乗り心地の悪さ日本一でSNSで大反響「カーレーター」ガタガタと激しい振動が逆に新鮮

山頂エリアにある「回転展望閣」。昭和33年から営業する須磨浦山上遊園のシンボルとなっている
山陽電気鉄道の須磨浦公園駅(神戸市須磨区)を降りてすぐ、鉢伏山上駅へと延びる「須磨浦ロープウェイ」に揺られながら、時間をさかのぼる感覚にとらわれていた。眼下に広がる神戸の街並みから遠ざかり、山上駅に到着すると、最新技術とは無縁の「昭和」が手つかずのまま残っていた。須磨浦山上遊園(同区)には、効率や利便性を追い求める現代社会が置き去りにしてきたアナログで生々しいエンターテインメントが今も息づいていた。
「日本一」の衝撃

その激しい振動から「日本一乗り心地が悪い」と称されるカーレーター
駅を出てまず出迎えてくれたのは、ゴンドラがベルトコンベヤーで斜面を登る「カーレーター」。カー(車)とエスカレーターを組み合わせたこの乗り物は、昭和41年の誕生から今年で60周年、いわゆる〝還暦〟を迎えた。かつては他所にも存在したが、国内で現存するのはここだけという絶滅危惧種だ。
乗り場はどこか薄暗く、油のにおいと重厚な機械のきしむ音が、工事現場のような独特の緊張感を醸し出す。ベルトコンベヤーに据え付けられた2人乗りのゴンドラに乗り込むと、直後に猛烈な洗礼が待っていた。ガタガタという激しい振動が全身を貫く。撮影を試みたが、手持ちのカメラの手ぶれ補正機能など、この「日本一乗り心地が悪い」と称される乗り物の前では何の役にも立たない。しかし、その快適性を度外視した衝撃こそが「動く登山道」として多くの来園者たちを驚嘆させてきた魅力でもあるのだ。

「回転展望閣」3階の喫茶「コスモス」。床が55分かけて360度回転する
これだけ魅力的なカーレーターだが、阪神淡路大震災以降は利用が低迷。同園主査の田村将樹さん(51)は「維持管理の難しさからエスカレーターへの転換も検討した」という。それでも、同園を経営する山陽電鉄はあえて多額の投資を行い、修繕を重ねることで守り抜く道を選んだ。その決断が今、SNSなどを通じて、逆に新鮮なアトラクションとして若者たちの心をつかんでいるのは、歴史の妙といえるだろう。

緩やかな「円舞」
カーレーターの衝撃に揺られた後、たどり着いたのが「回転展望閣」。昭和33年に建てられたこの円筒形の建物は、3階の喫茶フロアが55分かけてゆっくりと1回転する。
席に座ってみると、その回転は驚くほど穏やかだ。窓の外を明石海峡大橋や淡路島、瀬戸内海の絶景がパノラマのように流れていく。4階の展望台の景色も素晴らしいが、3階でクリームソーダをすすりながら、建物が歩んできた歴史に思いをはせつつ過ごすのも乙なものだ。
同園によると、この回転機構を維持するため3カ月に1度の点検は欠かせず、生産終了となった部品をあちこちから探し集めてメンテナンスを続けているという。運営側の並々ならぬ熱意がこの緩やかな円舞を支えている。
須磨浦山上遊園は、ただ古いだけの場所ではなく、過去を慈しみ、不便さえも愛着へと変えてきた人々のつながりと哀愁があった。山陽電鉄の伊東正博社長(62)は「昔ながらのものでも素晴らしいものがあるとPRしていきたい」と力を込める。効率優先の現代に、圧倒的レトロが放つ輝きは今も色あせることはない。
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【施設メモ】神戸市須磨区の鉢伏山と旗振山の山頂一帯に広がる須磨浦公園内の植物園・遊園地を含む公園。開園は昭和32年。ロープウエーとカーレーターを乗り継いで山頂エリアに到着すると、回転展望閣や林間の散策路があり、さらに観光リフトで谷を渡ると、ミニカーランドやサイクルモノレールなどが設置された遊園地がある。ほとんどの施設は開園時からのもので、昭和レトロ感を楽しむことができる。また園内には六甲全山縦走路が通っており、ハイキングを楽しめるよう登山道や周遊路も整備されている。住所は神戸市須磨区一ノ谷町5の3の2、問い合わせは同園(078・731・2520)。
私が取材しました
香西広豊(こうざい・ひろとよ) 昭和39年生まれ。一昨年、カーレーターと同じ〝還暦〟を迎えたシニア記者。子供のころは、親にせがんで「宝塚ファミリーランド」や「甲子園阪神パーク」など、今はなき〝昭和の遊園地〟に連れて行ってもらった世代なので、今回の取材の印象は「懐かしい」のひと言。今回、訪れた回転展望閣には「ジュークボックス」もあり、西城秀樹の「傷だらけのローラ」を選曲。レコード針が溝に落ち、スピーカーから流れ出したのは、デジタル音源には決してまねのできない厚みのあるアナログの響きだった。