ベネズエラを間接支配していたキューバ、筋金入り反米政権はトランプの狙い通りに転覆するほど脆弱ではない

ベネズエラの次はキューバ?(左:トランプ大統領、右:ルビオ国務長官(写真:UPI/アフロ))

トランプ政権によるベネズエラ・マドゥロ氏拘束でキューバが危機的な状況に直面している。キューバはベネズエラ産原油を安く輸入していたが、それができなくなった。トランプ大統領も「キューバは崩壊寸前だ」と語り、米紙もキューバで体制転覆が起きる可能性があると分析する。革命後、ラテンアメリカで反米運動の中心的役割を果たしてきた同国で何が起きているのか。キューバに詳しいアジア経済研究所・山岡加奈子主任研究員に聞いた。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

キューバの政権転覆は難しい

──米ウォール・ストリート・ジャーナルはトランプ政権が2026年内にキューバの体制転覆を画策する可能性を報じました。米ポリティコも、米国がキューバの石油輸入を阻止することを目的とした海上封鎖を検討していると伝えています。トランプ政権とキューバの出方をどう分析しますか。

山岡加奈子氏(以下、敬称略):トランプ政権は比較的容易にベネズエラの内政干渉に成功しましたが、キューバの政権転覆は容易ではないと思います。ベネズエラは政権の汚職がひどく、内通者が見つけやすかったのに対し、キューバの体制側は一枚岩で「寝返る」人物は少ないからです。

 事実、先のマドゥロ拘束の際、ベネズエラにいるキューバの情報関係者や軍人はアメリカの工作に乗らなかった、と報じられています。

 現に、アメリカの作戦ではキューバ人の警護員が32人死亡したと伝えられていますが、彼らもCIAをはじめとしたアメリカの買収工作を頑とし受け入れなかったことが想像されます。

戦死したキューバ人を悼む国民(写真:AP/アフロ)

 さらに2025年11月にはキューバのヒル元経済計画大臣が「CIAと通じていた」という理由で逮捕・起訴されています。一党独裁の革命政権、しかも約70年の反米の歴史があるキューバの体制側がそう簡単にアメリカの介入を許すとは思えません。

 実際、革命の指導者であるフィデル・カストロ時代も何度もアメリカからの工作を受けています。中にはカストロ暗殺計画もありましたが、体制側はこれを退けてきた。

 もちろん、軍事的にはアメリカとキューバは比較になりませんが、キューバの諜報体制は非常に強固です。ベネズエラのように簡単に、政権転覆は実現できないと思います。 

山岡 加奈子(やまおか・かなこ) アジア経済研究所 新領域研究センター グローバル研究グループ・主任研究員 1963年生まれ。1989年シカゴ大学大学院国際関係学科修士課程修了。編著に『現代ラテンアメリカ政治』(2025年、法律文化社)、『岐路に立つキューバ』(2012年、岩波書店)などがある。

 一方、アメリカのキューバに対する浸透工作はベネズエラへのそれよりも深いのも現実です。権力闘争に敗れたキューバのエリート層に対し「政権が変わったらあなたを大統領にする」という約束をしているかもしれません。

 いずれにせよ、アメリカが内部工作を公言した今、キューバ国内の相互監視は非常に厳しくなっていることが予想されます。

──トランプ大統領は「ベネズエラ産原油の供給が止まることで、キューバは崩壊寸前だ」としています。

キューバはベネズエラを間接支配していた

山岡:ベネズエラ産原油を輸入できなくなったことは経済的に痛手ですが、近年はメキシコからの原油輸入の方が多いという現実があります。

 基本的に、キューバは自国産の原油で需要の4割ほどは賄えます。確かに外から入ってこないのは経済的には非常に厳しいとは思いますが、崩壊寸前とまでは言えません。

 特に、キューバ国民の独立的な気質はベネズエラと異なります。ベネズエラ国民はマドゥロ拘束で大喜びしていたとのことですが、キューバは自国政府が米国に打倒され、米国に支配されることへの忌避感が強いです。革命前に米国に軍事占領されたことが2回あり、ネガティブな記憶が残っているからです。むしろ、アメリカの介入政策が行き過ぎると、逆に国民がさらに団結する可能性もあります。

 もちろん、若い世代はバイデン政権時に約30万人がアメリカ移住するなど、体制を支持していない可能性はありますが、今キューバにいる国民にとって、現在の政権に不満を持つことと、外国に介入されることとはまったく別問題なのです。

──そもそも、キューバのスパイがなぜベネズエラにいたのでしょう。キューバとベネズエラは反米政権として利害が一致していたということですか。

山岡:ベネズエラが正式に反米左派政権になったのは1999年ですが、キューバが現体制につながる革命を起こして反米になったのは1960年代です。ベネズエラはキューバから革命政権の運営方法を学んできました。

 具体的には軍人や諜報部員、医療関係者をキューバから招聘し、その見返りに原油を安く供給してきたわけです。

 端的に言って、キューバはベネズエラを間接的に支配していたと私はみています。実際、マドゥロが権力を握るとき、キューバ指導部がマドゥロを強く推薦したという見方も存在します。また、ボリバル革命を起こしたチャベスの警護者は軒並みキューバ人でした。

キューバ革命を主導したフィデル・カストロ氏(左)とボリバル革命を起こしたウーゴ・チャベス氏(右)(写真:ロイター/アフロ)

 ベネズエラは国内に大統領を支持しない層がエリートにも多く、チャベスもマドゥロも実際は同胞の軍人も政治家も信用していなかったのでしょう。だからこそ、強固な反米ナショナリズムと確かな実行力を持つキューバ人を厚遇し、そばに置いていたのです。

 ベネズエラに限らず、ラテンアメリカにおける反米左派運動の主導的役割を果たしてきたのはキューバです。50年代という冷戦最盛期に革命を起こしたキューバには、旧ソ連がスパイ養成方法や共産政権の運営ノウハウを伝授するなど、深く入り込んでいました。

 ニカラグアやチリ、グレナダなどの国々で左派政権が誕生したときも、キューバの軍人・顧問団が次々と派遣されたのです。

──トランプ政権の外交政策においては、ラテンアメリカの反米政権に対する締め付けが厳しく、特に中国と関係が深い国を非難しています。

中ロにとってキューバは「特別な国」

山岡:中国の覇権戦略として、キューバは重要な国です。経済的なコミットメントは油田のあるベネズエラと比較して控えめでしたが、アメリカとの物理的な距離の近さを考えたとき、関係を強化しておきたい国ではあります。

 政体も同じ一党独裁ですし、国是も民族主義・共産主義という点で一致しています。中国は非常にプラグマティックな国で投資回収に熱心ですが、キューバは例外でした。2016年にオバマ政権がキューバと国交回復する直前、キューバは中国に対して約60億ドルの債務を負っていましたが、中国がこれを放棄しました。

 スリランカなどの国に対して強固に債務返済を主張することを考えると、キューバは中国にとって特別な国だと言えます。同時期にロシアもソ連時代の債務を放棄しています。

 ロシアに関しても、キューバ国内にアメリカの南半分の通信傍受が可能な施設を持っているとされています。そう簡単に、キューバの政権転覆を許すとは思えません。もちろん、ウクライナ戦争の結果如何ではプーチンとトランプの関係性が改善する可能性も残されていますが。

 いずれにせよ、アメリカと競い合う中露にとって、地政学的にキューバは軽視できない国なのです。

──トランプ大統領は「(両親がキューバ出身の)ルビオ国務長官がキューバの大統領になることに賛成だ」とSNSで投稿しました。ルビオ氏は、キューバの体制側によい印象を持っていないのでしょうか。

山岡:ルビオ氏はそもそもアメリカ生まれで、キューバ革命を逃れてアメリカに向かった移民1世とは少し異なると思います。

 キューバ革命に対するトラウマを持ち、共産主義体制に忌避感を持っているのは、現在の80代以上の人たちでしょう。ルビオ氏はその息子、孫世代にあたりますから、革命制度に対する否定的感情は親世代よりも強くないと思います。

 さらに、アメリカ国内のキューバ人もキューバへの介入政策に対して限定的なものであって欲しいと願っている人たちが一定数います。彼らの親族はまだキューバに残っていて、アメリカからの送金がなければキューバで生きていけません。

 もちろん、アメリカのキューバ移民は統制経済と思想・言論統制に対しては強く反対しますが、親族の生死がかかっているアメリカによる武力攻撃・送金禁止に対しては否定的でしょう。

 現在報道されているようなキューバの海上封鎖による締め付けは餓死者が出る可能性もありますから、アメリカ国内のキューバ人がそれに賛成するとは思えません。

関連記事

ベネズエラ、「延命」狙いの支配階級vsマドゥロ拘束に安堵する国民…ロドリゲス暫定大統領はどう出る?

サイバー攻撃と一体化していた「マドゥロ拘束作戦」、驚くべき精密さだったカラカス停電はどのように遂行されたのか

中国に軍事力の違いを見せつけた米国の対ベネズエラ作戦、トランプ大統領のもう1つの狙いは「台湾侵攻抑止」か