1年間で約90校減る時代の「地方大学」の行く末

共愛学園前橋国際大学学長の大森昭生氏。中央教育審議会大学分科会委員や地域大学振興に関する有識者会議の座長を務める(写真:共愛学園前橋国際大学)
私立大学の「定員割れ」は国や地域の課題
――私立大学の5割が定員割れになっています。この状況をどう捉えていますか?
【グラフ】18歳人口と大学進学者数等の将来推計
定員割れの私立大学が3〜4割の時は、まだそれぞれの大学が頑張る余地がありました。「共愛を見てごらんなさい。地方の小規模大学でも頑張っているところがあるよ」とうち(共愛学園前橋国際大学)が好事例として取り上げられ、私も本学の取り組みをお話ししてきました。
しかし、5割を超えると、全国の私学の半分が頑張っていないわけはないし、もはや個々の大学の頑張りで何とかなるフェーズではありません。
もちろん、個々の大学は引き続き頑張らなければなりませんが、それだけでは追いつきません。地方大学の今後を個々の大学だけに任せるのではなく、地域全体、国全体で課題として取り上げるフェーズに入ったのです。
――その背景には少子化があるということでしょうか。
大学進学率は年々上がり、現在は過去最高の61.4%(短大含む)です。今後も進学率は上がると思いますが、少子化がそれを上回っており、大学進学者の母数となる18歳人口が減少しています。例えば、群馬県は18歳人口が1万7000人強ですが、昨年の出生数は9000人強。18年後には18歳人口がほぼ半分になる見込みです。

18歳人口と大学進学者数等の将来推計
国を維持するには各地の大学が欠かせない
――中央教育審議会は2025年2月にいわゆる「知の総和」答申をまとめました。そこでは、人の数と人の能力の掛け合わせで決まる「知の総和」の向上が必須だと述べられています。
人の数が減る中では、その質を上げなければ、日本は世界から取り残されてしまいます。この「知の総和」を維持向上するのに中心的な役割を果たすのが高等教育機関です。
――しかし答申では今後、中間的な規模の大学が1年間で約90校減るほど急速な少子化が見込まれていて、地方では質の高い高等教育へのアクセスが確保されない事態も想定されるとあります。
現状は「大学の数が多すぎる」という意見もありますが、地方から大学がなくなり、地元で進学ができなければ大学に行くことを諦める子は増えるでしょう。実際、日本の大学進学率を支えているのは東京で、地方だと4割にも届かないという地域もあります。例えば、韓国の大学進学率は7割を超えますが、はたして先進国である日本がこのままでいいのかという考えもあるのです。
昭和の高度経済成長期のような右肩上がりの時代は、社会が自分たちを引っ張っていってくれます。しかし、今は予測困難な時代と言われ、この時代を生きていくには知識を持っているだけではだめです。
このような時代における大学の役割は当然変化しています。限られた教科学力の高い子が専門知識を学ぶために行くという大学のイメージから脱却する必要があるでしょう。
多様な子が地域・国・世界に役立つ人材になるため、また自らが幸せになるために、専門知識だけでなく主体性や課題設定・解決能力、コミュニケーション能力などのコンピテンシーを身に付ける場所として大学の役割が再設定されているのです。そのためにも、誰もがいつでも自らの選択により大学で学ぶことができる「ユニバーサル・アクセス」を維持していくことが必要なのです。
学生たちには幸せな生涯を送ってほしいと切に願うし、そのために大学はあると自負しています。そしてそのことによって、社会全体の知の総和が担保されていくに違いありません。
――国も地方大学の重要性を認めているのでしょうか。
個々の大学が頑張るのは大前提で、地域の大学が連携し、タッグを組むことが大切です。それを国が後押しする。実際、文科省も概算要求で、こうした地域の大学の連携を促すプラットフォーム構築事業に予算をつけようとしています。
「知の総和」答申の後、5つの会議体が立ち上がりました。その1つが、文科省の副大臣をリーダーとする文科省職員の会議で「地方大学の振興に関するタスクフォース」です。
ここで示された「新産業創出とエッセンシャルワーカーの育成を目指した地方大学の振興」「地域をフィールドとする学びによる定着人口・関係人口の増加」「高等教育機関をゲートウェイとした地域の国際化と外国人材の定着」には、国が地方大学に求めることがよく表れています。

(出所:文科省「 地方大学の振興に関するタスクフォース取りまとめ 」)
地方において、この3つはとても重要なので、文科省としても、「プラットフォームをつくってくれたら支援しますよ」と言っているわけです。この取り組みは、私が座長を務める「地域大学振興に関する有識者会議」の考え方と方向性が同じです。
各地で高まる地方大学同士の連携への動き
――「地域大学振興に関する有識者会議」でも「令和8年度地域大学振興プラン(仮称)」に向けて、すみやかに取り組むべき事項に「地域構想推進プラットフォームの構築」を挙げています。このプラットフォームは都道府県単位なのでしょうか?
プラットフォームをつくる主体によって考えが少し異なります。例えば、経団連は「都道府県単位では狭すぎる」と言います。というのも、県をまたいだ経済圏があり、例えば群馬県の子が埼玉県で就職するということもあるわけです。そのため、経団連は500万人規模で考えていく必要があるのではないかと言います。
一方、自治体の担当者や商工会議所は「県レベルでは大きすぎる。市町村レベルでつくらなければ」と言います。そのため、「こうつくりなさい」とは特に言っていません。
うち(共愛学園前橋国際大学)の大学も前橋市内の国公立私立5大学と群馬県専修学校各種学校連合会、前橋市、前橋商工会議所とプラットフォーム「めぶく。プラットフォーム前橋(地域人材の育成・定着にかかる産学官連携基盤推進協議会)」をつくっています。
大分県では、大分大学が音頭を取り、県がお金を出す形でやっていますし、地域の事情に応じてつくっていくことになるだろうと思います。ただ、議論の場ではだいたい県単位のイメージで語られています。
この機運を後押しにしようと、いろいろな地域でプラットフォームを意識し始めており、各地の大学の学長さんの集まりで話してほしいという講演依頼が私の元にいくつか寄せられています。
――各地の大学で連携しようという機運が高まりつつあるのですね。
はい。ただ、現実的にはまったく文化の違う組織が連携するのは大変です。あとは自治体がどれだけ自分事化してくれるかにかかっています。
私立大学は「勝手に(学校を)やっているんでしょ?」と思われている節があり、地域に「大学は公共財である」という認識があまりありません。実際には学校法人は非営利組織なので儲けられませんし、自治体と同じ単年度決済なので資本を蓄えて投資するという株式会社方式の経営ができません。それでも「なぜ儲けている私学に県が手を差し伸べるのか」と思われがち。まずはそこから理解を得なければなりません。
自治体と大学が一緒に地域の未来を考えるべき
――これまでも大学同士で地域の高校生のために講座を開く、学生同士の単位互換を認めるといった取り組みがありました。そうした連携とどう違うのでしょうか?
今回のプラットフォームの大きな役目は「自治体が入って課題を自分事化して、その地域の将来像を考える」こと。
その地域で保育士が育たなくてもいいのか、県の主要産業が今後10年変わらないのか、置き換わっていくのか……地域の産業界や県の経済産業部と議論しながら、「地域には今後、どんな人材が必要なのか」からバックキャストして、大学の構造を変えていきましょうということなのです。
「知の総和」答申では、高等教育政策の目的として、①「質の向上」、②「規模」の適正化、③「アクセス」確保の3つが挙げられています。
今は、私大だけでなく国公立大学も適正規模になることが求められており、地域の人口動態を見ながら適正規模を見いだし、お互いにどこまで縮小するか議論しなければなりません。「先に言い出した者負け」にしてはいけませんし、「私学だけ負け」にしてもいけません。
ポイントは「自分の大学だけ残ればいい」という発想を捨てられるかどうか。子どもにとってどの大学が残るかということよりも、大切なのはその地域で学べること。地域の子どもたちが地域で学ぶ環境をきちんとつくろうとしないと、地域からの理解は得られません。
大学同士が競争すれば、お互いに定員が埋まらず疲弊して共倒れになりかねませんから、協調しながら互いに適正規模になろうというわけです。ただし、縮小すれば国公立だろうが私立だろうが学費収入は減りますから、減った分をみんなで協力して按分して補うスキームをつくる。この一連の流れをプラットフォームでやってほしいのです。
これは相当ハードなネゴシエーションになります。プラットフォームの名前をあえて「地域構想推進」にしたのは、そのためです。
「うちは参加しない」という大学も出てくるでしょうし、それなら単独で頑張ってもらうしかありません。そもそもこのスキームが成り立たず、空中分解することもあるかもしれない。そうなれば別のスキームを考えなければならないので、早く動く必要があるのです。
後編を読む