重要だ」と強調する。
適度な不安は生きるために必要
過度な不安は不安障害につながる。ただ、忽滑谷医師は「不安そのものは悪いものではない」と話す。「不安があるからこそ危険を回避できる。適度な不安は生きるために必要だ」
患者の状態によっては、「不安な状態をそのまま受け入れる」「今のことだけに意識を集中する」といった関わり方を行うこともある。「不安は取り除こうとするほど大きくなる。無理に解決せず、今なすべきことを淡々とこなすように促す方法もある」と語る。
不安を抱えていても表に出さない高齢者に対しては、「日常生活が保たれているなら、周囲が無理に吐き出させなくてもよい。言わない力があるのは良いことなので、そこは尊重してほしい」と訴える。
問題となるのは、不安が過度になった場合だ。「社会生活に適応できない部分が出て、日常生活に支障をきたしたら、医療機関に相談してほしい」と話している。(小川記代子)