「350kgを超えたら止まれない」 事故件数4割増の「軽貨物」が陥った、配送急増&安全軽視の負の連鎖

軽貨物車両にも最大積載量が存在する理由

 日本独自の軽自動車には、「貨物」と「乗用」というふたつの区分がある。軽バンや軽トラックと呼ばれる4ナンバーの車両は貨物向けに作られており、軽ワゴンなどの5または7ナンバーの乗用車とは根本的に発想が異なる。貨物車は荷室の広さや耐久性、税制上の優遇を重視しているのに対し、乗用車は居住性や内装の質感が優先される。

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 EC市場の拡大にともない、配送現場ではこうした軽貨物車が欠かせない存在になった。街中で、宅配便の荷物を荷室いっぱいに積んで走る軽バンの姿は珍しくない。しかし貨物向けに作られていても、あくまで軽自動車である以上、サイズや積載量には限界がある。

 例えばダイハツのハイゼットカーゴの場合、荷室長は1915mm、幅は1270mm、高さは1250mmに過ぎない。容積だけを見れば、積載量に目をつぶっても問題なさそうに感じられるが、実際には違う。

 道路運送車両の保安基準では、軽貨物の最大積載量は350kgと決められており、車両ごとに個別の認可値も設定されている。軽自動車が配送業務の中心を担ういま、この基準は安全な運行を確保するだけでなく、事業の安定性にも直結する。では、なぜ見た目には余裕のある軽貨物でも、これほど

「明確な重量制限」

が求められるのだろうか――。

過積載が招く制動距離の延長と事故リスク

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奈良県トラック協会のウェブサイト(画像:奈良県トラック協会)

 奈良県トラック協会が公開する試験データによれば、定量積載時に約50mで止まる大型トラックは、積載量が40%増えると制動距離が約59mに伸び、80%超となると約70mまで必要になる。

 こうした制動性能の低下は、軽貨物車でも例外ではなく、重大事故に直結する危険をはらむ。重量の増加は重心を高くし、走行の安定性を損なう。特に曲がり角では遠心力が作用し、車体が不安定になれば対向車線への逸脱や横転といった事態が現実味を帯びる。

 衝突時の衝撃は速度と重量に応じて大きくなるため、過積載の状態では制限速度を守っていても被害が拡大しやすい。死亡事故や重傷事故に至る可能性も否定できない。また積載超過が常態化すればブレーキやサスペンションに負荷がかかり、車両の寿命を縮める要因になる。

 突発的な故障による稼働停止も増え、事業の安定性を揺るがしかねない。配送業務において安全を維持することは、そのまま信頼の基盤に直結しているのだ。

道路インフラを守るための重量管理

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住宅街を配達中の軽貨物のイメージ図(画像:写真AC)

 積載量が厳しく定められている背景には、道路そのものを守る必要性もある。

 国土交通省の「道路法施行規則等に関する説明」では、通行車両のわずか0.3%に過ぎない重量超過車が、道路や橋梁の損傷の

「約9割」

を引き起こしていると指摘されている。軽自動車のように一台あたりの重量が小さい車両でも、その影響を無視することはできない。ラストワンマイル輸送で使われる軽貨物車は、高規格の幹線だけでなく、住宅街の狭い路地や農道など、強度の低い道路を頻繁に走るからだ。

 過積載が続けば路面のひび割れや陥没が進み、公共インフラの維持には大きな費用がかかることになる。国土交通省の調査によれば、2024年度の宅配便取扱個数は50億3147万個に達し、前年度から0.5%増加した。そのうち「宅急便」「飛脚宅配便」「ゆうパック」の三大法人が全体の

「約95%」

を占める。宅配需要のさらなる増加が見込まれるなか、地域の生活道路という輸送の基盤を守るうえでも、積載ルールを守ることは欠かせないのだ。

強化される安全対策と事業者の責任

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軽貨物過積載のリスクとルール。

 現在、軽貨物車両の最大積載量350kg以下という基準は、1998(平成10)年の規格改正に由来している。過積載が安全な走行を阻み、道路や橋梁に負荷をかけることは前述の通りだが、配送需要の急増にともない、現場での管理は一層厳格さを増している。

 統計によれば、2016年から2023年にかけて、保有台数1万台あたりの事業用軽自動車による死亡・重傷事故件数は

「約4割」

増加している。こうした状況を重く受け止めた国土交通省は、2024年に法令を改正し、2025年4月から貨物軽自動車運送事業の安全対策を大幅に強化した。

 改正により、安全管理者の選任や届出、講習の受講に加え、業務記録の作成や事故報告も義務付けられた。特に過積載防止に関しては踏み込んだ内容になっている。重量超過を前提とした運行計画や運送の引き受け、指示は厳しく禁止され、荷役時のバランス確保や荷崩れ防止の措置についても細かく定められた。

 EC市場の成長は配送量を押し上げ、ラストワンマイルの重要性を高める一方で、事業者の社会的責任をかつてないほど重くしている。小回りの利く軽自動車は便利な道具であるが、その運用には規律が欠かせない。積載量を適正に管理することこそ、安全で長期的な配送業務の前提条件となるのだ。