結婚引き換えに断種「逃れられない」 公文書に刻まれた非情なルール

開示された優生手術願書。「優生手術を行って頂きたいので妻の同意を得て御願します」の文字の左に、代筆されたと思われる中尾さん夫婦の署名がある=2025年3月13日午後、岡山県瀬戸内市、田辺拓也撮影(画像の一部を加工しています)
生殖機能を奪われたハンセン病の元患者が自らの優生手術について情報公開請求し、この3月に開示された。元患者は国立ハンセン病療養所「長島愛生園」(岡山県瀬戸内市)で暮らす中尾伸治さん(90)。開示文書には、療養所で行われていた、結婚と引き換えに断種を強いる違法な運用が書き残されていた。
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旧優生保護法(1948~96年)によってハンセン病患者や遺伝性疾患などがある人たちは、優生手術と呼ばれた不妊手術(断種)や人工妊娠中絶を強いられた。
中尾さんに開示されたのは、結婚許可について愛生園職員が幹部に決裁を求める2枚の稟議(りんぎ)書のほか、結婚届や優生手術願書の計4枚。個人の断種の実態が公文書などで明らかになるのは極めて異例だ。
2枚の稟議書の日付はいずれも1956(昭和31)年5月14日。
「優生手術勧奨記録」。1枚目の稟議書にはこんな名称で園側が優生手術を促した結果を確認する欄があった。もう1枚の稟議書には、結婚を最終審査する前段階の審査項目として、施術者の医師に「施行済」の署名をさせる欄もあった。結婚と断種がセットで手続きが進む仕組みだった。
愛生園の山本典良園長は「こんな書式だと手術をしないと結婚を許可しないこともあったかもしれません。最初から最後まで人権無視で、おわびしかない」。
中尾さんはこれまで自身の断種についてほとんど語らずにきた。だが今年1月から旧優生保護法の被害救済に向け、国の補償制度が始まった。自らの経験を語り出す被害者も出てきた。その姿を見て自らの過去を知ろうと思った。
「世の中で要らんもんとみられていた障害者やハンセン病患者がどんな扱いを受けてきたか。実態をしっかりと知ってほしい」(田辺拓也)