外食大手が仕掛けた539円ラーメン「丸福飯店」の衝撃 消えゆく"町中華"を再現、専門店クオリティを実現した仕組みとは?

筆者が暮らす愛知県尾張地方は、店主の高齢化などで昔ながらの町中華の閉店が相次ぎ、ほとんどなくなってしまった。その代わりに登場したのが、中国人が経営する、いわゆる「大陸系中華」と呼ばれる中華料理店である。

【写真を見る】「ラーメン・半チャーハンセット」。中華の定番セットも今や1000円超えの店も多い中、790円(税込み869円)で提供

日替わりのランチや、ラーメンなど麺類とチャーハンなどご飯もののセットが800円という、安さとボリュームがウリだったが、やはり原材料費の高騰には耐えられず、値上げしている店も多い。それに加えて、日本人が好む味からややズレている店もあるため、頻繁に通うことができない。

値上げで揺らぐ町中華とラーメンの現在地

そんな折り、愛知県豊橋市内を車で走っていたときに「町中華 丸福飯店」(以下、「丸福飯店」)という町中華業態の店を見つけた。同店は、「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」などを手がける上場企業・物語コーポレーションが今年2月に新規出店した新業態だ。

店中に入ると、その価格に驚いた。大きなチャーシューがのる「丸福中華そば」は490円(税込み539円)で、半チャーハンが付く「ラーメン・半チャーハンセット」は790円(税込み869円)なのだ。また、「厚切りレバニラ炒め定食」など、メインのおかずにライスとザーサイ、中華そば(小)が付く中華定食は、830円(税込み913円)からと、ほとんどが1000円以内。しかも、ライスは大盛り無料だ。

値上げで揺らぐ町中華とラーメンの現在地, 490円の中華そばが示した新たな日常使い, 町中華とラーメン専門店の真ん中を狙う, 既存チェーンでは埋められない空白

「ラーメン・半チャーハンセット」。中華の定番セットも今や1000円超えの店も多い中、790円(税込み869円)で提供(筆者撮影)

「ラーメン・半チャーハンセット」を注文してみると、その味に、また驚いた。チェーン店にありがちな均一的な味わいではなく、きちんと作ってあるのだ。

とくにラーメンは、ビジュアルこそ昔ながらの町中華スタイルだが、煮干しや香味野菜の旨みを感じる奥深い味わい。他の中華チェーンのラーメンとは完全に一線を画している。

「丸福飯店」も、系列の「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」のように展開していけば、中華チェーンの市場構造が大きく変わる可能性もある。そこで後日、物語コーポレーションの代表取締役社長、加藤央之氏に話を聞いてみた。

490円の中華そばが示した新たな日常使い

「まず、『濃厚中華そば 餃子 丸福』での失敗があったからこそ、『町中華 丸福飯店』が生まれたのだと思っています。中華そばも餃子もとことんこだわって作ったのですが、お客様に伝わりにくかった。もっとわかりやすくしなければと思ったんです」(加藤社長)

明確なコンセプトとして町中華業態を打ち出したのだとすると、すでに「大阪王将」が町中華スタイル「新御茶ノ水 萬龍」を展開している。筆者の地元では、中華レストランの「浜木綿」も「中国食堂はまゆう」を手がけている。いずれも昔懐かしい町中華の復刻がコンセプトとなっている。「丸福飯店」はメニューこそ町中華だが、先発の中華チェーンとは大きく異なる。

値上げで揺らぐ町中華とラーメンの現在地, 490円の中華そばが示した新たな日常使い, 町中華とラーメン専門店の真ん中を狙う, 既存チェーンでは埋められない空白

「町中華 丸福飯店」外観。通行量の多い県道沿いにあり、広々とした駐車場も完備している(写真:物語コーポレーション)

それは店の外観からも伝わってくる。看板に赤や黄色を強く出すと、大陸系中華に寄ってしまうため、白地に黒の文字で店名が書かれている。店のロゴマークと雷紋がアクセントとして赤であしらわれている。

そして、店の入り口に掛けられたのれんには大きく「中華そば」と書かれている。実は、これこそが「丸福飯店」のコンセプトそのものなのだ。

「ラーメン市場と中華料理市場、それぞれ約5000億円規模の巨大マーケットを見渡したとき、その間にぽっかりと空いたポジションがあることに気づいたんです。ラーメンを食べに行く店はある。中華料理を食べに行く店もある。でも、ラーメンを食べに行く中華料理店は、ありそうでなかった」(加藤社長)

象徴的なのが前出の「丸福中華そば」である。いまどき500円台でラーメンが食べられるというわかりやすさは、それだけで強いインパクトを持つ。しかも、単なる安売りではなく、むしろ、中華そばを起点にメニューをどう広げるかが設計の肝になっている。

チャーハンや餃子を付けてもツーコイン、つまり1000円以内に収まるセット構成にすることで、来店ハードルを下げつつ満足度を底上げする。結果として、客単価も無理なく引き上げられる仕組みだ。

値上げで揺らぐ町中華とラーメンの現在地, 490円の中華そばが示した新たな日常使い, 町中華とラーメン専門店の真ん中を狙う, 既存チェーンでは埋められない空白

物語コーポレーションの代表取締役社長、加藤央之氏(筆者撮影)

町中華とラーメン専門店の真ん中を狙う

「仮に、『丸福中華そば』だけを食べに来られるお客様がいても、まったく問題ありません」と加藤社長は言う。そういった客は頻繁に通ってくれるため、セットメニューを目当てに来店する客と使う金額は長期的に見ればあまり変わらなくなるからだ。

とはいえ、安いだけでは長く続かないことは加藤社長も承知している。だからこそ、ラーメンとしてのきちんとした作りにこだわった。スープは豚ガラをベースにした醤油清湯。町中華のようにあっさりしすぎず、かといってラーメン専門店のように重すぎない。ちょうどその真ん中を狙った味わいだ。さらにもっちりとした食感の自家製麺を採用し、専門店らしさもきちんと担保している。

中華料理では、「厚切りレバニラ炒め」が印象に残る。餃子や唐揚げ、チャーハンといったサイドメニューの定番に埋もれがちな中で、あえてここを看板メニューの1つに据えているのは興味深い。

値上げで揺らぐ町中華とラーメンの現在地, 490円の中華そばが示した新たな日常使い, 町中華とラーメン専門店の真ん中を狙う, 既存チェーンでは埋められない空白

名物の「厚切りレバニラ炒め定食」890円(税込み979円)。中華そば(小)が付いてご飯の大盛りも無料(筆者撮影)

「炒め物はほかにも回鍋肉や肉野菜炒め、麻婆豆腐などを用意していますが、レバニラ炒めは家庭では再現しにくく、火入れひとつで仕上がりが大きく変わります。そこに外食ならではの価値が出ると思っています」(加藤社長)

さらに面白いのは、定食に中華そば(小)を組み込んだ構成だろう。中華料理も食べたいが、ラーメンも外したくない。そんな欲張りなニーズを、無理なく満たしてくれる。ラーメンと中華料理、どちらかを主役にするのではなく、両方を自然に共存させているのである。

既存チェーンでは埋められない空白

「餃子の王将」や「大阪王将」、「バーミヤン」が競合店のように思えるが、これらはラーメンを食べに行く中華レストランではない。さらにラーメン専門店に目を向けると、状況はまた違う。

現在のラーメンは1杯1000円前後が当たり前になり、そこに餃子や唐揚げ、チャーハンを付ければ1500円近くになることも珍しくない。味の満足度は高いものの、日常使いとしてはややハードルが高くなりつつあるのも事実だろう。

格安の中華定食という価格帯だけを見ると、中華そばを税込み420円で提供する「日高屋」と被る。「日高屋」があるのは、主に駅前。中華料理をアテにお酒を飲む、いわゆるちょい飲み需要を取り込んで回転率を上げるモデルである。

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「お子さま中華そば」90円(税込み99円)。選べるおもちゃも付く(写真:物語コーポレーション)

一方、「丸福飯店」の立地は、物語コーポレーションが得意とする郊外ロードサイドに主眼を置いている。ターゲットはファミリー層であり、子供向けに「お子さま中華そば」を90円(税込み99円)で提供するなどの工夫も盛り込まれている。家族で気軽に足を運び、「安くてお腹がいっぱいになる」かつての中華レストランを再定義しようとしているようにも見える。

ラーメンと中華という2つの巨大市場のど真ん中を狙う。言葉にするとシンプルだが、それを成立させるには、価格と味、メニュー構成、そして立地のすべてが噛み合っていなければならない。このラーメンと中華料理の中間という「丸福飯店」のポジションがどこまで広がるのか、今後の展開が気になるところだ。