「SUVはもう限界」 衝撃の米国リポートが示す、車の巨大化&家計コストの知られざる関係

乗用車大型化の進行と背景

 昭和の日本映画を眺めていると、街をゆく車がいかに小さかったかに驚かされる。かつて子どもたちの憧れだったスーパーカーにしても、実はその多くが小柄な体躯をしていた。当時は、その凝縮感こそが格好良さの象徴でもあったはずだ。しかし、今の路上から2ドアクーペは姿を消し、代わりに巨大な車たちが幅を利かせている。実のところ、2、3人の移動が目的ならば、軽自動車で事足りるはずなのだが。

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 とりわけスポーツタイプ多目的車(SUV)の巨大化は著しい。1990年代から親しまれてきた車種だが、2010年代後半に安全基準が厳格になったことで流れが変わった。衝突した際の衝撃を和らげる空間を作るため、車体の長さや幅を物理的に広げざるを得なくなった事情がある。これに、世界中で同じモデルを売ることで効率を高めようとするメーカー側の思惑が重なり、この10年から15年ほどで大型化は一気に加速した。

 この背景には、他者より大きな車に乗ることで身を守ろうとする、心理的な競争も透けて見える。大きな車が増えれば、相対的に小さな車の事故リスクが意識され、さらなる大型化を呼ぶ。そんな悪循環が生まれているのではないか。

 企業にしても、利益の出にくい小さな車より、高い値段を付けられる大型SUVを売りたいという本音が市場を支えてきた。だが、米国の非営利団体「交通開発政策研究所(ITDP)」が発表したリポートは、この風潮を看過できない問題として提起している。電気自動車(EV)への移行も急務だが、まずは際限のない巨大化に歯止めをかけ、車を小さくしていく。それが、今私たちが向き合うべき切実な課題となっている。

小型化がもたらす経済・安全・環境効果

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「コンパクトな都市の電動化:小型車両のメリット」(画像:交通開発政策研究所)

「Compact Cities Electrified: The Benefits of Small Vehicles」というリポートをひも解くと、興味深い数字が見えてくる。新車のサイズを2020年の水準に戻すだけで、世界の消費者は

「最大22%の支出」

を抑えられ、燃料消費を12%、交通事故の死者数を9%も減らせるという。同時に、運輸部門の排出量も10%の削減が見込める。こうした支出の抑制は、燃料代の節約に留まらない。車が重くなるほどかさむタイヤや消耗品の交換費用が安くなることも、家計を助ける大きな要因になる。車を動かすための無駄なエネルギーを削ぎ落とすことは、生活を守る極めて現実的な手段といえるだろう。

 リポートの著者は、車両を小さくすることが、結果的に自動車通勤を減らすことにも繋がると説く。歩道を歩く際、大きな車から受ける圧迫感がなくなれば、徒歩や自転車、公共交通機関への乗り換えがスムーズに進む。そうなれば、世界の交通事故死者数は2050年までに40%も減るという試算だ。

 どうしても車が必要な場面でも、サイズを適正に保てば、電動化の効果はより高まっていく。小型のEVであれば、限られた電池の材料を大型車で使い果たすことなく、より多くの人に行き渡らせることができるからだ。一部の層が巨大な電池を積んだ車を占有するのではなく、社会全体で限られた資源を賢く分配する形を目指すべきではないか。

 車両の小型化、車以外の移動手段の活用、そして小型EVの普及。これらを足並みを揃えて進めることで、人類は今世紀半ばまでに燃料需要を85%削減し、エネルギー市場の安定と環境の改善を同時に成し遂げられる。

 FIA財団のシーラ・ワトソン氏は、燃料に頼り切った生活がコストを押し上げている現状を重く見ている。適切な政策を組み合わせることで、燃料への依存を断ち切り、出費を抑えながら気候変動対策を前進させる道が開けるはずだ。主要6か国のデータに専門家の知見を加えた今回の研究は、車両の巨大化が都市に落とす影を浮き彫りにしている。

SUV拡大と市場構造の変化

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自動車(画像:Pexels)

 北米発の大型SUVブームが世界を飲み込もうとしている。交通のあり方を変えられるかどうかは、この奔流を食い止められるかにかかっている。

 2008年には世界で売れる車の約20%に過ぎなかったSUVだが、2022年にはその割合が半分を上回った。メーカーから見ればSUVは利益を守りやすい商品に違いないが、巨大な車が市場を独占し続けることへの警鐘が鳴らされている。大型車を前提にした市場は、道路や駐車場といったインフラまでそのサイズに縛り付けてしまう。後から作り直そうとすれば、途方もない費用がかさむ恐れがある。

 こうした状況が続いた先に何が待っているのか。リポートの著者らが描いた現状維持シナリオは、いささか厳しいものだ。大型車がシェアを伸ばし続け、電動化は足踏みし、走行距離が増える一方で他の交通手段は置き去りにされる。企業の目先の利益を優先して大型車を売り続けた結果、社会全体が支払うコストが膨れ上がっていく様子が目に浮かぶ。

 そこで、車の小型化、他の移動手段の活用、小型EVの普及という三つの戦略が検証された。結論をいえば、これら全てを並行して進める「総力戦」こそが、排出量を抑え、事故を防ぎ、大気汚染による健康被害を減らすための、地に足のついた歩みとなる。どれかひとつに頼るのではなく、複数を組み合わせて補い合う。それが、これまでの非効率な仕組みを根本から作り変える力になるはずだ。

総合戦略と都市交通の転換

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自動車(画像:Pexels)

 こうした多角的な取り組みが真価を発揮するのは、それぞれの戦略が混ざり合い、ひとつの進展が次の成果を呼び込む好循環が生まれるときだろう。

 自転車や徒歩、あるいは公共交通を選ぶ人が増えれば、巨大な車両への執着は薄れ、限りある電池材料の奪い合いも落ち着くはずだ。一方で小型のEVが街に馴染めば、騒音や排ガスによる不快感は和らぎ、わざわざ短い距離をガソリン車で走る理由もなくなる。

 さらに車のサイズが小さく収まれば、これまでは道路や駐車場として使われていた空間を削り、人々が歩いて暮らすための場所に作り変えることもできる。土地の価値を、個人の持ち物である車のためではなく、社会全体の活動のために取り戻す。そんな未来が見えてくるのではないか。

 リポートによれば、これらの取り組みには数字だけでは測りきれない利点が多い。バスや電車への移行は自然や農地の破壊を食い止め、EVの普及は街を静かに保ちながら車の動きを滑らかにする。小さな車が普及することで生まれる道路の余白は、他の目的へと自由に使い回すことができるだろう。

 今はまさに、世界の指導者たちが一歩を踏み出すべき時だ。都市の行く末をどう描くかは各都市や政府の決断にかかっており、彼らがどのような道を選ぶのかが厳しく問われている。

 公共交通と歩行を軸に据え、電動化を急ぎ、車の大きさを抑える。この流れは、もはや避けて通れない。大きさこそが豊かさだという古い物差しを捨て、限られた資源を賢く使う発想へ切り替える必要がある。その点、厳しい制約を逆手に取って磨き上げられてきた日本の軽自動車は、世界が求める効率的な移動手段の模範となり得る。

 日本発の知恵が、世界の移動のあり方を塗り替える日は、案外近くまで来ているのかもしれないのだ。